【作品#0696】ハート・オブ・ストーン(2023) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ハート・オブ・ストーン(原題:Heart of Stone)

 

【Podcast】 

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。 

 

Apple Podcastsはこちら

Google Podcastsはこちら

Spotifyはこちら

Anchorはこちら

Stand FMはこちら

【概要】

2023年のアメリカ映画
上映時間は122分

【あらすじ】

MI6でIT担当の新人であるレイチェル・ストーンは、実は世界平和のために活動する秘密組織チャーターの一員でもあった。チャーターは世界中のシステムを監視し操作できるシステムを使って犯罪を撲滅していたが、ある日ストーンは任務中に敵の急襲を受ける。

【スタッフ】

監督はトム・ハーパー
音楽はスティーヴン・プライス
撮影はジョージ・スティール

【キャスト】

ガル・ガドット(レイチェル・ストーン)
ジェイミー・ドーナン(パーカー)
アーリヤー・バット(ケア・ダワン)
ソフィー・オコドネー(ノマド)
グレン・クローズ(ダイヤのキング)

【感想】

2020年にガル・ガドットが本作出演の契約を交わし、シリーズの1作目として企画され、Netflixga配給権を獲得し、2023年8月11日に全世界に向て配信が開始された。ちなみに、「RRR(2022)」などに出演していたアーリヤー・バットのハリウッドデビュー作である。

かなり宣伝にも力を入れている本作だが、かつてのスパイ映画の丸パクリのような展開が続き、本作らしさはあまり感じられない。

まず、アバンタイトルのアクションシーンが長い。タイトルが表示されるのが本編が始まって約20分が経過してからである。その間にMI6の新人エージェントである主人公が実はチャーターという別の組織の一員であり、MI6のチーム員にバレないように自体を収拾する様子を描いていく。アバンタイトルのアクションシーンにしては長いし、この場面でそこまで描き切る必要性を感じない。

さらに、このアクションシーンは後のものにも言えるのだが、リアリティラインがあまり徹底されておらず、時折荒唐無稽なアクションシーンもある。雪山を滑り降りながらパラシュートを奪い、その滑る勢いそのままにパラシュートを開いて追いかけていく。ストーンは地上近くを低空飛行するのだが、彼女が通過するところだけ木々が生い茂っていない。以降はロープウェイのケーブルを伝ったり、バイクを奪ったりして、その間にチャーターのデータを元に危機を回避していく。

また、このストーンの行動次第でミッションの成功確率がリアルタイムで変更されていく。後にも触れるが、ストーンの行動次第で確率が変わっていくのなら、チャーターが出した確率は果たして信用できるものなのかという話になってくる。結局、ストーンが気を利かせたことでこの冒頭の任務は成功するわけだから、チャーターの表示した数値が低かったことの説明はどうつけるのか。人間次第で確率がコロコロ変わるのならチャーターの出す確率は信用ならないということになるはずだ。ところが、チャーターの責任者であるノマドはチャーターの出す数字を絶対的に信用している。このチャーターの位置付けが定まらないまま映画を進めてしまったことが本作の最大の失敗であると思える。

この一連のアクションシーンが終わると、タイトル、キャストやスタッフのクレジットが表示されてMI6本部の場面に移行する。そこではチームが作戦を成功させられなかったことで上司から叱責を受けることになる。しばらくは事務仕事をしておけと言われ、助手の女性から束の書類をチーム員が手渡される場面がある。これはチャーターという最新AIに対するアナログという意味合いだと好意的に解釈したが、MI6ともあろう組織が現代において書類で仕事の処理をさせるかね。

その後、チーム員で呑気に打ち上げをする様子が描写される。そこでは「チャーター」が実在するかどうかの話題になるのだが、後への伏線にしてはあまりにも急ぎ過ぎだし、違和感のある展開である。また、冒頭のシーンのときにストーンがどこにいたのか質問され、「トイレにいた」と答えているが、そんなことはその当日に聞かれて答えているはずだからここでそのやり取りをするのもおかしい。

