【作品#0694】バービー(2023) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

バービー(原題:Barbie)

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

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【概要】

2023年のアメリカ/イギリス合作映画
上映時間は114分

【あらすじ】

バービーランドに住む定番タイプのバービーはある日、自分の死について考え始め、変てこバービーに相談する。すると、現実世界のバービー人形の持ち主の考えがバービーランドのバービーに反映されるらしく、現実世界のバービー人形の持ち主を探す旅に出る。

【スタッフ】

監督はグレタ・ガーウィグ
脚本はグレタ・ガーウィグ/ノア・バームバック
音楽はマーク・ロンソン/アンドリュー・ワイアット
撮影はロドリゴ・プリエト

【キャスト】

マーゴット・ロビー(バービー)
ライアン・ゴズリング(ケン)
ウィル・フェレル(マテル社CEO)
ケイト・マッキノン(変てこバービー)
マイケル・セラ(アラン)
アメリカ・フェレーラ(グロリア)
アリアナ・グリーンブラット(サーシャ)
リー・パールマン(ルース・ハンドラー)

【感想】

2009年から始まった本作の企画はユニバーサルからソニーに引き継がれ、2018年にワーナーに移管されてから本格的に始動して映画化が実現した。

まず、公開時の騒動から触れておきたい。アメリカでは「バービー」と原爆の父を描いた「オッペンハイマー」が同時公開され、X(旧Twitter)上で「#バーベンハイマー」という造語まで作られるほどの話題となった。また、X上で様々なコラ画像がアップされ、中にはバービーと原爆のキノコ雲を合成した画像も投稿され、その投稿に対してアメリカの公式アカウントが好意的に受け取れるコメントを返信したことで日本のユーザーから批判が相次いだ。これを受け、ワーナーの日本法人が声明を発表し、後にアメリカのワーナーが全世界向けの声明で謝罪を表明する事態になった。

これに関してまず言及しておきたいのは、著作権に対する映画会社の姿勢である。そもそもコラ画像の作成ならびにインターネット上への投稿は著作権違反である。話題に便乗して映画をヒットさせるためなら著作権違反は許容するのか。そもそも映画会社は著作権違反と戦う立場に立つことが多いだろう。その映画会社の公式アカウントが著作権違反する画像に便乗するようなことをして良いのか。もし映画会社が著作権違反と戦うことになっても世間の賛同を得られなくなってしまうぞ。

そして、公式アカウントがバービーとキノコ雲のコラ画像に好意的な返信をした件についても触れておきたい。ワーナーには当然多くの広報担当がいて、本作ほどの大作映画となればその担当者も複数いることだろう。また、Xの公式アカウントの担当者となれば、世間の流行に乗り遅れないための「瞬発力」「反射神経」といった能力も問われることになるだろう。そんな中でバービーとキノコ雲のコラ画像に対して好意的な返信をしたという事実を鑑みると、その会社での教育、またその担当者の受けてきた教育や政治的思想なんかも色濃く反映されることになるはずだ。

公式アカウントでどのような投稿にどのようなリアクションをしたら良いのかは当然、会社内でルールが設けられているはずだ。そんな中でこういった投稿がなされたということは、担当者が「そこまで深く考えずにした」可能性は高いと思う。ただ、日本とアメリカでは原爆、ならびに日本への原爆投下に関する考え方は大きく異なるものがあり、「原爆を落としたから戦争が早く終結した」と考えるアメリカ人もいることだろう(日本にもいるとは思うが)。にしては、原爆で被害を受けた人たちへの配慮をあまりにも欠いた行為だったことは言うまでもない。

また、各国で上映禁止の措置も取られている。中でも問題なのがバービーが変てこバービーを訪れた際に登場する粗い世界地図である。その「ASIA」と書かれた大陸の右側に「九段線」という点線が描かれているのだ。これは中国が勝手に自分たちの領海だと主張している海域であり、周辺国の反対で裁判により中国の領有を認めない判決も出ている場所だ。以降も中国が領海を主張し続けており、その問題は解決をしていない。そんな中でベトナムは上映禁止となってしまった。

そして、フィリピンでも上映禁止の可能性があったが、8つの点線であるため、「これを九段線と言える根拠はない」として公開に踏み切っている。ただ、この点線をあえてこの粗い地図の中に入れる必要があったとは思えない。大陸や島は実在するから実線になるが、中国の主張する領海に点線を入れる必要はないだろう。

他にもLGBTQの問題で上映禁止になった国の話もあるが、少なくとも「バーベンハイマー」の一件と「九段線」の一件だけ見ても映画の評価を下げざるを得なくなってしまう要素であることは間違いない。本作の中でバービーランドと人間世界を対比して描いているが、この問題は映画の世界と現実世界の対比になってしまっている。

ようやく映画本編の話に移行するが、グレタ・ガーウィグ監督らしい作品であり、単純化、省略が物語を分かりやすくしてここまでヒットしたのだろうと思う。グレタ・ガーウィグ監督は「レディ・バード(2017)」にしても「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語(2019)」にしても、主人公が自分の知らない世界を知るという話でもあった。その流れから本作を見ると当然ながら納得できるものはある。そこに男性キャラクターが大きく関わってくるところは彼女の作品では一番かもしれない。

バービーランドというすべてが完璧で何も変わらない日常だったが、ある日異変に気付いてバービーとケンが人間社会に辿り着くと、女性がある意味支配するバービーランドとは正反対の男性社会が待っていた。バービーを製作し、そして本作の製作にも携わっているマテル社でさえ、重役はすべて男性である。それにバービーは失望し、また男性社会であることにケンは大喜びする。

