豊臣秀頼の都デビューと牛一の豊臣デビュー作
「私説桶狭間」２００回目です。こちらです。（←文字クリックで移動します）秀頼の初上洛と天皇拝謁の場面です。豊臣秀次の死から後、秀吉のやっていることは秀頼のことばっかり、という感じです。（この後秀吉は第二次朝鮮征伐『慶長の役』を起こすのですが、どちらも周りは迷惑な話です）本文にあるように当時の秀頼は満３歳、オムツがとれて立って歩き回れるようになり、感情表現が豊かになってくる頃です。じっとしていられない時期であり、人見知りをしてしまう時期でもあります。突然走り出したり、嫌がったり、泣き出したりすることがあったでしょう。そんな時に京に行き、天皇に拝謁するというのですから、周りはかなり気を使ったのではないかと思います。それにしてもそんな幼い年で天皇に謁見した人ってどれだけいたのか。まあ身内の公卿や藤原家の系統などではあったでしょうが、いくら摂家とはいえ成り上がりの豊臣家がそれを実現させるのは、かなりの根回しや金銀が必要だったのだろうと想像します。それでも秀吉にとっては必要なことだったのでしょう。秀頼が初上洛した文禄５年（１５９６）５月９日、この日は太田牛一も上洛し、『太閤御代度々御進発の記』１冊を吉田兼見に託しています。「織田信長という歴史 『信長記』の彼方へ」（勉誠出版）の中で著者金子 拓氏は“これらは連作・分冊のかたちをとり、この日はまず一冊が兼見・勧修寺晴豊を通じ後陽成天皇に献上されるはこびとなったということなのだろう”と記しています。山崎から賤ケ岳、小田原、そして朝鮮出兵の名護屋まで書かれているというその本は、秀頼拝謁の引出物だったのでしょう。しかしこの本は他の引出物と同じように目録に書かれたものではなく、太田牛一を介した別ルートで贈る形にしているようです。その理由は分かりませんが、多分秀吉から直接天皇に贈ることに問題があったように思います。例えば秀吉に強要されてその本を天皇が所有するという流れになるとまずい、ということかもしれません。上記はあくまで想像です。でも、いくら秀吉の伝記だとはいえ太田牛一という一介の家臣の著作をそう簡単に天皇に献上することは難しかったと思うのです。それに太田牛一が秀吉の伝記を自らすすんで書いたかということにも疑問が残ります。やはり何らかの力が働いていたのではないかと思えるのです。