そして、ストーンはそそくさとその場を後にすると、店外から窓越しにチーム員を意味ありげに眺める。これも後にストーンがチャーターの出す提案を退けて大切なチーム員を守ろうとするための行動をするための伏線として用意されたカットであると思うが、これも急ぎ過ぎだと感じる。ストーンが「チャーター」に所属する凄腕エージェントという設定なら、冒頭のちょっとしたやり取り程度でこのチーム員を「守らなきゃ」と思うには映画的にはどう考えても早い。これだと感情に左右される駄目なエージェントに見えてしまう。

その後、ストーンは「チャーター」の本部にやってくる。MI6のエージェントをやっている人間がチャーターの本部にのこのこやってくるのも違う気がする。MI6のエージェントはそれほど時間に余裕のある生活を送っているのか。仮にチャーターの本部に顔を出せるとしてもそんなに近所なのかという話である。映画的にはフラッと立ち寄ったくらいの感覚だったが、やっていることは二重スパイなんだからチャーターとのやり取りはあくまで非対面の方が説得力を増したと感じる。もしくは、ここにやって来るにしても尾行されていないか厳重に警戒する場面や、このチャーター本には相当なセキュリティがかけられているとかそういった描写は必要だったと思う。

また、冒頭の場面でMI6のシステムをハッキングしたのがダワンという女性であることが判明する。チャーターは彼女がリスボンにいる可能性が96%であるという数値を出し、その情報をMI6にリークし、ストーンのチームがリスボンに向かうように仕向ける。ストーンはその数値を聞いた後に「嫌な予感がする」と言っている。結果、その通りになるのだが、なぜそう思うのか、そう思った経緯が提示されないのも具合が悪い。ストーンが勘も冴え渡るエージェントであることを示すにはもう少し説得力をもたせる描写にすべきだったと思う。

リスボンに向ったチームは拠点となる場所に行くと音楽を聞いて踊っている。すると、敵の急襲を受けることになる。緊張と緩和であることは重々承知だが、彼らがリラックスできる状況になったことは一言説明しておけば済んだ話である。明日の朝に作戦を開始するから一休みできるとか何でも良かったんだが、なぜ彼らは到着早々呑気に過ごしているのかという話である。

案の定、敵の急襲を受けることになり、ストーンはチャーターの弾き出した逃走経路をジャックから知らされて一旦はその場を後にしようとするが、仲間を助けなきゃと感じて建物に戻り、持ち前の能力を活かして敵をやっつけ逃走することに成功する。上述のようにストーンが行動を変えるとチャーターの出す成功確率はコロコロ変わっていた。この一連のシーンではその成功確率は全く表示されず、ストーンがチャーターを無視して行動したということになっている。もしストーンの独断で行動したことが問題なら冒頭の場面でさえもストーンの行動は批判されるべきはずだ。この2つの場面のストーンの行動と本部の判断が映画的にはさっぱり分からない。ピンチになったらMI6のメンバーを捨てて逃げるように最初から計画されていたのなら理解できるがそういう訳ではない。

また、ストーンが身分を隠して潜入しているMI6の仲間を救う展開に移行するまでも早すぎる気がする。仲間がストーンを気遣う場面がいくつもあり、ストーンが彼らを裏切れないという気持ちにさせる描写があるのは理解できる。ただ、ここまであからさまだとストーンが彼らを裏切ることなく助ける展開はもはや当然であり、ストーンに葛藤すらないように見えてしまう。ここはチャーターの存在がMI6にバレてしまったらどうなるかというデメリットをしっかり観客に伝えるべきだったと思う。仮にMI6にチャーターの存在がバレてしまったとしても、同じ敵を追うのなら味方になるはずだし、チャーターの構成員を見るとどう考えてもアメリカっぽいので少なくとも敵対する関係にはならないだろう。なぜチャーターが秘密組織として活動しているのかも見せるべきだったと思う。

