【作品#0709】ジョン・ウィック:チャプター2(2017) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ジョン・ウィック:チャプター2(原題:John Wick: Chapter 2)

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

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【概要】

2017年のアメリカ映画
上映時間は122分

【あらすじ】

復讐を終えたジョンの元へ借りのあるサンティーノが仕事の依頼にやってくる。ジョンがそれを断ると、サンティーノによってジョンの家は破壊されてしまった。ジョンは友人で、世界各地の組織を束ねる「主席連合」の主席に就任しようとしているサンティーノの姉ジアナを殺害すべくローマへ渡る。

【スタッフ】

監督はチャド・スタエルスキ
製作総指揮はデヴィッド・リーチ
音楽はタイラー・ベイツ
撮影はダン・ローストセン

【キャスト】

キアヌ・リーヴス(ジョン・ウィック)
リッカルド・スカマルチョ(サンティーノ)
イアン・マクシェーン(ウィンストン)
ランス・レディック(シャロン)
コモン(カシアン)
ローレンス・フィッシュバーン(バワリー・キング)
ピーター・ストーメア(アブラム)
フランコ・ネロ(ジュリアス)

【感想】

前作の成功を受けて製作されたシリーズ2作目は、前作の2倍にあたる4千万ドルの予算に対し、全世界で1億7千万ドルのヒットを記録した。キアヌ・リーヴスとローレンス・フィッシュバーンは「マトリックス」シリーズ以来の、またキアヌ・リーヴスとコモンは「フェイク シティ ある男のルール(2007)」以来の共演となった。

前作で照明の果たした役割が大きいことは指摘してきた。本作においてもその照明の色使いは引き継がれており、特に冒頭から赤いネオンライト(もちろん血の色)、オレンジがかった黄色は各所に散りばめられている。

バイクと車を使ったカーチェイスが始まる前に建物に投影されているのは、世界三大喜劇王の一人でサイレント映画期のスター俳優だったバスター・キートンが主演した「キートンの探偵学入門(1924)」である。この作品がここで投影されているのにももちろん意味がある。前作も指摘したが、主人公のセリフを極力少なくしているのは、「映像だけで分かる」を基本としているからであり、セリフのないサイレント映画期のスター俳優をリスペクトする気持ちからであろう。

それから、「キートンの探偵学入門(1924)」は主人公が映写技師という設定である。その映写技師がフィルム上映してそれがまるでスクリーンに投影されているかのような演出がなされており、また、この作品の中でキートンは探偵のごとく事件を解決するが、それが夢だったというオチがある(映画的なオチはまた別なのだが)。本作が現実世界と離れたまるで夢の中の世界に入り込んだような世界観になっているところとも通づるだろう。

冒頭から何度かジョン・ウィックの姿は映るが顔まではっきり映るのは少ししてからである。そのジョン・ウィックの顔が初めて正面から映る場面は、前作同様に髪をセットしており、正面から見て左半分しか分からないように演出されている。キャラクターの顔が半分しか映っていないという演出も、事の全容が把握できない、表の顔と裏の顔、表社会と裏社会というのを反映しているし、本作の中でも何度も登場するモチーフである。

ジョン・ウィックは前作の敵だったヴィゴの弟アブラムから愛車のマスタングを奪うべく急襲をかける。カバーのかけられた複数の車からジョン・ウィックは自分の愛車マスタングをシルエットだけで見分けるというアイデアは素晴らしい(当初はカバーをかけていなかったが、キアヌ・リーヴスのアイデアでカバーをかけるという設定に変更したらしい)。

愛車を奪い返すために愛車をボッコボコにしてまで敵と戦う様子はもはやコメディ。本人が真剣であればあるほど笑えてくるし、後にオーレリオに修理を依頼する場面もおかしい。ちなみに、ジョンがアブラムと平和的な解決をする場面の音楽は、どう聞いてもセルジオ・レオーネの映画のエンニオ・モリコーネの音楽的であろう。ちなみに、ヴィゴの弟を演じたピーター・ストーメアはヴィゴを演じたミカエル・ニクヴィストと同様にスウェーデン出身の俳優である。

