【作品#0557】キング・オブ・コメディ(1982) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

キング・オブ・コメディ(原題:The King of Comedy)

 

【Podcast】


Apple Podcastsはこちら
Google Podcastsはこちら
Spotifyはこちら
Anchorはこちら
Stand FMはこちら

【概要】

1982年のアメリカ映画
上映時間は109分

【あらすじ】

コメディアンを目指すルパート・パプキンは、憧れの有名司会者ジェリーに自分を売り込むと、事務所に電話するように言われる。後日、事務所に電話するも取り合ってもらえず、ついにルパート・パプキンは彼の事務所へ押しかける。

【スタッフ】

監督はマーティン・スコセッシ
音楽はロビー・ロバートソン
撮影はフレッド・シュラー

【キャスト】

ロバート・デ・ニーロ(ルパート・パプキン)
ジェリー・ルイス(ジェリー・ラングフォード
ダイアン・アボット(リタ)
サンドラ・バーンハード(マーシャ)

【感想】

後の「ジョーカー(2019)」に多大な影響を及ぼすなど、批評家や多くの映画関係者から評価されている作品だが、1,900万ドルの予算に対し、たったの250万ドルしか売り上げることができず、「Box-office bomb(興行的に失敗した作品に使われる表現)」の1つとしても知られる。

レイジング・ブル(1980)」の後、マーティン・スコセッシ監督は劇映画から引退してドキュメンタリー映画の製作を考えていた。ところが、「最後の誘惑」の映画化に興味を持ち、ロバート・デ・ニーロにイエス・キリスト役を演じてもらうように依頼したが断られた(1988年にウィレム・デフォー主演で映画化)。その後、デ・ニーロから持ち込まれた本作の企画に参加し製作することになったが、当時マーティン・スコセッシは体調不良に悩まされ、肺炎による入院を経て撮影されることになった。

公開当時、観客に見向きもされなかったのが不思議なくらいに「面白い」。15年以上前になる大学生の頃に本作を初めて見たが、ルパート・パプキンという名前は忘れられないほど印象に残るものであった。

ルパート・パプキン側(あるいはマーシャ)とジェリー側の対比と共通点も面白い。ジェリーは番組の有名ホストだが、同じことの繰り返しに飽き飽きしており、自分が特別な人間だなんて思っていない。また、事務所の建物を出てからは同じ道を毎度歩いている(だからこそルパート・パプキンにあっさり捕まってしまうのだが)。また、ルパート・パプキンも自分がジェリーの番組に出られることを夢見て、観客の前を想定した練習に事欠かないし、ジェリーの出待ちもおそらく毎回のようにやっていたことだろう。彼も同じことを繰り返しいつか夢の舞台に立つことができるのだろうと考えていたのだ(観客には彼がどうやって有名になろうとしているのかは正直見えない)。

また、ルパート・パプキンは話が通じないので、「普通の」やり方は通用しない。ジェリーの事務所にしつこく通うと、ジェリーの秘書のロングから、「舞台に立つように」と何度も言われる。有名なコメディ番組に出演するには、下積みが必要で、実績を作らないことにはしょうがない。ルパート・パプキンからすれば、毎日家の「観客の前」で練習しているのだからその必要はないと考えているのだろう。ある意味、目標に対してものすごく直線的な考え方とも捉えることができる。

そして、映画はルパート・パプキンが捕まり、ジェリーを誘拐して番組に出演した事件で有名になり、出所後にテレビ出演する際に拍手を送られる場面で終わることになる。1人の人間にスポットを当て、その人間が映画の始まりから終わりまで実はそれほど変わっていないというのはスコセッシ映画の多くに共通するところだろう。本作のルパート・パプキンも登場シーンからラストまで実はそれほど何かを克服したり成長したりはしていないように感じる。犯罪の善し悪しはさておいて、彼は正しいと思った道を突き進み、その結果として刑務所入りはしたものの、獄中に記した本が映画化されてお金は入って来るだろうし、出所後にはテレビ出演が控えており有名になることもできた。これが妄想でなく現実だとしたらルパート・パプキンにとってこんな夢物語はないはずだ。もしこの結末が現実であるとして、この後の彼の人生は想像するしかないが、大成功を収めるかもしれないし、大失敗に終わるかもしれない。本当にその両方だと感じる。どう見てもルパート・パプキンは変人なのだが、芸能界なんて変わった人がいくらでもいることだろうから、変人故に失敗するとも限らない。また、ジェリーに見せた態度から考えると、怒らせてはいけない大物を怒らせる可能性はいくらだってあるだろう。大物を怒らせて干されたらルパート・パプキンだってあの時代ならどうしようもないはずだ。

ちなみにこのラストは、現実とも幻想とも受け取ることができる。観客によってははっきりと現実である、妄想であると考える人もいるようだが、私はどちらとも取れるように感じた。それまでの幻想の場面には登場していたジェリーがここでは登場しない(ただ、ラストで誘拐の被害に遭ったジェリーがテレビ番組に迎えてくれるとは思えない)。さらにこの捕まってから映画が終わるまでのエピローグは驚くほどに短い。一度歯車が回り出すとあっという間とも取れるし、妄想ゆえに具体的な形にならなかったとも取れる。また、妄想であったとしても、「まあそんなにうまくはいかんだろうな」と思ってしまうはずだ。

