【作品#0567】ヒットマンズ・レクイエム(2008) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ヒットマンズ・レクイエム(原題:In Bruges)


【Podcast】


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【概要】

2008年のイギリス/アメリカ合作映画
上映時間は107分

【あらすじ】

ロンドンでの仕事を終えた殺し屋のレイとケンは、ボスのハリーの指示によりベルギーのブルージュを訪れる。ハリーからの連絡を受けたケンは、仕事で誤って子供を殺してしまったレイを始末するように指示されるが…。

【スタッフ】

監督/脚本はマーティン・マクドナー
音楽はカーター・バーウェル
撮影はアイジル・ブリルド

【キャスト】

コリン・ファレル(レイ)
ブレンダン・グリーソン(ケン)
レイフ・ファインズ(ハリー)
クレマンス・ポエジー(クロエ)

【感想】

短編映画「シックス・シューター(2004)」でアカデミー賞短編映画賞を受賞したマーティン・マクドナーにとっての初の長編映画。後に「セブン・サイコパス(2012)」「イニシェリン島の精霊(2022)」でもタッグを組むコリン・ファレルとの初タッグ作品。アカデミー賞では脚本賞にノミネートされ、ゴールデングローブではコリン・ファレルが主演男優賞を受賞した。

日本語タイトルは「ヒットマンズ・レクイエム」となっているが、原題は「In Bruges」となっており、直訳すれば「ブルージュにて」となる。そんな本作は殺しの仕事をとちったレイと相棒のケンがボスのハリーからブルージュに行くように言われてブルージュに彼らが到着するところから始まり、回想シーンを除けば映画が終わるまでブルージュを出ることはない。

基本的には殺し屋2人組を中心にした話であり、どこかクエンティン・タランティーノ監督の「パルプ・フィクション(1994)」を彷彿とさせるものがある。それはマーティン・マクドナー監督の次回作「セブン・サイコパス(2012)」で如実であり、なんといっても「パルプ・フィクション(1994)」に出演していたクリストファー・ウォーケンが出演しているくらいだ。また、ブラックコメディであり、時折笑って良いのか戸惑うような場面もあり、それがマーティン・マクドナー監督のスタイルであろう。

ちなみに時代設定はなされていないが、携帯電話が出て来ず、「バンデットQ(1981)」に出演した俳優が自殺した話をしているので、1990年代前半が舞台ではないかと思う。

ちなみに、ケンがホテルで見ている映画は「黒い罠(1958)」のオープニングである。「黒い罠(1958)」のオープニングと言えば長回しで大変有名な作品であり、それに対するオマージュとして、この映画を見ている最中に電話がかかって来てから電話を切るまでが長回しになっている。この作品が使用されていることからも本作はフィルムノワールの雰囲気もある。太ったブレンダン・グリーソンの起用は、どこか「黒い罠(1958)」を監督し、「第三の男(1949)」などにも出演したフィルムノワールの代表的人物の1人であるオーソン・ウェルズを彷彿とさせる。また、暗い場面やファムファタールと思しき女性も登場する。

本作のテーマは天国、地獄、煉獄についてであろう。レイとケンが絵画を見る場面で、天国と地獄に関する話をしている。キリスト教カトリック教会の教義によれば、人は死んだ後に天国か地獄へ行くまでの間に煉獄に行くとされている。天国にも行けず、地獄に行くほど悪くもないやつが煉獄へ行き、苦行を積んで悪行を悔い改めれば、その後に天国へ行くことができる。レイとケンの関係性を考えれば、ケンはレイの父親的存在であり、また同時にメンターでもある。そして、ケンはこの宗教的な側面を導くキャラクターとも考えることができる。

ブルージュは観光地として知られ、中世の建築物などが多数残っている。ケンがハリーと電話する場面で言っているようなピザハットもないだろうし、ボウリング場もないだろう。これから苦行を積んで天国行きを望むのであれば、娯楽のある街であってはいけない。だから数あるヨーロッパの都市のなかでこのブルージュという街が選ばれたのだろう。

