パラダイス・ロスト/角川書店(角川グループパブリッシング)

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 暖かくなってきたな~と思ったら花粉ですよ、まったく。管理人です。
最近とある海外ドラマにどハマリしたのですが、なんとシーズン3までしか日本で放送していないんです。あんまり人気が出なかったのでしょうか……。本国ではシーズン8が放送しているというのに……。英検3級に落ちた私ですが、海外のDVDを買って、字幕を訳しながら見ようと思います。あぁ、この英語へのガッツが学生時代にあれば……くそ……。

 本日の本は柳広司『パラダイス・ロスト』です。スパイシリーズの第三弾!

 結城中佐になりたい……。無駄な脂肪とかまったくない体になりたい……。今回はなんと結城中佐の過去を探る男が現れます。すべてが謎に包まれた結城中佐の過去とは!?そしてD機関の「D」は一体なんのDなのか?
 そういえば、D機関のスパイたちはいくつもの名前を仕事毎に使い分けていて、決して素の「個」は出さないんですよね。作品でも毎回名前はしっかり出てくるのに、名前以外の特徴が一切わからないし、彼らの思考も結城に叩き込まれたものだから個が出てこないんですよね。名前だけが変に目だっている感じ。人と初めて会うときって名前をまず名乗りますが、名前ってほんとタダの記号にすぎないのだなと思う今日この頃。

以下。物語の結末に触れています。

①誤算

 今回のD機関スパイは島野亮祐という日本人留学生となってフランスに潜伏中。
フランスはドイツと独仏休戦協定を結んでおり、パリはドイツ軍の占領下に置かれていました。のっけからドイツ軍にたてつくおばちゃんを助けている島野さん。「おいおいおい、あきませんやん目立ったら!!」と思っていたらすべて作戦のうち。彼を助けてくれた若者達はドイツ軍へのレジスタンスでした。
 一時的に記憶を失うも無意識下に刷り込まれた結城中佐の教えがつよぃ。。。。勝てなぃ。。。そしてその結城さん、司祭に変装してる。。。。
 結城さんって世界各国のどこにでも現れますけど、日本でスパイを取りまとめてなくていいんでしょうか……。報告を聞くのくらい部下に任せてもいいんじゃないでしょうか。彼の睡眠時間が心配です。島野くんのような優秀なスパイをもって有益な情報を集めても、一握りの軍部の判断でドイツ軍と組んでしまう日本の行く末が物悲しい……。

②失楽園

 英国人実業家ジョセフ・ブラントを墜落死させたとして恋人を逮捕させられたキャンベル。かれは恋人の無実を晴らそうと事件を調べるが……。
 今回はバーテンダーに扮してあれやこれやとヒントを出していくD機関の人間ですが、カクテルの感想から他人の思考を操るとか超人的すぎます。善意のキャンベルに謎を解かせてパーカー大尉の動きをまんまと封じたバーテン、最終的にキャンベルに正体がばれちゃっているのですがそれでも彼は恋人を守るために真実を話すことは無いと踏んだのでしょうね。

③追跡

 日本大好きな英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。しかしその正体はプロのスパイ。彼は日本のD機関を纏め上げる結城中佐の過去の経歴を探り始めます。
 そもそもD機関のDはなんのDなのかと。私は結城さんが魔王と呼ばれていたのでてっきりデーモンかデビルかなんかそこらへんなのかな~と思っていました。でも違ったのですね、結城さんは英国はイートン校で学び、公爵の位を与えられるくらい優秀だったので、デュークの意味でDだったようです。
 結城中佐=有崎晃だとつきとめたプライスでしたが、それは20年以上も前に結城中佐が仕掛けた罠に落ちることを意味していました。こりゃすごい、自分の過去はどうしても消せないから、植物状態になってしまった友人にその過去を背負ってもらったのですね。プライスもヤキが回ってスパイ業から足を洗うことになりました。やっぱり現役のスパイでい続けることってむずかしいのでしょうね。

