(「知立神社で 」より続く)
愛知県知立市、知立神社のトイレの裏手に、松尾芭蕉の句碑があります。
秋里籬島『東海道名所図会』(1797年)に
不断たつ池鯉鮒の宿の木綿市
此の句碑別當松智院にあり。元禄寛永の比まで、四時此驛に諸品の市あり。木綿は此宿の名産にして、江戸にては池付白といふなり。
と紹介がありますから、1797(寛政九)年には既に建立されていた古い句碑ということがわかります。
また、「別當松智院にあり」と書かれていますが、 「松智院」は、11月8日付のこのブログ「知立神社で 」に登場した、蝮除けの御札を出していたところです。
ところで、この句、中村俊定校注『芭蕉俳句集』(岩波文庫、1970年)では、「誤伝の部」。
出典は先述の『東海道名所図会』であり、脚注に、
深川集所収の唐辛子の巻の芭蕉の付句で発句ではない。
とあります。
濱田酒堂「深川集」(1790年)*は、自序に、
壬申九月に江戸へくだり、芭蕉庵に越年してことしきさらぎのはじめ、洛にのぼりてふろしきをとく
と書かれているので、1692(元禄五)年~1693年、深川の芭蕉庵で詠まれた連句を集めたもの。
そして、その冒頭の歌仙「深川夜遊」の33句目に、
不断たつ池鯉鮒の宿の木綿市 蕉
があります。
画像は、2015年10月撮影の「芭蕉句碑」。
句碑の左に立つ、知立市教育委員会の看板には、
池鯉鮒蕉門の俳人井村祖風が、寛政五年(1793)この句がつくられて百年目に当ったのを記念し、同好の士十五名に働きかけて建立されたもの
と説明がありました。
祖風の句碑及び墓は、11月7日付のこのブログで取り上げた「知立市八橋の無量寿寺 」にあります。
*巌谷小波・佐々醒雪編『芭蕉翁全集』(博文館、1916年)