また、ケンが「俺たちは殺し屋だがそこまで悪人でもない。おばあさんがいれば、荷物を持ってあげる程の事はしないが、ドアを開けてあげることくらいはする」と言っている。ちなみに、後にジミーという小人症の男のホテルの部屋でドラッグを楽しんだ後に部屋を出る時、ケンはドアを開けてレイを先に通している。さりげない描写だが、口だけでなく自然な振る舞いにも説得力がある。他にも、空手チョップとかビンとかの件も伏線として回収されているので、何気ない会話シーンもしっかり聞いておく必要がある。

それから、このレイはまだ大人になり切れていない存在としても見ることができる。中世の建築物を見たって楽しくないからパブでビールを飲みたいと言い、映画の撮影をやっていれば走って観に行き、かわいい女の子がいれば追いかけ、ドラッグを見つけたら盗んで楽しみ、レストランでは喧嘩もするし、使っている言葉も汚い。ケンが寝ている間に帰って来たレイは、ケンにお構いなしに電気をつけて大きな音を立てる無神経ぶりを発揮している。後に自殺未遂をすることから、仕事で誤って子供を殺してしまったレイが現実逃避しているとも取れるが、大人と子供の間を彷徨う存在としても捉えることができる。

レイは、広場で小人症のジミーという男が出演している映画の撮影現場を見物する。年齢は中年に差し掛かろうかという男だが、映画的にはレイが殺してしまった少年と重なるキャラクターだろう。小人症の人は自殺率が高いという話をレイはやたらとしており、このジミーも自殺を考えたことのある男だろうと決めつけている。ちなみに、「バンデットQ(1981)」に出演した俳優で自殺したのはデヴィッド・ラパポートであり、1990年に自殺している。レイはその話をジミーにすると、「何言ってんだ」と一喝される。かつて自分は偶然居合わせた少年を撃ち殺してしまい、自殺願望の多い(とレイが勝手に言っている)小人症の男を何とか救いたいと(潜在的に)考えているのだろう。このジミーの命を救うことが煉獄での贖罪であるとするならば何と身勝手な話だろうとは思うが。

そして、レイは回想シーンを除けばずっと同じ服装をしている。これはレイが謝って子供を殺してしまった事実を受け入れられず、現実逃避して前進できていないことを示しているようである。

本作がフィルムノワールへのオマージュを捧げているとするならば、その手の映画に登場するのが男を破滅に導く女性のファムファタールである。映画の撮影現場で出会ったのがクロエという女性がファムファタールに該当するのであろう。彼女と良い関係になると、そこへクロエの元カレがやって来て危うく殺されるところだったが、素人であろうその男からあっさり銃を奪うと、空砲でその男を撃ち左目が失明するという負傷を負わせる。観光客相手に詐欺師をやっているという彼女と出会ったことで、彼女の元カレに命を狙われ、また終盤にハリーにレイの居場所を教えるのもこの男である。彼女と出会ったことでレイは、命を狙われ、さらには終盤にクロエの元カレがレイの居場所をハリーに伝えてしまうのだ。

ホテルでハリーからの電話を受けたケンは、仕事で子供を殺してしまったレイを殺すように依頼される。仕事で誤って子供を殺してしまったレイに同情するケンだが、ハリーへの恩もあるし、上司からの命令だから従わざるを得ずに公園にいるレイを殺しに行こうとすると、レイは銃を自分に向けていたので慌てて止める。ちなみに、カトリックは自殺も認めていない。

ケンはレイを殺すこともできず、またレイが自殺するのも許さず、電車でどこかへ逃げろと言う。レイを電車に乗せたケンは、ハリーにレイを逃げしたことを電話で報告する。すると、ハリーはイギリスからブルージュに向かうことにする。ハリーを出迎えたケンは、レイには成長する可能性があるから殺さないでくれと嘆願し、ハリーはケンからの処分を甘んじて受け入れると主張している。ハリーはレイが子供を殺してしまったことに対して、もし自分が同じことをしたらその場で自殺していると言う。またここでケンがレイを庇うのは、レイが苦行を積んでいる最中で、天国行きの可能性もあることを主張しているのだろう。ちなみに、レイは一度はクロエの元カレに銃を向けられ、さらにもう一度は自分で頭に銃を向けている。ハリーにとって二度もレイが死ぬチャンスがあったというのに、一度は無能なチンピラがダメにし、もう一度はケンが止めてしまったのだ。

