トリオ9R-59Dの前身に当たる9R-59にはQ-multiplier、略して「Qマルチ」が搭載されています。これはIFの選択度を上げる機構で、帰還増幅器を発振寸前に調整して実質的Qを上げる原理は再生式ラジオと同様、ただしそれをIFで行なう仕組みです。ラジオなら発振は放送バンドの妨害源になるだけですが、Qマルチが発振するのは455kHzですからBFOにも使えます。9R-59のQマルチはまさにそのBFO兼用型なので、「帯域を狭めたいCWでこそBFOと両立できない阿呆な設計」、と昔からさんざん批判されて来たのです。
しかし9R-59ラインはJA1AMH 高田氏設計とはご本人の弁ですが、いくら何でも現役ハムがその位は考えなかったはずがありません。その上でBFO兼用に決めた理由は想像がつきます。
Qマルチはどれだけ有効か? さすがに今時web上には見られないでしょうが、古い記事やらOMの昔話で見つけたところで賛否両論、つまりどこまでも半端な話なのですが、私は否定派です。それはIFTの特性はSSB機のフィルターのような台形ではなく、Qを上げても富士山型の裾野は余り変わらずピークの先ばかりが尖る形になるのは、言わばTノッチ (rejection)の逆さまなのです(むしろノッチにした方が良かったのかも)。つまりAMでは音が悪くなるだけ、CWでは裾野の減衰量くらいでは「邪魔者はやはり邪魔なくらいに聞こえる」というのが私の感想です。ただし、最初から切れの良いフィルターを知る世代の私とは違い、IFTしか選べなかった時代の人は僅かでも恩恵を感じたのかも知れません。
「BFO兼用Qマルチ」は海外に古くからあるアイデアで、IF込みの標準的な回路例も存在しました。推測ですが、高田氏も「大した効果もないし期待されてもいないだろうし」、といった具合に私同様にQマルチの効能に否定的だったのだと思います。その結果、「ビギナー用で低価格は大事だし」、「オマケでしかないので標準回路で充分」、と判断したというのが私の推測です。
改良型の9R-59Dでは東光製のメカニカル・フィルターを採用して選択度を稼ぎ、Qマルチは廃止されました。しかしそのAM用簡易メカフィル、当時東光の代理店だったトヨムラで買ったら350円でしたから、5,000円位した国際電気のSSB用とはモノが全然違います。それでも例によって「選択度の画期的向上」を打ち出したトリオの宣伝は上手だったのでした。