「私説桶狭間」190回目です。こちらです。(←文字クリックで移動します)

 

2年前の大河ドラマ『真田丸』で有名になったエピソード“聚楽第落首事件”です。

ドラマでは、下手人と疑われた尾藤道休は文字が書けないという理由で落首の罪を否認しましたが、彼が亡くなってしまったことで石田三成らは下手人として処置し、真犯人は分からぬままという一種のミステリー仕立ての回でした。

しかし、この事件を調べてみると、実際はかなり悲惨なものでした。大体は本文に書いた通りですが、大多数の無関係の人を含めて計113名が処刑されたということです。

『真田丸』2016年5月22日放送で、タイトルは「前兆」となっています。

確かに、この事件が豊臣氏滅亡の前触れだったといえるように思えます。

 

ところで、事件のきっかけとなる落首ですが、数首あったといわれ、そのうち2首が『武功夜話』に残されています。信頼性が高い資料とはいえませんが、どうやら残っているのはこれだけのようです。

 

大仏の くどくもあれや 鑓かたな くぎかすがいは 子だからめぐむ

 (大仏の 功徳もあれや 鑓刀 釘鎹〈かすがい〉は 子宝恵む)

 

最初は京の東山で進められていた大仏建立に絡めた落首です。実はこれを名目にして“刀狩り”を行った経緯があり、結構皮肉っぽい歌のようです。

 

さゝたへて 茶々生いしげる 内野原 今日はけいせい 香をきそいける

 (佐々絶えて 茶々生い茂る 内野原 今日〈京〉は傾城 香を競いける)

 

さゝは佐々成政です。天正15年(1587)の九州攻めの後、肥後一国を与えられた佐々成政が、領内で起こった一揆を治めることができず、その責任で切腹をした事件を指しています。内野原は聚楽第があった場所が内野ということで豊臣家の中で茶々の勢力が高まっていることを暗示しているのでしょう。今日はけいせい以下は、秀吉が武家に対して悪所に行くことを禁止したことを指しており、自分は禁止したくせに京では傾城(遊女、ここでは茶々を連想させているのでしょう)が香を競わせているではないか、という皮肉がこめられているという訳です。

 

ルイス・フロイスはこの時期、茶々の妊娠を知って「笑うべき事」と書き残しているそうです。本妻だけでなく多数の側室がいた秀吉ですから、茶々だけに子ができたという事実は世間にとって格好の噂の種だったろうとは思います。よほど世間の口をふさぎたかったのかとは思いますが、それにしても秀吉の命じた処罰は過酷すぎます。

権力という秘宝は、よほど人の心を蝕む魔力をもっているようです。