あと、ルパート・パプキンが家で練習などしていると、彼の母親が「何してるの」と声をかける場面がある。ただ、そこで彼の母親の姿は映ることはない。本当に母親がいるなら画面に映せば良いだけの話なのでこれは幻想ではないかと思う。家での孤独な状態を埋め合わせるための彼なりの工夫ではないか。ジェリーとライザ・ミネリのパネルや、大勢の観客が書かれた壁もそうだろう。母親がいないとしたら「タクシードライバー(1976)」のトラヴィスと同じく一人暮らしだ。でも、そのトラヴィスと違い、ある程度の社交性は身に着けており、ルパート・パプキンは人が好きなんだろう。ジェリーとの会話を妄想する場面も、ルパート・パプキンの承認欲求の表れだろうし、人と関わって楽しみたいとは思っているように思える。

また、ルパート・パプキンはあの「テレビ1強」だった時代だからこそあそこまで辿り着くことができたのだろう。マーティン・スコセッシ監督の好きな、そして本作のような映画ではルパート・パプキンの夢は叶えられない。もし現代に転生していたら、つまらない迷惑系YouTuberくらいにしかなれなかったんじゃないだろうか。

そして、自分が「何者」なのか、また「何者」になりたいのかこれほどまでに明確な人間も珍しい。まさにスポーツやあるジャンルでトップを志す人間の如く鍛錬も怠らず、日々練習に励んでいる。もちろんセンスや才能も必要だろうから、もしかしたら大スベリしていたかもしれない。ただ、自分の実現したいことのためにここまで本気になれるのならそれはそれで羨ましくも感じる人もいるんじゃないかと思う。

あと、これは勘ぐり過ぎかもしれないが、「ロッキー(1976)」へのアンチテーゼではないだろうかとも思う。マーティン・スコセッシ監督は「タクシードライバー(1976)」で評価されたが、オスカーでは「ロッキー(1976)」に敗れた。その後、「ロッキー(1976)」のプロデューサーとともにそれとは正反対とも言えるボクシング映画「レイジング・ブル(1980)」を作り上げた。そして、本作はコメディアンとしては三流(というか実績すらないから三流以下か!?)のルパート・パプキンがプロのコメディアンを誘拐して念願のコメディ番組に出演して一躍有名になるという話になっている。30過ぎた男がついに本気で行動して最終的にはテレビ出演という念願を達成させているのだ。アメリカンドリーム実現の陽の側面が「ロッキー(1976)」なら、本作は陰の側面が描かれたとも捉えることができる。

スコセッシの描くテーマの話に戻るが、「タクシードライバー(1976)」では少女の娼婦を救おうと娼館を襲撃したトラヴィスが英雄視され、本作では人気司会者を誘拐してテレビに出演した男が捕まった後に刑務所で書いた本が売れて、出所後にテレビ出演が控えており、拍手喝采のまま映画が終わる。本作のルパート・パプキンは、誘拐したことも命と引き換えに自分をテレビ出演させたことも何も悪いと思っていないだろう。一夜の王になりたい、注目されて承認されたい、思いを寄せるリタに良いところを見せたかっただけだろう。やっぱり主人公は成長していない。結局、思った通りに行動してやったもん勝ち。それを痛烈にコメディとして描いている。「まさか真に受けるやつなんていないよな」というメッセージすらない。だからこそ、真に受ける奴が出てきそうで怖いし、それが本作のルパート・パプキンみたいな奴なんだと思う。その意味で本作は大ヒットしなくて良かったのかもしれにとまで思ってしまう。また、こういう話の通じない普通じゃない人間(特に男)を面白おかしく描けるセンスには脱帽である。

デ・ニーロがこの企画をスコセッシに持ち込んだだけあり、デ・ニーロの熱演ぶりも見事だが、彼の相棒とも言えるマーシャを演じたサンドラ・バーンハードの方がよっぽど真に迫るものがあった。もしかしたらもっと出番はあったかもしれないが、そうなるとマーシャの映画になっていた。それくらいに存在感のある女優であった。ジェリーを演じたジェリー・ルイスは言わずもがな。ルパート・パプキンという名前は忘れることのできないキャラクターとなった。当時ヒットこそしなかったが、スコセッシ&デ・ニーロを語るならどう考えても外せない一本。

【関連作品】


「ジョーカー(2019)」…本作に影響を受けたとされる。

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

 ※日本語吹き替え版は収録されていません。

映像特典

├ショット・アット・ザ・トップ~King of Comedy制作裏話

├カットシーン

├予告編

├カナダTVスポット

├スチールギャラリー

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

 ※日本語吹き替え版は収録されていません。

映像特典

├未公開シーン集

├トライベッカ映画祭:マーティン・スコセッシ/ロバート・デ・ニーロ/ジェリー・ルイス

├ショット・アット・ザ・トップ King of Comedy 製作裏話

├オリジナル劇場予告編