【作品#0687】見知らぬ乗客(1951) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

見知らぬ乗客(原題:Strangers on a Train)

【概要】

1951年のアメリカ映画
上映時間は101分

【あらすじ】

妻ミリアムとの離婚を考えていたアマチュアのテニス選手であるガイは、ある日列車の中でブルーノという男性に声を掛けられる。ガイが妻ミリアムとの離婚を考えていることを知るブルーノは自身の父親の殺人を殺してくれたらミリアムを殺すと「交換殺人」を持ち掛けてくる。

【スタッフ】

音楽はアルフレッド・ヒッチコック
音楽はディミトリ・ティオムキン
撮影はロバート・バークス

【キャスト】

ファーリー・グレンジャー(ガイ)
ロバート・ウォーカー(ブルーノ)

【感想】

ガイを演じたファーリー・グレンジャーは、アルフレッド・ヒッチコック監督作品では「ロープ(1948)」に続いての出演となった。また、悪役ブルーノを演じたロバート・ウォーカーは精神科医が投与した鎮静剤と飲酒によるアルコールが相互作用を起こし、急性アレルギーにより32歳の若さでこの世を去った。ちなみに、本作はアメリカ公開版とイギリス公開版で異なる箇所がある。

ガイは男遊びを繰り返すミリアムを憎んでおり、どうやら不倫中のアンとの再婚を考えている男である。仮にミリアムが男遊びを繰り返していたとしても、ガイもアンという女性と遊んでいるではないか。しかも、そのアンの父親は議員をしており、ガイとアンの関係は認めているような感じだった。娘の交際相手が既婚者であるなんて議員の父親が認めるかな。この時代の映画にしては男女関係がゆるゆるだなと感じる。せめてガイは不倫などしていない設定にした方がもっとガイに感情移入できたと思う。

その後ミリアムが殺された報をガイが聞くのはアンの家である。そこでは一家がえらくガイを味方してくれる。百歩譲ってそれが良いとしても、映画的にはガイがミリアムの死に向き合う場面はないのは大いに気にかかる。ミリアムの家族(両親や兄弟、親族など)や友人は一切登場せず、彼女の葬儀の場面すらない。ガイとの間の子供ではないにせよミリアムは身籠っていたがそれもなかったかのように扱われている。

さらに、アン一家から「疑われないようにいつも通り行動する」ようにガイは言われ、テニスの試合も欠場することなく出場している。ミリアムの事を憎んでいたが、いざ彼女が死んだという事実に直面してガイの心情が変化する場面などがあるとドラマとして深くなったと思う。本作の描き方だと、不倫する女は死んで同然だが、不倫した男は悪くないと言いたげにも見え、男女の描き方にこれほど落差があるとはやや信じられない。

ちなみに、ミリアム殺害容疑のあるガイに警察官が張り込むことになるのだが、ガイが意を決してブルーノの屋敷を訪れる時には警察官はガイを尾行することもなく、ガイが警察官を撒いたという描写すらない。ちょっと都合の良い存在として扱い過ぎではないか。

ブルーノはガイのライターを所持しており、それを犯行現場になった遊園地に置いて、ガイの犯行だったことにしようとする。ミリアムが殺されてからかなり経過してからガイのライターが落ちていたとしてガイがミリアムを殺したという決定的な証拠にはならないだろう。というか、真っ先に疑われるのはミリアムの夫ガイよりも、一緒に遊んでいた男友達二人だろうに。彼らもミリアムが殺された場面以降登場することはない。

ラストは犯行現場となった遊園地に戻ってきて展開する。ガイのライターを犯行現場に置きに来たブルーノとそれを阻止しようとやって来たガイ、それからガイを追ってやって来た警察官がその場に居合わせることになる。その場に警察官が多数現れたことでブルーノはメリーゴーランドに逃げ、ガイも追いかける。そこで警察官の一人が発砲すると、メリーゴーランドを操作していた男に命中し、メリーゴーランドはとんでもないスピードで回り出し、警察官はメリーゴーランドに乗り込むこともできない状態となる。

メリーゴーランドでクライマックスを展開させるにしても、人がたくさんいる中で警察官が発砲して、メリーゴーランドを操作する男に命中して(おそらく)死ぬという展開は必要だっただろうか。これなら強引に乗り込んできたブルーノとメリーゴーランドを操作する男が接触することによって偶発的にメリーゴーランドが早く回り出すとかでも良かったと思う。ヒッチコック作品では警察官が無能であるとか、よく思われていない存在として登場することがあるのだが、本作のこの箇所はなかなか酷い。しかも、このメリーゴーランドを操作していた男が死んだことはなかったかのように展開して映画は終わる。これはミリアムが死んだのに誰もその死を悼まなかったところと重なる。

最後にはスピードに耐えられなくなったメリーゴーランドがもろとも破壊され、ブルーノは瓦礫の下敷きになってしまう。ブルーノが犯行時刻に遊園地にいた男から目撃され、かつ手にはガイのライターを持っていたことでガイの容疑はようやく晴れる。というか、ブルーノはスーツ姿で遊園地に来てミリアムを殺したのだが、スーツ姿の男が一人で遊園地に来ていれば目立つだろうに。しかも、男友達二人がいる中でよくミリアムを殺して立ち去ることができたな。いくら力のある男だったとしても首を絞殺すには相当な時間がかかるはず。この辺りのリアリティラインのなさは多少気になるし、ブルーノの犯行が結構間抜けであることで事件が解決に向かってしまうのもややガッカリ。

本作の悪役を演じたロバート・ウォーカーは確かに大きな印象を残した。印象に残るカットもあるし、彼が悪役だったことで本作は大きな評価を得たことだろう。ただ、本作で犠牲になる死者に対する扱いがあまりに酷く、あと妻が不倫中だったとはいえ自分も不倫をしておきながら最終的には潔白を証明して映画が終わるだけで良いだろうか。仮にガイをグレーな存在として描くならその方向で話を進めるべきなのに、「ガイは悪くない」のに疑われているサスペンスに終始してしまったものだから、余計に本作の弱点が目に付く形となったのだろう。世界的な評価を受けた作品だが、死者の扱い、男女の扱いの差に時代を感じずにはいられなかった。



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言語

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映像特典(Disc2)
├見知らぬ乗客/イギリス版
├ヒッチコック・クラシック
├M・ナイト・シャマランによる“見知らぬ乗客”
├被害者の見解
├ヒッチコック一族、ヒッチコックを語る
├ニュース映画

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語/フランス語)

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音声特典

ピーター・ボグダノヴィッチとヒッチコックの対談、ジョセフ・ステファノ、リチャード・シッケル他による音声解説

映像特典
├ビハインド・ストーリー
├ヒッチコック・クラシック
├被害者の見解
├M・ナイト・シャラマンによる“見知らぬ乗客"
├ヒッチコック一族、ヒッチコックを語る
├ニュース映画
├見知らぬ乗客/イギリス版