ケンはレイとの別れ際に、「次の誰かを守れば良い」と励ましてくれる。その誰かはおそらくホテルの妊婦の女主人だろう。ここはプロットとしてはちょっと弱い気もするが、レイにとってその守るべき存在は当初こそ小人症の男ジミーだったが、彼は酒を飲み、ドラッグと売春婦を楽しむ普通の男であり、レイの思うような自殺願望も全くなかった。そうなると、本作の中で出てくる小さな命と言えば、ホテルの女主人と言うことだろう。レイが部屋に逃げ込み、ハリーが追いかけてくると、この女主人を挟んだ状態になる。レイは一度ハリーに銃を向けるが、手前に女主人がいることから銃をしまい、レイもハリーも妊婦に銃弾が当たる可能性のあるこのホテルで銃撃戦をするわけにはいかないとして場所の変更を提案している。

場面は少し遡るが、ハリーからの処分を受け入れると言ったケンは、2発喰らい、鐘楼を何とか登り、近くにいるレイに知らせるべくそこから飛び降りることを選択する(その直前にコインをばら撒いているのは下にいる人たちが巻き添えにならないためだろう)。空から人が落ちて来たことで騒然とする中、それに気付いたレイはケンに近付いて来る。そこで死にかけているケンからハリーが来ていることを知らされたレイはケンから拳銃を受け取るが、飛び降りた際の衝撃で完全に壊れてしまっている(非常にブラック)。

ハリーから追われるレイはホテルの部屋に逃げ込み銃を確保する。そこへハリーがやって来て、レイはホテルの部屋の窓から川を走るボートに飛び乗る。ハリーが銃を構えると、レイは「あれだけ離れていれば当たらない」と決め込むが、ハリーの撃った弾はレイに当たってしまう。やはりレイの考えは甘い。

何とかボートを降りたレイは夜道を彷徨っていると、ジミーの出演する映画の撮影が行われている現場に辿り着く。追いついたハリーは背中からレイを撃つと、その銃弾がレイに気付いて近付いてきたジミーにも当たってしまう。ジミーを子供だと思ってしまったハリーは筋を通すために銃で自殺を図る。

最終的に殺し稼業をやっている3人は全員死亡(映画内ではまだレイは生きているがあれだけ銃弾を喰らって生き残る方が不自然なのであの後死ぬことになるだろう)。映画的にはベルギーのブルージュを煉獄として描いているが、そこで苦行を積んだところで、レイもケンもハリーも所詮は殺し屋。担架に乗せられ救急車に運ばれるレイの心の声は本当の意味での反省、後悔だろう。この後レイは死ぬがおそらく少なくとも彼だけは天国へ行けるのかもしれない。

何気ない会話シーンに非常に重要なテーマが隠されており、それがキャラクター描写や映画全体をメタファーとしてうまく機能している。確かに、ミニマムな映画なのでキャラクター同士の結び付けがやや強引にも感じるが、フィルムノワールやタランティーノオマージュなど引き出しも多く、映画の完成度はなかなか高いと感じた。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

本作は2023年3月現在、セル版のDVDもBlu-rayも日本では発売されていません。レンタル落ちのDVDは中古市場でも出回っています。

また、輸入盤のBDを取り寄せることもできますが、日本語吹替や日本語字幕は収録されていません。

 

<DVD(レンタル落ち)>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声/映像特典

├なし

 

<BD(輸入盤)>

 

言語

├オリジナル(英語)

├フランス語

 ※日本語吹き替えは収録されていません。

字幕

├英語

├フランス語

├スペイン語

 ※日本語字幕は収録されていません。