蛇にピアス | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

2008年 日本
蜷川幸雄 監督


2004年に若干20歳で第130回芥川賞を受賞した金原ひとみさんの同名小説の映像化。当時、19歳だった綿矢りささんとのダブル受賞で世間を賑わしましたねー。あの頃はかなり偏った読書癖だったこともあり、芥川賞受賞作も映画も何の興味もなく完全スルーしていたので、蜷川幸雄監督作品だということすら、初めて知りました(;´・ω・)。しかも主演が、吉高由里子さんと高良健吾さんだったんだ!へぇー!( ゚Д゚)
ということで、今更ながらちょっと観てみることに。

家出状態?で渋谷界隈をブラついているギャル風の少女ルイ(吉高由里子)は、クラブでパンク風ファッションにスプリットタン(爬虫類のように先が二股に分れた舌)のアマ(高良健吾)にナンパされて、お互いの名前も知らないまますぐにファック→同棲。アマのスプリットタンと入れ墨に魅入られたルイは自分もやりたいと言い出し、アマに彫り師のシバ(ARATA/井浦新)を紹介されます。アマ以上に、ピアスと入れ墨だらけのシバのドSオーラに惹かれるM女、ルイ。

まだ無名だった高良健吾さんと吉高由里子さんが、体当たりの熱演。二人とも若くてピッチピチ。特に吉高由里子さんは、劇中ほとんどが裸状態で、アマともシバともかなり際どい絡みがやまほど。ボカシ入りまくり。特にシバとの行為はかなり暴力的で衝撃的。イマジネーションの中とはいえ、高良健吾さんと井浦新さんのプレイシーンまであって、全面にザ・蜷川!て雰囲気出まくりです。皆凄い。Σ(゚Д゚) 今となっては色んな意味でお宝映画ですね。


ルイのギャル友達ユリ(ソニン)への説明によると、「見た目パンクで中身は癒し系」のアマ。自称「アマはアマデウスのアマ」。ピアスはフェイクとしても、スプリットタンはあまりにリアルで本物?!と思ってしまうほど。勿論、今現在の高良さんの舌が割れていないのは知っているので何かしらの特殊効果だとは解かるのですが物凄いリアリティ。なんだ、日本の映像技術も凄いんじゃん・・・とびっくり。


得体の知れない怖さが漂う、男もイケるが相手の苦しい顔を見ないとコーフンできない変態体質の謎の男シバ。井浦新さん、この頃はARATAという芸名で活動していたんですね・・・いや、怖すぎますって^^;。それにしても、舌ピアスとかこういう顔面のピアスって、飲んだり食べたりって時に違和感ないのかなぁ・・・ちょっと目がカユくてゴシゴシ・・・とかもできなさそう。うっかりソファでうたたねして寝返りでもうとうものなら大変そう・・・と、いつも思うのですがどうなんでしょうか・・・。


吉高由里子さんも若い!可愛い!ギャル風のファッションが意外と似合っていて驚き。可愛いけれど、顔の骨格やパーツ自体に主張のあるタイプじゃないので、ヘアメイクの盛り方次第で大分雰囲気変えられるんですね(*‘ω‘ *)。セリフはまだ上滑り、特に動作の伴わないナレーションはびっくりするくらいの棒読みですがそれすらも何だか初々しいし、裸になってる以外のシーンでも気迫の熱演。
 

アマは、こんな風貌だしチャラいけど、ルイに物凄く優しくて献身的で、一生懸命で一途でピュア。私からしたら宇宙人くらい未知の存在ですが、それでもつい、やだ、可愛い・・・と思ってしまうほどの愛らしさがあって、こんな子に愛されたら女の子はきっと幸せだね、と思わせる一方で一回タガが外れて暴走したら止められない凶暴さも。まるで野生の狼がたまたま人間の女の子に懐いてしまったみたい。

