コイル巻き作業では手が緩むとほどけますし、完成後もユルユルで簡単に定数が変化しては困ります。そこで巻止めに使われたケミカル類が二種類ありました。
一つは「マジックハンダ」と呼ばれた飴色のホットメルト樹脂で、半田鏝で扱えるからその名になったようです。巻止め箇所にちょっと塗る感じでメーカー製品にも非常によく使われています。
もう一つの「高周波ニス」は溶剤に溶かした樹脂で、コイル全体への塗工にも使います。市販品ではサンハヤトの「高周波ワニス」が有名で、比較的近年までロングセラーを続けましたが廃品種になりました。
「ニス」も「ワニス」もvarnish なのは塗料の用語で同じですが、なぜか雑誌記事では高周波「ニス」表現が多かったようです。商標登録の関係でしょうか?
高周波ニスの自作は大昔の私が電子工作を始めた頃から知られ、しかも今に至るも内容が全く変わりませんが、発泡スチロールをシンナーに溶解したものです。スチロールを選ぶ理由は、tanδがごく小さく高周波特性の優れた樹脂で溶剤に溶けるものは他に無く(ポリエチレン・ポリプロピレン・テフロン、全部無理)、しかも入手が容易だからだと思います。
ところで本家サンハヤトの「高周波ワニス」には「溶剤としてイソプロビルアルコール、酢酸エチル、ブタノール、キシレン、エチレングリコールモノブチルエーテル、フェノールを含む」、と何だか一杯書いてありますが、これは塗料用シンナーにありがちな組成なので恐らくサンハヤトの自家配合ではなく、そういう仕入品だったのでしょう。なお、シンナーに近い内容である以上は巻線の被覆を溶解はせずとも膨潤はさせるので、一旦高周波ワニスで加工した電線を巻き戻しての再利用は勧められません。
ところで肝心な樹脂の組成が分かりません。スチロールではない気がしますが、違ったならば高周波的にはスチロール以上という事はないと思います。
スチロール樹脂は炭素の含有比が大きいので、燃やすと不完全燃焼の煤が出ます。つまり焼けた後に導電性のカーボンを残しやすいという事であり、私がレアショート箇所に注入した絶縁材としてはよりによって最低の選択でした。それゆえに塗り直しで回復する事は二度となかったのでしょう。
結局、ガラ巻きコイルの構造も、またスチロール系の樹脂も高周波用途のものであり、電源に使うべきではないのです。