【タイトル】
SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(原題:She Said)
【Podcast】
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【概要】
2022年のアメリカ映画
上映時間は129分
【あらすじ】
映画会社ミラマックスのプロデューサーであったハーヴェイ・ワインスタインは多くの女優やアシスタントの女性に性的暴力を振るったり、振るおうとしたりした過去があったがすべて揉み消されてきた。ニューヨークタイムズ誌のジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーはその事実を公表すべく奔走する。
【スタッフ】
監督はマリア・シュラーダー
製作総指揮はブラッド・ピット
音楽はニコラス・ブリテル
撮影はナターシャ・ブライエ
【キャスト】
キャリー・マリガン(ミーガン・トゥーイー)
ゾーイ・カザン(ジョディ・カンター)
パトリシア・クラークソン(レベッカ・コーベット
アンドレ・ブラウアー(ディーン・バケット)
ジェニファー・イーリー(ローラ・マッデン)
サマンサ・モートン(ゼルダ・パーキンス)
アシュレイ・ジャッド(本人役)
【感想】
2017年にMe Too運動が巻き起こる契機となった、映画プロデューサーであったハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行に関する取材をしたニューヨークタイム誌の2人の記者を中心に描いた作品。
新聞記者2人が主人公となると、「大統領の陰謀(1976)」を思い出すし、近年の映画では、時系列的にその「大統領の陰謀(1976)」に繋がる「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(2017)」や「スポットライト 世紀のスクープ(2016)」辺りも想起させる。
また、このレイプものでキャリー・マリガンが出演となれば、「プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)」も思い出す。「プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)」では「レイプ」という言葉は出てこなかったが、本作には「レイプ」という言葉がはっきりと登場する。しかも、ジョディのまだ幼い子供がその言葉を使う場面である。「レイプ」なんてなければ「レイプ」なんて言葉を使うこともないし、それを子供が知ることもないはずなのに、記者としてだけでなく母親としても非常に悲しい場面である。
特に一個人を糾弾するのではなく、悪人を成敗できないシステムを糾弾すべきだというスタンスはまさに、「スポットライト 世紀のスクープ(2016)」のそれと同じ印象を受けた。被害を受けた女性への配慮という側面と、決してハーヴェイ・ワインスタインだけが悪人ではないという印象に持ち込むべく、ハーヴェイ・ワインスタインは役者の姿や声こそ確認できるが、はっきりとその顔が映らないように配慮されていた。また、当時の実際の音源が流れる場面こそあるが、実際にどのような性的暴行が行われたのかを映像で見せることもない。
一個人が悪として描けば、あるいは記事にすれば、「そいつだけが悪かったんだ」という印象を与え兼ねない。もちろんこの一件は、ハーヴェイ・ワインスタインが絶対的に悪いのだが、それを周囲が止めることができない、告発することができない状況になっていることも悪い。ハーヴェイ・ワインスタインの性的な誘いを断れば、業界から干されることになる。すると、今まで仲良くしていた業界仲間がハーヴェイ・ワインスタインの指示によりその女性を無視しなければならなくなる。権力を持ったハーヴェイ・ワインスタインに対して、誰も何も言えずに黙認するという状況が続いていた。しかも勇気をもって告発した女性がいたとしても、それに加われば自分も干されるかもしれないとして誰も力を貸さなかった。
このような強固な力を持った一個人をやっつける話はやはりハリウッドっぽい。冒頭にはミーガンの担当するドナルド・トランプとのやり取りが出てくる。ハーヴェイ・ワインスタインはハリウッドの多くの人と同じく民主党支持者で民主党関係者に多くの寄付をしていたのは知られているが、共和党へも寄付をしていたことが後に発覚。一個人が強固な力を持つというのもやはり共和党っぽい側面もある。
とにかく取材を地味に積み重ねていくという演出で、良い意味で癖がなく見やすい作品だったと思う。ハーヴェイ・ワインスタインが告訴されて収監されたことは多くの観客が知っていることだろうから、被害を受けた女性がいかにして声を上げていくかの過程がテンポよく、かつ丁寧に描かれていた。女性たちがどんな思いをしたか、あるいは20年前の出来事を現在どう感じているのかが伝わって来る。誘いを断ったことで干された人、戦おうとして頓挫した人、誘いを断る自分が悪いのではないかと思った人、賠償金を貰って守秘義務がありがんじがらめにされてしまった人など様々な女性が登場する。中には、かつての同僚から電話があり、「彼のことは話さないよね」と釘を刺してくる女性もいた。
また、バディものとしても素晴らしいと感じた。ドナルド・トランプを追う記者のミーガンは、セクハラ発言などを繰り返したドナルド・トランプが当選してしまう事実に呆れ、その後に出産して産後鬱のような状態になる。ジョディからの連絡を受けて共にハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を暴く取材をしていくことになる。やっぱり記者を生涯の仕事と考えているだけあって、たとえ産後であってもハードな記者の仕事をフルでやるタフさがあってこそ、この記事を掲載できたのだろうと感じる。そして、上司などのサポートを受けながら、次々に取材を重ねていくと、ある日、2人がたまたま同じような服装になり、「まるで双子みたいね」と言いながら取材に向かう。後の場面でも同じような服装をしている場面があり、彼らが同じ志を持つ人間として、束になっていくさまが伝わって来る。
ハーヴェイ・ワインスタインだけでなく、知りながらも何もしなかった人までがある意味当時裁かれた。そのうえで製作された本作が興行的には見向きもされなかったレベルなのは残念ではあるが、ちゃんと作品として残ったわけだから、映画界としては同じ過ちを絶対に繰り返してはならない(もちろん業界問わずだが)。
取り上げた作品の一覧はこちら
【予告編】
【ソフト関連】
<DVD>
原語
├オリジナル(英語)
※日本語吹き替え版は収録されていません
映像特典
├報道の裏側
├オリジナル予告編
【書籍関連】
<その名を暴け-#Me Tooに火をつけたジャーナリストたちの闘い>
形態
├紙/電子
著者
├ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー
翻訳者
├古屋美登里
出版社
├新潮文庫
長さ
├603ページ