その、アマの凶暴性を引き出してしまうのは、ルイとユキを略奪ナンパしようと近寄ってきた暴力団の下っ端チンピラ2人組み。これがなんと小栗旬さんと藤原竜也さんでビックリΣ(゚Д゚)。いきがって威嚇してみたものの、想定以上のアマの暴力性にビビって無様に逃げ出すオグシュンも、半殺し状態まで執拗にボッコボコになぶられる藤原竜也さんもお見事。まぁ、結果的に藤原竜也さんのチンピラその2は死んでしまいますが(>_<)。まだ無名だった若手タレントの主演映画に、当時すでにスタータレントだったはずの2人をチンピラエキストラにさらっと使っちゃう贅沢っぷり、さすが世界のNINAGAWA。他にも唐沢寿明さんやら市川亀治郎さん(当時。現在は市川猿之助)がお巡りさんと刑事役でちょい出したりしてなんとも贅沢です(*‘ω‘ *)。

アマの愛情を全身で受け止めながら、スプリットタンや入れ墨と自分の肉体の改造に没頭し、シバとの倒錯的な快楽に溺れながらも、そこの無い飢餓感というか無力感に呑み込まれそうになるルイ。「私が生きている事を実感するのは痛みを感じている間だけ」そしてルイが身を投げ出す二人の男ともそれぞれ別の理由から「お前が死にたいと思った時は俺に殺させてくれ」と言われる彼女の、人生、生きることへの絶望と憧れ。自分が何を求めているのかもわからないまま刹那と痛みにはまり込んでいきます。

私、蜷川演出って理解できないし好みではなかったんですよね。この映画も、例えば10年前に観たらまだ、気持ち悪くて耐えられなかったんじゃないかと思われます。何一つ、共感できる部分もなければ憧れる要素もないし、納得もいかないけれど年齢があがったせいか、グロテスクな演出も”つくりもの”として達観して観られるし、共鳴はできませんが蜷川幸雄さんの凄さはなんとなくわかるようになった気がします。なぜ、役者がこぞって彼に演出してもらいたがるのか、なぜ観客は彼の演出作品を観たがるのか。目をそむけたくなるような暴力的なセックスシーンやバイオレンスでも、不思議と嫌悪感は湧かないのも、芸術性のなせる業なのでしょうか。

それと、原作は読んだことがないのでどんな文章なのかも知らないのですが、好き嫌いや評価はともかく、確かに文学作品なんだなというのをとても感じました。下品で猥雑で暴力的・・・な要素に溢れているはずなのに、何故かその類の汚れを感じさせない、原作の文学性を感じる場面が何か所かありました。上手く説明できませんが。まぁ、そもそも普通に画竜点睛とかポンと出てそのまま会話がなりたつとか、目を入れたら自分の背中に彫った龍も麒麟も飛んで行ってしまうかもとか、いかにも文学的です(*‘ω‘ *)。

そういえば、吉高由里子さんと高良健吾さんといえば、この映画の5年後、「横道世之介」でまた共演したんでしたねー。


2人とも、全然違うイメージ(笑)。役者ですねぇー。私はこの映画で高良健吾さんを覚えました^^。吉高由里子さんのお嬢さまキャラも上手くハマってました♪

好きか嫌いかって言われたら、まぁやっぱり「好き」ではないのですが(苦笑)、凄さは感じて圧倒されました。主演キャスト達の若くてフレッシュな時代の体当たり演技も観られて新鮮だったし、観る機会があってよかったです。でも、刺激が強すぎたので、この映画観おわったあと録画してあったNHKドラマ「みをつくし料理帖」を1話分観て口直しと脳内細胞のクールダウンしてから就寝しました(笑)。みをつくし、テレ朝版も評判良かったようですが、NHK版も期待通りのクオリティです^^。黒木華さん、永山絢斗さん、森山未來さん他全キャスト素敵。安心して「好き~♪」と言える平和な幸福感で1日を終えました(笑)。