完訳 ファーブル昆虫記〈1〉 (岩波文庫)/岩波書店

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 いつの間にか桜が咲いていました。管理人です。
先日知り合いの卒業式に参加したのですが、学生でもないのに出る卒業式っていうのはなんだか自分の黒い記憶と白いノスタルジィを思い起こさせる不思議な空間でした。管理人の場合学校にまったくいい思い出がなかったので「ああ……これでようやく自由になれる……」と安堵の涙を流していた記憶がありますね。

さて、本日の本は『ファーブル昆虫記』です。

 ファーブルさんは19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの昆虫学者さん。もともとは理科の先生をやって生計を立てていらっしゃったようです。小学校・中学校時代、学級文庫でこの本を読まれ
たという少年少女も多いのではないでしょうか。

 「え~虫とか嫌いなんすけど~」と言っているそこのアナタ!!待って!待って!!

 この『ファーブル昆虫記』はタダの観察記録なんかじゃございません。昆虫の持つ不可思議な謎を解き明かす、一種のミステリー小説なんです!!!

 例えば、フランスには”あなばち”と呼ばれる蜂の仲間が三種類います。あなばちはその名のとおり、地面に穴を掘って、そこに卵を産みつけた餌を入れておくんですね。卵からかえった幼虫は餌のコオロギやキリギリスモドキなんかを食べて大きくなり、巣の外に出てくるんです。
 しかし不思議なことはこの穴蜂たち、たった一種類の獲物しか狙わないんです。キバネアナバチという種類はコオロギだけしか狙わず、シロスジアナバチはバッタだけしかねらわず、ラングドックアナバチはキリギリスモドキしか狙わないんです。
 さらに不思議なことには、やつらが捕らえた獲物は数日経ってもなぜか腐らないんです!!普通コオロギを捕まえて殺したら2,3日もすれば干からびるかカビが生えるかしてしまうのに。一体それはなぜなのか!?ファーブルはそこにとても鮮やかで驚くべき解答を用意しています。

 神様に精巧にプログラムされたような昆虫達。しかし、そのプログラムはステータスの振り分けがすごい偏ってるんですよね。アナバチは自分の家の場所を行った事も無いような遠くはなれた場所からでも見つけられるにもかかわらず、掘り起こされてしまったわが子をわが子とは認識できずに踏みつけてしまう……。

 オカルト大好き少女だった私は昔「昆虫宇宙人説」という話にワクワクしたものでした。生物の進化のルートから大きく外れている昆虫は、もしかしたら宇宙人なんじゃないかという今から思うとトンデモな説だったのですが、ファーブルの記したこの本を読むと、本当に昆虫というのは人間の思いもつかないことをしでかすものだなぁとなんだか納得してしまうのです。

 もちろん理科が大好きなお子さんにもおススメ。その積極的な観察の姿勢と考案された数々の実験は思わず感嘆の声を上げてしまうこと間違いなしです。
蜘蛛男 江戸川乱歩ベストセレクション(8) (角川ホラー文庫)/角川書店(角川グループパブリッシング)

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 最近「ねこあつめ」というゲームアプリがはやっているようなので、やってみました。ただ庭先にねこを集めるというだけの放置ゲームです。色んな柄のねこちゃんが来てくれるのですが、それぞれに名前をつけられるんですよ。なので管理人はすべての猫を探偵の名前にしてみました。もちろん明智小五郎もいます。

 というわけで江戸川乱歩『蜘蛛男』です。
乱歩がノリに乗ってるときに大衆向けに書かれたといわれる本作。噂に違わず、読者を引き込むその手腕と言ったら!ミステリアスな紳士、おどろおどろしい煽り文句、可憐な姉妹、猟奇的な犯行、そして名探偵。乱歩のこと好き!という人にはたまらない要素がこれでもかこれでもかと波状攻撃のようにやってきます。

 お話は、美術商の稲垣平造という男が、とあるビルディングを借りたところから始まります。そのオフィスでは若い女性の社員を募集していました。そこにやってきたのが里見芳枝という美しい娘さん。しかしこの稲垣平造という男、なんととんでもない悪漢・蜘蛛男でありました。彼女をばらばらに殺すだけでは飽き足らず、石膏でコーティングして美術品として捌いてしまうのですね。この猟奇的な男を逮捕するために依頼を受けたのが義足の科学者・畔柳博士とその助手野崎三郎くん。博士と助手の組み合わせとかもうとっても美味しいじゃないですか~~~!!そして名探偵・明智小五郎も登場しての大捕り物!
 果たして彼らは蜘蛛男を捕まえることができるのでしょうか。