この人間社会の描写はバービーランドの対称ということでかなり単純化された印象はある。ガテン系の男たちはセクハラまがいの言葉でバービーをナンパし、男たちはジムで汗を流して体を鍛えている。また、スーツを着た男はケンに「男社会であることをうまく隠している」と話している。

もし完璧なバービーランドの対称としての現実社会なのであれば、3人に1人が肥満とされるアメリカの現実世界にもっと太った人は出てくるべきだろうし、価値観の変化に適応した人間も登場すべきだろう。ケンが目にする男社会はちょっと都合が良すぎないかと思う。彼が目にする映像はどれもこれもが70年代から80年代の粗い映像で、ジョン・トラヴォルタやシルヴェスター・スタローンらが映る。中でも登場するポスターは「ロッキー2(1979)」「ロッキー3(1982)」「ロッキー4/炎の友情(1985)」である。特にスタローンがマッチョ化していった頃で、また同時に古臭い男臭さが映画内でもバリバリ描かれていた80年代である。

やはりここは疑問が残る。なぜケンは現代のアメリカにやって来たのに、もっと前の価値観を手にするのか。確かに粗い映像で示されていたような昔の価値観が現代にも引き継がれているものはあるだろうし、中には上述のようにその当時の価値観を持っていながら隠して生きている人もいるだろう。そうではないもっと現代的な考えの人に出会わないのは恣意的に見える。できればそういう人もいるのにケンが気付かないという描写の方が説得力が増したと思う。

結局、人間社会は男が支配していると思って、就活するも「男だから」という理由だけではどこも雇ってもらえず、バービーランドで「ビーチにいること」が役割のケンはビーチにいることを仕事にすることもできずにバービーランドに帰ってしまう。そこでバービーランドの女性たちを洗脳してケンダムというケンのための王国を作り上げていく。女性たちを洗脳する過程は省略しているが、これは大事な要素だったんじゃないかと思う。免疫がないから簡単に洗脳されたという設定だが、ケンがどういう文句で洗脳したのかは見せるべきだったと思う。ずっと女性社会のバービーランドでケン一人が頑張ったとてそんなにあっさり洗脳できるとは思えない。

その事態に気付いたバービーは変てこバービーらと共闘して洗脳されたバービーたちの洗脳を解いていくのだが、この過程もほとんど描かれない。洗脳を解くのはとても力のいる作業だと思うが、ここもあっさりし過ぎだと思う。その後、ケンに引き語りをさせていい気にさせて、男の嫉妬心を煽り、ケン同士で争わせるのはなかなか面白い。

最終的にケンはケンであることを受け入れる結末になる。ケンは「男社会と馬が何の関係もないことに気付いた辺りから興味をなくしていた」と言っているが、だとしたら何がケンを突き動かしていたのか。このセリフの意図もやや理解しがたい。男社会を築きたいと考える男は実はそれに興味を持っていないとでも言いたいのか。確かに本来はそう考えていないという設定じゃないとこの結末にもならないとは思うが。

このケンはイケメンでマッチョであること以外に何もない男である。別にそれでも良いんだが、ただそれを受け入れるだけってちょっとかわいそうな気もする。バービーに用意した結末に比べると進歩的には見えない。

また、バービーの物語に話を戻す。バービーは自分の持ち主だと思っていた少女のサーシャが冷めた考えを持っており、バービーをけちょんけちょんに貶して泣かせてしまう。この4人の女の子のうち最後にセリフのある女の子が「私は好きよ」と言うところは良いと思う。女の子全員が冷めている訳ではない。

このサーシャは母親のグロリア、バービーと共に行動することで考え方が変化していくのだが、この変化もかなり早急に見えるし、単純化されている。サーシャは思春期で、母親からの愛情表現を嫌がっており、ちょっと身につけた知識で背伸びしているような女の子である。そんな彼女がバービーを救うために主体的に行動していくには描写が足らないと感じた。

バービーは人間世界にやって来て、バービーランドと違って男性社会であり、女性がそこまで活躍していないことにがっかりする。ただ、活躍する女性1人にも出会わないのもケンのパートと同じく違和感がある。場所によっては女性優位の職場もあるだろうし、女性の方が重役の多い会社だってあるだろう。物語の都合上、バービーやケンに知ってほしくない事実を伏せるのはある意味洗脳に近いものじゃないのか。この映画のテーマを考えると、ここで登場人物に与える情報があまりに選ばれているのは違和感があるし、それを皮肉として描いているような気はしない。

最終的に元の世界に戻らず、先に進もうとする姿勢は正しいと思う。また、「結末なんてない」と主人公が言うと「逃げ」のような姿勢にも見えるが、バービーにあらゆる選択肢が残されているという意味合いにおいてはありだろう。ただ、監督の描きたいことをラストで登場人物にセリフで説明させる展開はあまり好みではない。何人にも道は開けているというテーマなら映像でいくらでも表現できたと思う。

おそらく、意図してこれほど単純で分かりやすい物語にしたと思うが、それ故に少し物足らない作品になったように思う。また、映画の外の世界でのトラブルが間違いなく映画自体の評価を損ねてしまったのも事実だと思う。ただ、映画を観終えた後にあれやこれやと考えを巡らせてくれる作品を作ってくれたことは間違いないので、グレタ・ガーウィグ監督の次回作、ならびにマーゴット・ロビーの出演/製作の次回作には注目したい。



取り上げた作品の一覧はこちら



【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<BD+DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

映像特典

├バービーの変てこな世界
├夢のキャスト
├ミュージカルシーンの魅力
├バービーに変身
├ようこそバービーランドへ
├バービーのコスチューム

 

<4K Ultra HD+BD>

 

収録内容

├上記BD+DVDと同様