④暗号名ケルベロス

 今回は中篇。太平洋を横断中の朱鷺丸にて英国人スパイ・マクラウドをあぶりだした内海修。しかし、英国軍艦が近づいてきたというちょっとした騒ぎの間に彼は死んでしまった。死ぬな殺すなとらわれるながモットーのD機関にとって不測の事態に陥った内海は、どんな犠牲を払ってでも真実を突き止める覚悟をする。
 ドイツ・日本・英国・アメリカの複雑な事情が中篇の中に上手く詰め込まれています。ドイツのエニグマってそんなに最強だったのですね。自分のプライドのために罪の無い人間を殺してまで解読しようとするマクラウドはマジでクズですけど、それくらい暗号の解明が望まれていたのでしょうね。
 余談ですがエニグマはマクラウドのような力技を使わないで、アラン・チューリングという英国の数学者が解き明かしたのですよね。その様子を映画化した『イミテーション・ゲーム~エニグマと天才数学者の秘密~』がもうすぐ公開であります。主演はベネディクト・カンバーバッチ、見るよ!!!ベネ様だよ!!

 だいぶ私もD機関のみなさんの超人的な能力に慣れてきたので、「ほのぼのD機関の日常」みたいな感じで楽しめるようになってきましたよ。次回作も早く読みたいなぁ!
調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)/講談社

¥864
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 1日1300kalで過ごそうと思い立った管理人です。

 もうね、体重の増加に歯止めがかからない。私の体重は膨れ上がった日本の国債かなにかなのか??どうにかしてくれ!!ウォーキングも今まで以上に真面目にしようと思います。

 さて、本日の本は野村進さん『調べる技術・書く技術』です。

 私は本を読むといったらフィクションが大半ですが、いざ書く側となるとノンフィクションの方が圧倒的に多いです。作家でもない限り大体の人がそうではないでしょうか。報告書、下調べが必要な企画書などなど調べる技術と書く技術が求められる機会は誰にでも起こり得ます。

 本書はノンフィクション作家である野村進さんが実際に
①テーマを決め
②資料を集め
③人に会い
④話を聞き
⑤原稿を書く(人物・事件・体験)
という一連の仕事の方法を細かく丁寧に、実践的に教えてくれる貴重な本です。

 読んでいて感じたのは、この本の表題こそ『調べる技術・書く技術』ですが、何か一つのことを探求して、文章としてまとめるということは、ただ調べる・ただ書くだけではないのですね。調べていく中で自分の書きたいものを研ぎ澄ませて行く、様々な人に会って言葉だけではなくその人の人となりを自分の目でしっかり観察する、人脈を広げて調査を深化させていく、といったように非常にダイナミックな活動なのだなと思いました。そしてその活動を通して、自分が豊かになっていくのだなと感じました。

 「オレは文章なんて書くような仕事じゃねぇよ!」というそこのアナタ!!私だって単純作業しかしない仕事ですが、人との付き合い方や仕事への信念など学べることがたくさんありました!読むときっとノンフィクションに興味を持つはず!良書です。

以下自分用メモ

第一章 テーマを決める

①時代を貫く普遍性
②未来への方向性
③人間の欲望が色濃く現れているか
④ほかのメディアではできないことか?
⑤そのテーマに第三者が身を乗り出すか?

 やはり完全に独創的なテーマというものはプロの方でも難しいようだ。自分なりの独創性(チャップリンのステッキ)を既存のものに付加していくことが大切。

第二章 資料を集める

 ここは単行本の読み方が参考になりました。いきなり書こうとしている分野の専門書なんて読んでも分からないのは当たり前だよね。まずはインタビューや対談形式・入門書と呼ばれる簡単なものから読んでもいいのです!そして幅を広げて賛否両方の本を読んでいく。読み捨てるべき本は全部読まなくておk。

 ノンフィクション作家さんは映像記録や録音記録までぬかりないんですね。すごい。

第三章 人に会う

 アポの取り方から非常に丁寧に解説してくださっている。参考になったのは電話をかける時間帯。早朝、夜遅く、食事時はもちろんNG。朝10時以降、夜は22時まで。食事前は先方がイライラしているかもしれないから避けるなんてのは妙に納得。対応に求められるのは結局「誠実さ」。
 お礼状はすばやく、直筆で。プロの作家さんはこれを何十人とやるのだからものすごい。

