- 石川 達三
- 青春の蹉跌
- ☆☆
蹉跌という言葉を辞書でひくと、「(つまづくの意から)物事がうまく進まず、しくじること。挫折。失敗」とあった。
主人公である江藤賢一郎の犯した罪は、蹉跌といってしまうには、しかも青春の過ちと言ってしまうには
あまりに重いと思う。
貧乏な母子家庭に育った賢一郎は、裕福な伯父の援助により大学で学んでいる。
司法試験に合格すれば、ゆくゆくは伯父の娘と結婚し、成功した人生を歩めるはずだった。
しかし、家庭教師として教えていた登美子と肉体関係を持ち、
妊娠を理由に結婚を迫られ、ついには殺害してしまう。
賢一郎は自分の法学の知識に絶対の自信を持っている。
生活におけるどんなことも法律にその論拠を比較し、
自己防衛を図ろうとする。
そこには他人への思いやりとか気遣いとか、そういう感情はあまりなく
極めて冷徹・利己的に自分の利益を守ろうとする。
登美子との関係についても、互いに本能の欲を満たすためのものだと結論づける。
時代は学生運動が盛んだったときだが、賢一郎はひたすら大学の図書館へ通い
司法試験合格を目指す。
試験を妨害する学生のピケに対しても、非常に冷ややかな目でみつめている。
「サウス・バウンド
」の一郎とは真逆の人間だ。
そんな賢一郎が逡巡を見せるのは、登美子を殺した後だ。
伯父の娘と結婚するよりも、登美子と暮らした方が幸せだったのではないかと思う。
時すでに遅し、逮捕された警察で、賢一郎は登美子の身ごもっていた子どもが
自分以外の男のものであると初めて知る。
登美子にだまされていたのである。
法学については並外れた知識を持っていたが、その他のことはなにも知らなかった
賢一郎の性格上の不具。
現代の教育ではそんな人間を育てているのではないかと怖くなった。
小学生から勉強と競争に終われ、受験に必要ないことは優先度を下げられる。
そうして大人になって、一体なにになるんだろう?
青春時代にできなかったことは、大人になって取り返すことは難しいと思う。
いろんなものに触れて自分の道を選び取れる人間を育てて欲しい。