【作品#0667】タイガーランド(2000) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

タイガーランド(原題:Tigerland)

【概要】

2000年のアメリカ/ドイツ合作映画
上映時間は101分

【あらすじ】

ベトナム戦争真っ只中の1971年のアメリカ、ルイジアナ州のポーク基地。ボズは新兵が除隊できる方法を助言していたことから上官から目を付けられていた。ある日、ボズは部隊長に任命される。

【スタッフ】

監督はジョエル・シューマカー
音楽はネイサン・ラーソン
撮影はマシュー・リバティーク

【キャスト】

コリン・ファレル(ボズ)
マシュー・デイヴィス(パクストン)
クリフトン・コリンズ・Jr(マイター)
シェー・ウィガム(ウィルソン)
マイケル・シャノン(フィルモア)

【感想】


後に「フォーン・ブース(2002)」「ヴェロニカ・ゲリン(2003)」でもタッグを組むことになるジョエル・シューマカー監督とコリン・ファレルにとっての初タッグ作品。

ボズは問題児であり、上官からは常に目を付けられている男である。目を付けられている理由は、ボズが精神を病んだ新兵に除隊できる正しい方法を教えているからである。ボズのその行動は決して上官への反発心から来るものではなく、おそらく本気で人の命を心配できるだけの心を持っているからだと感じる。

ただ、上官はボズのことを「面倒を起こす奴」「言ってほしくないことを言う奴」として思っている。上官はボズに「お前みたいな奴は初めてじゃないぞ」と言っており、罰を与えたり苦しめたりすればコントロールできると思っている。さらに、ボズが軍隊を辞めたいからそうしているのだと思っている。だが、ボズはその辺りも含めてすべてお見通しである。

また、上官らは自分たちの部隊から精神疾患を理由に除隊する者が増えると当然上からの評価に関わってくる。その観点が見えてくると、その基地でトップに当たる上官でさえも、上からの指示で動いている一人の軍人に過ぎないと気付いてくる。その上官がボズに「殺すぞ」と言ったところで、ボズは上官が自分を殺せないことを分かっており、「お前に俺は殺せない」と断言する。そのやり取りの後、ボズと上官が二人で話す場面があるが、上官は完全にどうして良いか分からなくなっている。

そうすると、上官らはボズを小隊長に任命することにする。問題児のボズに小隊長という役職を与えることで責任を負わせ、今まで通りの行動を出来なくする作戦に出る。輪を乱すこと自体が目的ではないボズに責任を負わせることは正しいように映る。

すると、ボズもこの小隊で問題が起こらないようにと思い始めるようになる。また一方で、ボズの敵は上官ではなく、彼に妬みを持った同じ兵士のウィルソンであることが分かってくる。射撃練習中にウィルソンは銃をボズに向けてきた。命の危険を感じたボズは上官にウィルソンの処分を訴えるが、上官はなかなか動かない。もしボズが上司に対して従順な小隊長であればウィルソンは適切な処分を下されたのではないかと思う。

ラストはタイトルにもなっている「タイガーランド」と名のつけられたベトナムの戦場を再現した場所での訓練である。ウィルソンは実弾を装填した銃でボズの命を狙いに来る。冒頭からずっとそうだが、彼らはアメリカ国内でアメリカ人同士で揉めているのだ。泥沼化したベトナム戦争に世間の目も厳しく、兵士たちのモチベーションを上げるのも大きな問題であったことは容易に想像がつく。

ボズは精神的に弱ってきていたパトリックの目の前で空砲を撃ったことであえて負傷させて除隊させることにし(そういやコリン・ファレルは主演した「ヒットマンズ・レクイエム(2008)」でも空砲を使って相手の目を負傷させる場面があったな。)、ウィルソンは実弾を使ったことでオブザーバーによって取り押さえられることになる。

やはりボズは仲間の命を誰よりも考える男なのだと思う。たとえ目を負傷したとしても命がなくなってしまえば元も子もない。ボズはベトナムを経験していないが、「この精神状態ならベトナムに行ってもすぐに死んでしまう」と判断できる目を持っていたのだろう。ラストのパトリックのナレーションでは、ボズの行方が分からないと語っていた。少し「神話」的な描き方なのだろう。

また、ベトナム戦争の最中、ベトナムではなくアメリカにいる段階でアメリカ人同士が精神をすり減らして命を奪い合おうとしている。「だからベトナム戦争に負けた」なんて思わないが、戦争とは何なんだろうかと考えさせられるだけのメッセージは本作にしっかり込められている。

本作は商業映画でもないし、コリン・ファレルだって当時のハリウッドでは誰も知らない新人。興行的にはさっぱりの作品だが、一見の価値は十分にある。ジョエル・シューマカーが数年前に「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲(1997)」の監督をしていたとは到底思えない。

【音声解説】

参加者
├ジョエル・シューマカー(監督)

監督のジョエル・シューマカーによる単独の音声解説。自らのフィルモグラフィーの流れにおける本作の位置づけ、ざらついた映像、なかなか決まらなかった音楽、短い撮影期間において役者が作り上げたキャラクター像、あえて知られていないキャストを起用した意図などについて語ってくれる。

中でも、コリン・ファレルを起用するに至った話は大変興味深かった。もしボタンの掛け違えがあればコリン・ファレルは本作に主演することはなかっただろうし、スター街道を駆け上がることもなかったと思うと奇跡のような話である。



取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

 

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ジョエル・シューマカー(監督)による音声解説

映像特典

├真実の“特殊訓練基地”
├監督インタビュー:『タイガーランド』回想
├ロス・クラヴァン:脚本ができるまで
├コリン・ファレルのオーディション風景
├メイキング・オブ・『タイガーランド』
├オリジナル劇場予告編
├TVスポット