第四章 話を聞く

 話を聞く、というから「どんな特別な尋問テクニックがあるのかしら?」と思っていたけれど至って謙虚な方法。相手の興味のあるところを下調べする、話すのの2倍聞く、相手と同化する(鸚鵡返しや同じ飲み物を頼むなど)といった小さなことで、しかし着実に相手の気持ちをつかむ工夫をしている。
 そして実際に会っていることの利点を生かして、言葉以外のこともしっかりと観察していらっしゃいます。
①顔つき、体つき
②服装、ファッション
③表情
④しぐさ
⑤視覚以外の感覚で感じたこと
 こんなところからもその人の人となりがわかるのですね。逆に言うと自分が誰かと会うときにこの5点を気をつけておけば、自分の印象をコントロールできるということなのかな。うーん、勉強になります。

 第五章からは例を交えた文章の書き方が紹介されています。読者をひきつけるすばらしい文章がたくさんあります。是非皆さん実際に読んでみてくださいね。
エデンの命題 (光文社文庫)/光文社

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 部屋に掃除機をかけました。管理人です。
自分の母は家事をまったくしない人で、管理人は最近になるまでまめに掃除機をかける習慣がありませんでした。ずっと掃除機ってすばやく何度も往復させるものだと思っていたのですが、ゆーっくり一往復させたほうがダニなどがよく取れるそうです。非常に勉強になりました。

 さて、本日二冊目は島田荘司『エデンの命題』です。表題作と「ヘルター・スケルター」の二編が収められています。

 島田さんは今LAに住んでおられるようなのですが、アメリカの歴史とお得意の脳科学をあわせたまさに得意分野!という感じの本。最新科学とミステリーの融合は読者に新しい読書の喜びを教えてくれます。

①エデンの命題

 主人公ザッカリはアスペルガー症候群の少年。彼は、アスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラムの子ども達が集められたアスピー・エデンという全寮制の高校に在籍しています。自閉症スペクトラムは①社会性の障害②コミュニケーションの障害③想像力の障害という三つ組を持っている人たちのことを言うそうです。彼らは普通の学校ではほかの生徒達と上手く馴染め無いことが多いのですね。アスピー・エデンは彼らの能力を伸ばすために特別な環境が整えられたまさに理想の教育環境なのです。
 ある日、ザッカリの友人であるティアが突然姿を消してしまいます。ティアがザッカリに残した事実は衝撃的なものでした。それは、アスピー・エデンは全寮制の高校なんかではなくて、近親交配を繰り返して弱体化したユダヤ系有力者たちの臓器のクローンとして生まれた子ども達の牧場だ、というものでした。ザッカリもまたユジーンという兄のスペアに過ぎないというのです。ショックを受けるザッカリに、ルービンという男がある提案をするが……。

 以下ネタバレ感想

 聖書の「カインとアベル」はもちろん知っているのですが、そのカインにつけられた印がアスペルガー症候群というのはものすごい解釈だなと感服いたしました。また、定型発達者からすると「ルービンとコートニィ怪しすぎるだろwww」と思うのですが、それにまんまと騙されてしまうのもアスペルガーという特性を利用されたからなのだなぁと合点がいく展開。
 結末としてはSFのネタとして良く使われているものをひっくり返したという感じなのですが、それに説得力を持たせる手腕がすばらしいです。これは島田さんにしかかけない小説だと思います。

②ヘルター・スケルター

 病室で目が覚めたクラウンはある大事な記憶を失っていた。担当医であるラッセル女医は彼から記憶を引き出すために5時間だけ脳を活性させるLドーパという薬を注射する。彼女との対話の中で彼の記憶と、脳の不思議な欠落が明らかになっていく。

 以下ネタバレ感想。

 ベトナム戦争帰還兵の彼はそこでうけた一発の弾丸によって扁桃核異常、低セロトニン、高インシュリン、低血糖の典型的サイコパスの症状を呈し、音の引き金なしでは左脳全体の機能が停止するという大変厄介な脳の持ち主。脳地図というものがあるそうで、それによると脳のどこが傷つくとどこの機能に不具合が生じるというのがおおむね分かるようです。人間の脳の研究ってここまで来ているんですね!
 先日読んだ進々堂世界一周でも思ったのですが、島田先生の中で戦争というものも一つのホットなトピックなんでしょうか。