【作品#0686】ヴェロニカ・ゲリン(2003) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ヴェロニカ・ゲリン(原題:Veronica Guerin)

【概要】

2003年のイギリス/アイルランド/アメリカ合作映画
上映時間は98分

【あらすじ】

麻薬犯罪が激増したアイルランドで、ギャングと麻薬の関係を突き止めるために取材を続けたヴェロニカ・ゲリンの姿を描く。

【スタッフ】

監督はジョエル・シューマカー
音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
撮影はブレイダン・ガルヴィン

【キャスト】

ケイト・ブランシェット(ヴェロニカ・ゲリン)
ジェラード・マクソーリー(ジョン・ギリガン)
キアラン・ハインズ(ジョン・トレイナー)
ブレンダ・フリッカー(バーニー・ゲリン)

【感想】

ケイト・ブランシェットが実在した記者ヴェロニカ・ゲリンを演じ、ゴールデン・グローブでは主演女優賞にノミネートされた。また、「タイガーランド(2000)」「フォーン・ブース(2002)」といったジョエル・シューマカー監督作品でタッグを組んだコリン・ファレルは本作でタトゥーをした男として出演している。

私はヴェロニカ・ゲリンという人物をこの映画で知った程度の知識の人間だが、アイルランドでは街を歩けば顔を指さされるほどの有名人だったようで、本作でもそういった場面がいくつか出てくる。そんな彼女の顛末は冒頭で示される。主人公が死んだところから始まる映画もあるが、「アラビアのロレンス(1962)」などで用いられた演出であり、本作を鑑賞する多くのアイルランド人には周知の事実だったのだろう。

そんな記者のヴェロニカ・ゲリンはドラッグの危機が子供にまで迫りながらも、国がなかなか動き出さない状況を見て、たとえ相手がギャングだろうがお構いなしに突撃取材を敢行する。彼女をほとんど相手にしない人物が多い中、有名な記者に取材されたことで気を良くしたジョン・トレイナーのような人物も出てくる。ちなみに実名報道は名誉棄損になる為にできなかったようだ。

そして、彼女の行き過ぎた記者活動はついに命の危険にまで飛び火し、家に銃が撃ち込まれるだけでなくついに自身も脚を撃たれてしまう。銃の不具合で頭を撃たれなかったのは事実のようだ。それでも彼女はめげずにジョン・ギリガンの家に突撃取材をするが、そこではボコボコに殴られてしまう。今まで強がっていた彼女もついに母親を前にして涙を流すことになる。命を狙われて、また自身の家族が狙われるかもしれないという状況になって怖いと思わないわけがない。ベタな場面ではあるが、こういった場面が確実に映画に深みをもたらしているし、ケイト・ブランシェットの演技は終始素晴らしかった。

また、彼女と同じく記者をしている連中は彼女に対して冷ややかな視線を送っており、銃で脚を撃たれたのは自作自演だったと考える人もいたようだ。確かに、記者が行う仕事の範囲を大きく超えて活動していたヴェロニカ・ゲリンは、間違いなく嫉妬の対象だっただろう。また本作では描かれないが、同時に同じ記者と言うだけで危険が今まで以上に上がってしまった可能性もある。ラストの字幕で記者の死者数が表示されるが命懸けの仕事になっていたのだろう。

最後には映画の冒頭に戻って彼女が殺される場面が描かれる。ここまでやってギャングを本気にさせたら殺されてしまうのも見えてしまうものだが、その後の周囲の反応含めて恐ろしい気分にさせられてしまう。

ただ、彼女の死からようやく国が動き出し、憲法まで改正され、多くの犯罪者が捕まり資産が凍結され、犯罪率も大きく減少したと語られる。国が本気で動いて憲法が改正され、犯罪率が減るのだから、そのすぐに憲法改正できるところに国家としての身軽さも感じる(なかなか憲法改正すらできない日本とは好対照である)。

また、映画的にはヴェロニカ・ゲリンとジョン・ギリガンの間で板挟みになるジョン・トレイナーが最も魅力的だった。なにせ名優キアラン・ハインズが演じており、物語的にも映画的にも最も「おいしい」役だったであろう。とにかく印象に残るキャラクターだった。

あとは、舞台をアイルランドにしただけあり、極力アリルランド出身の俳優で統一されているようだ。カメオ出演的なコリン・ファレルやブレンダ・フリッカーはアイルランド出身の有名な俳優であり、キアラン・ハインズもイギリスではあるが北アリルランドのベルファスト出身の俳優である。それ以外のキャストは普段よく見るハリウッド映画で見かけることも少なく、そこが本作を「らしく」している要素であると感じる。

映画の上映時間は99分と、この手の映画にしては短めである。まるで彼女の短かった生涯を象徴するかの如くテンポよく彼女の死までの2年間を描いていく。職人監督の印象の強いジョエル・シューマカー監督だが、そんな彼の作品の中でも特別な輝きを放っていると感じる。

【音声解説1】

参加者
├ジョエル・シューマカー(監督)

監督のジョエル・シューマカーによる単独の音声解説。ジェリー・ブラッカイマーからオファーを受けた話、多くのロケ地を強行スケジュールで回った話、ヴェロニカ・ゲリンについては知らなかったこと、ケイト・ブランシェットがブレイクする前に「8mm(1999)」で起用しようとしたが彼女のスケジュールの都合で断念した話、オーストラリア出身のケイト・ブランシェットがアイルランド訛りを取得して周囲から褒められていた話、それ以外に起用したアイルランドの俳優の面々、ヴェロニカ・ゲリンの家族とも仲良くなった話、結果的にジョエル・シューマカーにとって個人的な思い入れの強い作品になった話などしてくれる。

【音声解説2】


参加者
├メアリー・アグネス・ドナヒュー(脚本)
├キャロル・ドイル(原作/脚本)

上記2名による対話形式の音声解説。原作を書き始めた時期の話、主題で訪れた実際の場所、事実とは異なるが観客に納得させるために変更した箇所、ヴェロニカ・ゲリンがアイルランドでどれほどの存在だったか、またセンセーショナルな記事を書いていたことで周囲の記者からあまり良く思われていなかった話、当時のアイルランドの法律で実名報道できなかった話、トレイナーの実際の録音した話を聞いた印象など、取材を重ねたからこそ知ることのできる、映画を観ただけでは分かりえない情報を多数提供してくれる。



取り上げた作品の一覧はこちら



【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ジョエル・シュマッカー(監督)による音声解説
├メアリー・アグネス・ドナヒュー(脚本)、キャロル・ドイル(脚本/原作)による音声解説

映像特典

├メイキング・オブ『ヴェロニカ・ゲリン』
├ジェリー・ブラッカイマー、映画『ヴェロニカ・ゲリン』を語る
├未公開シーン:ヴェロニカの受賞スピーチ
├実録映像:ヴェロニカ(本人)の受賞スピーチ
├プロデューサーによるフォト・ダイアリ