前作で掘り起こした地下室のコンクリート下に埋められた過去も再び埋めることになる。ところが、こんな作業もすべて無意味だったと言わんばかりに次の試練が待ち受ける。前作同様にドアに訪問者のシルエットが映る。前作では知人の警官がやってきて家の中の遺体を見ても立ち去ったが、本作はそうはいかない。ちなみに、ジョン・ウィックの家にやって来たサンティーノの車の色がありがちな黒ではなく白というアイデアも音声解説で言及されている。

一度は仕事を断るというのはこの手の映画のお約束ではあるが、家ごと吹っ飛ばしてジョン・ウィックが巻き込まれて死んだら意味がなくなるじゃないか。なんともメチャクチャな設定でありシークエンスである。

ジョンはかつて引退するために不可能な仕事を託されるが、その際に協力を依頼したのがサンティーノであり、誓印がその証である。なので、今度逆に依頼されたらそれに応じなければならないというものである。そして、その殺さなければならない相手がサンティーノにとっては姉にあたり、そしてジョンにとっては友人であるジアナである。この手の設定はかつての物語でも描かれてきたが、日本人であればやはり一宿一飯の恩義を思い出す。流れ者がある町で宿に宿泊するとなると、流れ者はその親分の言い分を聞かなければならないことがある。「緋牡丹博徒 一宿一飯(1968)」というタイトルの作品もあり、特に60年代後半から70年代前半の任侠映画においてよく描かれてきたことである。そして、その親分の頼み事は、大体が「誰かを殺してほしい」というものであり、その殺す相手は主人公の友人といった設定はよくあったことである。

そして、舞台となるイタリアのローマに向かうと、イタリアのコンチネンタルホテルでフランコ・ネロが登場する。フランコ・ネロといえば、セルジオ・コルブッチ監督「続・荒野の用心棒(1966)」などのマカロニ・ウエスタンに多数出演した俳優である。セルジオ・レオーネ監督作品には出演していないが、上述のエンニオ・モリコーネが音楽を担当したマカロニ・ウエスタンには出演している。

ジョン・ウィックがローマの街を歩くだけで様になる。スーツが似合う街としてローマを選んだと監督が言っていたが、まさに狙い通りだろう。

地図とスーツの仕立て、武器の調達を交互にテンポよく描いていく。スーツの防弾仕様はかなり賭けに出た設定だと感じる。主人公が銃弾を一発も浴びない不自然さから銃弾をくらっても戦えるためにどうするか考えた末の結果なのだろう。防弾チョッキだとキアヌ・リーヴスのアクションに支障をきたす可能性もある。また、アクションシーンのリアリティラインとこの防弾スーツという設定が、冒頭に著したどこか夢の中にいるのではないか、あるいは現実ではないどこか別の世界にいるのではないかという感覚を確かなものにする設定ではないかとも思えてくる。

ホテルでスーツに着替え、武器を確認しながら準備していく。どの武器を持ち、どこへどれくらい身につけるのかを観客に見せてくれるのは嬉しい。そして、ジョン・ウィックが掟を守るために友達だったジアナを殺さなければならない。ここで鏡越しに彼らが対面する場面は、チャド・スタエルスキ監督は音声解説で「一番好きな場面」だと言っている。そして、ジョン・ウィックがジアナを殺してから通路を歩いて来るシルエットのカッコよさは他に代えがたいものがある。

ジョン・ウィックは主席連合へ就任するサンティーノの姉ジアナを殺しにその会場へ侵入する。彼の逃走経路に銃を置いておくのは、「男たちの挽歌(1986)」でチョウ・ユンファ演じる主人公がレストランにいる敵を殺す前に通路にある植木鉢に銃を置いておくのを想起させる。

ただ、本作は逃走経路に置く武器が違ったものであり、武器を持ち替えることで戦い方も敵の倒れ方も音も変わってくる。この変化が長いアクションシーンでも飽きない要因だし、キアヌ・リーヴスのそれぞれの銃の扱い方を見比べるだけでも楽しい。本作ならびに本シリーズの白眉とも言えるアクションシーンである。