以下ネタバレ

 もうね……乱歩先生ね……腐女子のツボわかりすぎてて怖いんですよぉ。博士・助手・美しい女性達、明智小五郎、これが揃って嫌がる女はもう女じゃねぇ!!!っていうくらいありがとうございますありがとうございます。
 ミステリーというより事件を探偵さんたちと共に追いかけていくサスペンス物ですね。次々と狙われた乙女達が殺されていくのにタッチの差で捕まえられないというもどかしさ!畔柳博士と明智さんと蜘蛛男の騙しあいは見ものです。そして徐々に猟奇性を増していく犯人の闇。明かされる真実は、ミステリー好きの人ならとっくに見破っていたかもしれませんが、それでもやっぱりビックリ。
 最後の49人の生き人形によるパノラマ館はぞっとするのになぜか美しさを感じてしまいます。毒々しい照明に照らされた女性達の体を、まるで本当に見ているかのような気がしてきます。蜘蛛男を追いかけているようでいて、いつの間にか彼の心理に共感してしまっているんです。

 理屈はいらない!いい子ちゃんぶる必要も無い!
探偵、美しい女、怪人、猟奇、面白いものが読みたいときは乱歩の通俗小説を読むがいい!
新訂 孫子 (岩波文庫)/岩波書店

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 みなさん『三国無双』というゲームをご存知でしょうか。
コーエーから出ている痛快歴史アクションゲームです。
管理人の古代中国史の知識は大体アレくらいしかないんですけど、三国時代って西暦で言うと184年から280年までのことを指すようです。

 でも今回ご紹介する『孫子』はそれよりももっともっと前に書かれた、最古の兵法書です。孫子とは孫武という人と、その子孫である孫臏という人を合わせてこう呼ぶそうなんですけど、それぞれ紀元前515年ごろ、紀元前350年ごろにこれを書いたといわれています(以上Wikipediaさんより)。
三国無双にはいわゆる諸葛孔明や司馬懿といった軍師が出てきますが、孫武はそのさきがけだったわけです。

 当時の中国では戦の勝敗は神様が決めるものだ、という考え方がメインだったんですけど、孫子は数多の戦を分析して傾向と対策をものすごく現実主義的にまとめていったんですね。言われてみれば「あぁ、確かに当たり前だよな」ということが多いんですけど、「気持ちでいけんだろ」みたいな感情論に流されがちな勝負時には読み返したい本です。

 内容は、戦になる前にはこうしなさいよ~、戦になったらこう準備しなさいよ~、本番はこう戦いなさいよ~という風に全部で13編に分かれています。地形編だとか火攻め編だとか具体的にどこを戦場にするかといった部分は普段軍師をされている方くらいしか直接生かせることは無いかもしれませんが、勝負に出る前の準備編は経営者だとか管理人のような平凡な人生を送る人にもとても有用な金言がちりばめられています。

 例えばもっとも有名な『彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず』は戦前の準備の言葉としてかかれています。孫子は基本的には無駄な戦いを避けて利益をもたらすのが最も良い方法だと言っているのですが、いざ戦になったら取り合えず相手の情報を集めろと、そして自分の軍の状態もきちんと把握しろといってます。孫子は特に情報が勝敗を左右するとこだわっていたようで、用間篇というスパイの方法だけで1篇を割いているくらいなんです。

 これって例えば受験勉強にもいえますよね。受験勉強をするにはまず試験にどんな問題が出るかを知らなければ話になりません。受験のプロと呼ばれる人は必ず過去問をやって傾向を把握して、対策を立てなさいといいます。そして自分のレベルをそれに合わせるためにきちんと計画するんですね。うん、兵法、理にかなってるよ!

 私が個人的に好きなのは『勝兵は先ず勝ちて而(しか)る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む』です。戦いに勝つ人というのは相手のことも己のことも良く知った上で、相手が劣勢になった機会を逃さずに「これはいける!」と思って初めて勝負をしかけるんですね。とりあえず戦ってから方法を探すのは敗者のやることだと。いつでも戦えるように準備をして、機をうかがっていることが重要なんですね。

 とっても薄い本で言葉も端的ですが、得るものはきっと多いと思います。日常生活の考えの指針に、持っておきたい一冊です。