その後、何とか逃げ出した4人のメンバーだったが、パーカーが急にストーン以外の2人を射殺し、ストーンには毒をつけたナイフで傷をつけて麻痺させ、腕に追跡装置を入れられてしまう。その後、救助されたストーンは本部に搬送され、そこで追跡装置経由でチャーターはハッキングされてしまう。麻痺させられたストーンがいたのはリスボン(ポルトガル)である。そんな彼女が搬送されるのはチャーターの本部のあるイギリスである。あの状態ならリスボンで救急治療を受けるはずであり、わざわざイギリスまで連れてきて治療するわけがない。これがパーカーの狙いなのだとしたらちょっと都合が良すぎるぞ。上述のストーンの描写なら、パーカーがストーンを尾行すればこのチャーターの本部なんてあっさり見つけられたと思うし、もし毒の付いたナイフでストーンに傷を付けられなかったらどうしたのだろうか。

この一件により上司ノマドからストーンは停職処分を受けることになる。ストーンの指摘通り、チャーターはパーカーが裏切り者であることを見抜けなかったわけだ。だとしたらチャーターのことをノマドが信用し続ける意味は何なんだろうか。というか、チャーターの出した数字や提案をもとにノマドらがチーム員に指示を出していたわけなのだが、その数字や提案を受け入れるかどうかはノマドという人間次第という話になる。たとえば、ダワンがリスボンに入る確率が96%であり、その数字を元にノマドはストーンらをリスボン入りさせる決定を下している。この数値は96%であり、100%ではない。確かに96%という数値は限りなく100%に近いので、この判断に間違いはないように思うが、仮にこの数値が70%だったら、60%だったら、ノマドは同じ判断を下しただろうか。チャーターが万能かのように描いているが、結局は人間次第であり、このチャーターを元に活動している組織が特段優れているように見えないのが残念である。また、冒頭の描写ではストーンの行動によって確率はコロコロ変わっていた。チャーターも得た情報は常にアップデートされていくだろうから、彼らがリスボンに向っている途中でさえも数字はコロコロ変わっていたんじゃないかと思える。

また、後にパーカーが上述の行動を取った理由が明らかになるのだが、チェチェンでの作戦をチャーターに妨害されたことでチャーターを憎んでいるというものであった。その彼に関するデータは全くないという設定であった。各部門のキングらが集まる場面でパーカーの素性が明らかになるのだが、彼に関するデータはなくともキングらは知っていたのならなぜそのデータはチャーターに反映されていないのか。映画を進める上で都合のいい情報だけチャーターが知っているということにしていないか。

停職処分を受けたストーンは単独行動を開始する。ダワンとパーカーが共闘して世界をハッキングできるシステム「ハート」を飛行船から奪取しようとする。ストーンはそれを阻止しようとするもパーカーに阻まれる。パーカーはストーンにトドメをさせる状況だったが、飛行船爆破の時間が迫っていることもあり飛行船からヘリコプターへ移動する。何とか立ち上がったストーンは飛行船の外に出てヘリコプターからぶら下がるハシゴにぶら下がる。すると、飛行船は爆破して、ストーンとダワンはパラシュートで地上に落下する。あんな近距離で爆破が起こればヘリコプターも爆風に巻き込まれることだろうが、そんなことはお構いなしである。

そして、ストーンとダワンは砂漠に落下し、通りかかった車に乗って町まで移動することになる。すると、車が停車した状態で敵からの銃撃を受ける。そこで、ストーンは助手席から飛び降り、車の足元に置いた(落ちた)銃を取ろうとするが車に乗ったままのダワンに銃を奪われてしまい、ストーンはそのまま走って逃げることになる。スパイのプロともあろうストーンが銃撃を受けて車から飛び降りる際に銃を置いたままにするとは思えない(仮に落としたのだとしたら間抜けでしかない)。