また、アクションシーン中でも緊張と緩和があるところも良い。特に耳の不自由な女殺し屋が立ちはだかる場面。耳の不自由な女殺し屋という設定であることから、映画内も一時的にほぼ無音の状態になる。それまで銃声をバンバン響かせていたのと対象的になる。ところが、いざ戦いが再開されるとそれまで以上の銃声を響かせることになる。

ジョン・ウィックは毎作品のように右側から車に轢かれる。ここまで徹底されていると、ジョンはかつての仕事で右目を負傷した影響を引きずっているのではないかと勘ぐる。そのジョン・ウィック対カシアンの格闘。スタントマンがなかなかの階段落ちを披露してくれる(ちなみに、これより凄いのが「ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023)」に登場する)。窓を破った先がコンチネンタルホテルで、そこでは仕事を禁じられているとジュリアスから諫められる。戦いを中断させる演出は様々あるだろうが、なかなか笑えるオチになっている。

本作全体に漂う妙にレトロな感じ。ジョン・ウィックがコンチネンタルホテルで受ける黒電話。エアシューター、交換手、パソコンに打ち出される文字のフォントと色(どうみても「マトリックス(1999)」っぽい)。コンチネンタルホテルのフロントで鳴り響く着信音もスマホというより携帯電話の着信音で、カシアンが手にするのも携帯電話である。この現代においてスマホではなく携帯電話を使っているところも現実世界ではない歪な世界観になっている。

本作のアクションシーンでは基本的に雑魚キャラのほとんどはいとも簡単にやっつけられてしまう。画面の横や手前から登場してジョン・ウィックになす術なく撃ち殺されるのがオチだ。本作では鉛筆を使って殺したことが伝説として語られる場面があり、ニューヨーク中の殺し屋から狙われる場面でその鉛筆を使った格闘シーンがある。そのシーンで二人の殺し屋がジョン・ウィックの前後にいる場面。前にいた殺し屋と戦い始めたジョン・ウィックの背後にいた敵が近づきながらズボンに差し込んでいた銃を取り出してジョン・ウィックを撃とうとして返り討ちに遭う場面になっている。この背後の殺し屋の動きはすべて映っており、とてもプロの殺し屋っぽい動きになっていない。これだったらこの殺し屋は撃たれるまで画面に映すべきではなかったと思う。

また、そのシークエンスは3つのアクションシーンを交互に描くというあまりお見かけしない工夫がなされている。おそらく、序盤で地図とスーツの仕立てと武器の調達の3つのシーンを交互に描いたことと重ねているのだろうが、残念ながら3つのアクションシーンを交互に描く演出は効果的とは言い難かった。ちなみに、ここで登場する太った殺し屋はYAMAという名前でアメリカで活動する元力士であり(2011年の八百長問題に関わったとして引退)、バイオリンを弾いている殺し屋は監督のチャド・スタエルスキの妻であり、スタントウーマンでもあるハイジ・マネーメーカーである。

美術館に乗り込むシーン。美術館で最後に敵を殺した後、銃をリロードした後に銃を持った手をひねって薬室確認する時のキアヌ・リーブスのかっこよさよ。ちなみに、音声解説ではキアヌ・リーブスが自身のアクションシーンでの動きを「これじゃ駄目だったな」と語っており、飽くなき向上心が感じられる。

そして、クライマックスは鏡の部屋を使った格闘シーンは、監督も公言しているように「燃えよドラゴン(1973)」からの影響である。何面もの鏡に映るジョン・ウィックたち。まるでどこに映る姿が本当の姿か分からず、ここも現実離れした印象のシークエンスに仕上がっている。また、その鏡に映るすべての様子は一度に見きることはできず、繰り返しの視聴を促すようにもなっている。

また、警察は前作にもジョンの家を訪れたジミー以外は登場しない。この手の映画にして、警察が登場しないというのも非現実的であり、繰り返しになるがやはりどこか現実離れしたここではないどこか違う世界という印象を決定づける要素の一つではないだろうか。

ウィンストンから1時間の猶予をもらったジョンはニューヨークの街を犬とともに駆け抜ける。ここにいる連中全員が殺し屋なんじゃないかと思えてくる。そんなわけないのにそうだと思わせる説得力があるし、まるでグラフィックノベルの映画化のようにセリフの一部は特徴的な字幕で表記されている。

