苦しい程、好きになったやり直しが出来るならどこからにしようか。ああ、俺は。君と出逢う所からがいい。目を合わす事なく君の横を通り過ぎたい。だって、こんなにも今、苦しい。君と会って、俺はこんなにも苦しい。出逢って無ければこんな苦しさ、知りもしなかったのに。
陳腐な言葉だと笑って。すまない。そんな言葉、あなたから初めて聞いたわ。いつも眉間に皺寄せて、難しい顔をして、口を開けば要点だけで戯言なんて一言も出た試しがなかった。そんなあなただからこそ、ここまでその背中を追った。夢中でしがみついていないと振り落とされそうになりながら、いつだってその背中に声、手を伸ばした。ひどい話よ。追いついて、やっとの思いで顔を見れば。泣きながら「すまない」なんて。いいのよ、これぐらい。私が望んだの。私が決めたの。あなたを守るために生きて死のう。だからそんな顔しないで。笑ってありがとうと言って。「愛してるわ」
叶わなければいい。一度でいいから消えてなくなってしまいたかった。あんたがそう言う。その顔が笑っていたなら「俺もあるよ」と笑ったさ。泣いて言われたらどう返せばいいのか困るよ。もうすぐ叶う。そういえばあんたは満足だろうか。笑うだろうか。泣くんだろうな、と心底思った。
その子をよろしくね。誰かが誰かを慰めている頃、誰かが誰にも気付かれる事なく、そっと命を消している。その時、どこかで誰かがこの世界に生まれて最初の一呼吸をしている。そうやって世界はまわる。プラスマイナスゼロのような世界だ。どこかが欠けたら、どこかで補われている。私が今日という日を生き延びたら、誰かが今日という日を失うのね。その反対もそう。私が死んでも世界はまわる。代わりに誰かを生かしてまわってくれる。私の代わりが頑張って息をしてくれる。だから「ありがとう」と死ねる。
零から息をしたい。どうとでもなればいい。そう投げ出した魂。悔いは無い。悲しくはない。ただただ逃げ出したかった。誰からも、全てに、自分からでさえ。受け止めてくれなくていいの。落下していくだけでもいい。ただこの体や心も、全て消して、もう一度零から息をしたい。こんな感情を誰かは絶望と言うけれどそうではない。こんなにも希望に溢れる感情をどうか許して欲しい。
転がった自分の遺体這い蹲ってでも、誰かを傷付けてまで、血反吐さえ吐きながら、それでも辿り着きたい場所がある。何があるかなんて知らな い。それでもその場所に縋り付きたい。這い蹲って出来た血豆が潰れて床を赤く塗る。血反吐がのびて道になる。誰かがそれを美しいと言った。そんな声すら引き剥がして懸命に前へと進む。そこに何がある。わからない。最後に残るのは自分の遺体かもしれない。それでもいいと思った。自分が残ればそれでいいと。そう思った。