その後、ダワンはパーカーと合流するのだが、この二人の目的が全く異なり、ダワンはパーカーを脅威に思うようになる。この二人は組んでいるのだから、彼らの目的が異なることは用意に想像できたはずである。ダワンが若さゆえにパーカーの思惑を見抜けなかったとは思えない。これほど目的の異なる二人が組めたそれなりの理由は提示すべきだったと思う。パーカーは最初からダワンを騙そうとしていたいとも感じない。もしダワンが最後までついてくるとパーカーが信じていたのなら見る目がなかったという話になってしまう。

というか、悪の側が絶望的に弱すぎないか。悪の側で顔と名前が一致したのはパーカー、ダワン、金髪の殺し屋くらいである。金髪の殺し屋は途中までストーンの敵として機能するが、アイスランドでアジトに向かう最中に死んでしまう。更には終盤にダワンはストーンの側に付いてしまうので、その時点で敵らしい敵はパーカーしかいないわけだ。金髪の殺し屋でさえそれほど印象に残るキャラクターではなかった。せめて、パーカーの側近みたいな殺し屋をあと数人は用意すべきだったと思う。

最終的にストーン、ダワン対パーカーという対決になるのだが、銃を持ちダワンを人質にしているパーカーが圧倒的に有利な立場であり、ストーンを撃ってしまえば済む状況である。なのに、ストーンのお説教をしっかり聞いたパーカーは、人質でまだ少女とも言えるダワンに腕を掴まれのけぞってしまう(いくらなんでも弱すぎないか)。そこから形勢逆転したストーンがダワンの協力を得てパーカーを殺す。定番といえば定番通りの終わらせ方だが、もっと良い結末は用意できなかったか。

ラストはストーンが現場の指揮を執り、ジャックが運転手、ダワンは投獄を免れる代わりにIT担当としてこのチーム入りを果たしている。チャーターの「ハート」は機械でしかないという発言をラストでストーンはしているが、結局どう扱うことになったのかは明示されない。チャーターはあれだけのシステムを持ちながらパーカーが敵であることもそれに伴う世界的な脅威も見抜けなかった。もちろんだからといってすべて使い物にならないとは言えないが、本作なりの結論は用意すべきだったと思う。「結局は人が必要」なんてことはチャーターが「ハート」を使う前からわかっていた話だろう。だとしたら本作で描いたことは何だったのかという話であり、多くの人が感じていることがそのまま映像化され、「そらそうなるやろう」という落とし所ではあまりスッキリしない。

アクションに関しては、リアリティに拘っていると感じる箇所がある一方、どう見てもCG満載の場面になっている箇所もある。そのリアリティラインはあまりに境界線が不明瞭であり、中途半端な印象は拭えない。振り返ってみても印象深いアクションシーンはほとんどなかったと言える。ただ、ガル・ガドットとハードボイルドなアクションという組み合わせは良かったので、もっとそっち方面に寄せた映画にしたら良かったのにと感じた。

割りと宣伝にも力を入れたアクション大作だが、どこかで見た光景ばかりで目新しさはほとんどない。特に「007」や「ミッション:インポッシブル」シリーズを彷彿とさせる場面が多い中、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE(2023)」と同じAIがテーマとあり、もろ被りしてしまったのは痛恨の極みだったんじゃないだろうか。主人公の葛藤などもほとんどすっ飛ばされ、キャラクターとしてほとんど印象に残らなかったのも痛い。おまけに悪役側も全く怖さがなかった。

雪山の上の施設といえば「女王陛下の007(1968)」、スパイものでロープウェイといえば「荒鷲の要塞(1968)」、スパイが仲間を優先させる展開は「ミッション:インポッシブル/フォールアウト(2018)」、中盤前に味方がほぼ全滅にする展開は「ミッション:インポッシブル(1996)」、砂漠の中を二人で歩く様子は「007/慰めの報酬(2008)」など、かつてのスパイ映画の(良く言えば)オマージュが満載ではある。ただそれが映画の面白さには直結しておらず、この出来だとシリーズ化も厳しいのではないだろうか。



取り上げた作品の一覧はこちら



【予告編】

 


【配信関連】

<Netflix>


リンクはこちら