ちなみに、「マトリックス」シリーズ以来の共演となったローレンス・フィッシュバーンは妙に仰々しい演技をしており、演説っぽい台詞回しはどこかサミュエル・L・ジャクソンのようでもある。ただ、このキャラクターはシリーズの肉付けにおいてある程度意味ある存在だが、シリーズ通して見ればどこか浮いた存在であったように思う。

前作の成功を受けて予算アップし、その分しっかりパワーアップしている。デザインされた映像美、前作とは異なる武器を使ったアクションシーンの構築、そしてそれを実現できるキアヌ・リーヴスという存在。シリーズの2作目という、難しいところを難なくクリアした印象さえある。

【音声解説】

参加者
├チャド・スタエルスキ(監督)
├キアヌ・リーヴス(ジョン・ウィック役)

上記2名による対話形式の音声解説。キアヌ・リーヴスが全編で音声解説を担当しているのは他にないはず。彼の人となりを楽しむうえでも十分な魅力ある音声解説になっている。アクションシーンが決まると「Oh!!!」と言ったり、自分のアクションがいまいちだと「あれは良くなかった」と正直に認めたりしている。また、キアヌ・リーヴスの話ぶりから、彼の考えるジョン・ウィック像もじわじわと浮かび上がってくる。さらに、共演者やスタントマンだけでなくスタッフの仕事ぶりも称え、連想する過去作品などの話にも花が咲いて映画人としての拘りも随所にうかがえる。

また、チャド・スタエルスキ監督は前作と統一した点、他の映画からの影響(レオーネ、ベルトルッチ、黒澤明、リュック・ベッソンなどなど)、撮影時のミス、キアヌ・リーヴスによるアイデアや提案(車を取り返しに来た場所に並んだ車にシートを被せさせた点、家に来たサンティーノにジョンがコーヒーを差し出す設定など)、ピーター・ストーメアやローレンス・フィッシュバーンの出演の経緯などについて話してくれる。

他にも、スーツを仕立てる役者が見当たらず衣装担当の者がキアヌ・リーヴスから当日演技指導を受けた話(なんと贅沢な!!)など興味深い話ばかりで映画本編並みに楽しめる音声解説である。

さらに、エンドクレジットが始まってチャド・スタエルスキ監督が音声解説を終わらせようという雰囲気を醸し出すと、キアヌ・リーヴスから「クレジットに出てきた人の話はしないのかい?」と言われ、結局エンドクレジットが終わるまで話すことになるのも面白い。とにかく本作が好きなら聞くべき音声解説。

 

【関連作品】

ジョン・ウィック(2014)」…シリーズ1作目
「ジョン・ウィック:チャプター2(2017)」…シリーズ2作目
ジョン・ウィック:パラベラム(2019)」…シリーズ3作目
ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023)」…シリーズ4作目



取り上げた作品の一覧はこちら



【予告編】
 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語/イタリア語/ロシア語/ヘブライ語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語/イタリア語/ロシア語/ヘブライ語)

├日本語吹き替え

音声特典

├チャド・スタエルスキ(監督)、キアヌ・リーヴス(ジョン・ウィック役)による音声解説

映像特典

├未公開シーン
├レトロウィック:前作の成功から現在まで
├予告編集

 

<BD(2枚組/コレクターズ・エディション)>

 

言語

├オリジナル(英語/イタリア語/ロシア語/ヘブライ語)

├日本語吹き替え

音声特典

├チャド・スタエルスキ(監督)、キアヌ・リーヴス(ジョン・ウィック役)による音声解説

映像特典(Disc1)

├未公開シーン
├レトロウィック:前作の成功から現在まで
├予告編集

映像特典(Disc2)

├ジョン・ウィックへの道
├プレビズがすべて
├ジョン・ウィックの奥深い闇の世界
├キアヌとスタエルスキ監督の友情
├カーフーの裏側
├ジョン・ウィックの本格アクション
├ジョン・ウィックの武器たち
├キル・カウント
├追悼スピーチ「ジョン・ウィックに殺された皆様へ」
├キアヌ&スタエルスキ監督来日時インタビュー
├「ドッグ・ウィック」

 

<4K Ultra HD+BD>

 

収録内容

├上記BDと同様