奇想の20世紀 (NHKライブラリー)/NHK出版

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お久しぶりです。管理人です。

 長らくブログに読書記録をつけておりませんでした。最近仕事関係の本などを読まざるを得なくなってきまして、なかなか趣味100%の読書をする時間ががが。しかし、2012年から楽しんで読書をしてきたおかげで、勉強のために何かの本を読む、という行為が苦痛ではなくなりました。ほんと、読書ってすばらしいですねえ(水野晴郎)

 さて、本日の本は荒俣宏さん『奇想の20世紀』です。

-未来を空想する力を人類は失いつつあるのではないか(裏表紙の言葉より)-

 この言葉が表しているとおり、21世紀に生きる私達はワクワクした気持ちで未来に焦がれることは確かに無くなってしまった気がします。スマホもパソコンもそこそこ軽量化したし、自動車はまだしばらく空を飛びそうにないし、家事をしてくれる万能ロボットも商品化されそうにないし……。このまま少子化がどんどん進んで滅びるのかなーみたいなね……夢も希望も無い……。

 しかし時は19世紀!産業革命のまっただなかだったヨーロッパの人たちは、輝かしい未来予想図と、どんどん実現していくそれらの未来に心を躍らせていました。本書は、19世紀に大きな変換期を迎えた文化を「進歩」「破滅」「万国博覧会」「エンターテインメント」「スポーツと競争」「発明と特許」「人口速度」「観光」「集中」「開発と原理とこだわり」「アイデアの理想性、実現への収益性」「ショッピング」「セックスとセクシー」「機械化された労働力」「若さ」「健康」「美食」「ファッション」「公共と個」というキーワードとともに考察していきます。年代で云うと19世紀後半から20世紀初頭がメインという感じ。

 ヴィクトリア朝大好きーな管理人にはアルベール・ロビダという風刺画家のお話がとても面白かったです。ジュール・ヴェルヌが「科学万歳!科学力のある未来スゲー!!」という科学賛歌を歌った作家であったのとは対照的に、ロビダは「いやいや、暗い未来に目をつぶるなよ」という視点の人。科学の功罪を的確に見抜く目は驚くものがあります。彼の著書『第二十世紀』は翻訳されているみたいなので読んでみよーっと。

 また1910年の彗星衝突のパニックも今から見るとちょっと笑ってしまう。シアンガスが危ないからガスマスクが発売されるのはなんとなくわかるけど、「彗星解毒剤」なるものが売られ「月世界脱出旅行」なるものまで販売されたらしいから驚きである。なんかここまで来るともう一種のお祭り騒ぎだな。でも「彗星解毒剤」ってなんかロマンがありません!?長野まゆみさんあたりが小説に書いてそうな。

 ほかに印象的だったのは、フロイトによる人類の三つの思い上がりというお話。
人は地動説で宇宙の支配者ではなくなり、進化論で地球の支配者ではなくなり、精神分析学で自分自身の支配者ですらなくなったという。荒俣さんはこれを20世紀の原罪だとおっしゃっています。

 あと興味深かったのは飛行機のお話。熱気球を発明したモンゴルフィエ、グライダーの元祖リリエンタール、そしてご存知ライト兄弟、この人たちみんな兄弟だったんだね!知らなかったです。ロマンを追い求めたリリエンタールではなく、理論を追求していった合理的なライト兄弟が成功をつかむのは合理的で商業的なものを追い求めはじめた20世紀らしいなぁ。同様にエジソンの発明の話もそんな印象を受けました。

 管理人はもう19世紀末の発明とか万博とか大好き人間なのでとても楽しく読めました。今の「常識」ってたった100年前に出てきた新しい慣習であることが多いことがわかってちょっとショッキング。発明、未来、風俗、文化史、こんな言葉にピンと来る方におすすめです!
江戸川乱歩全集 第6巻 押絵と旅する男/講談社

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 桜が綺麗に咲いていますね。管理人です。
用事に出た帰りに桜並木のある道を歩いて帰ったのですが、桜を見る悦びって桜そのものにあるだけではないのかなぁなどと考えていました。辛くて長い冬がやっと終わった悦びや、桜色と対比して鮮やかに写る空の青や、菜の花の黄や雪柳の白や、これから新生活が始まるちょっとした不安や楽しみや、そんな色んなものが集まって桜をいっそう美しいものにしているんじゃないかと。

さて、本日の本は江戸川乱歩『押絵と旅する男』です。

 乱歩短編の傑作と名高い表題作ほか、「盲獣」「何者」「黄金仮面」の中篇がそれぞれ収められています。

以下物語の結末に触れた感想

①押絵と旅する男

 押絵を持った一人の老人に出会った主人公は、彼から不思議な話を聞かされる。渡された望遠鏡で押絵を覗くと、まるでその中の人物は生きているように感じられる。
 なんとも幻想的で幸せなのに物悲しい雰囲気を持った一遍。覗きからくりで老人の兄が見ほれた相手はなんと押し絵の八百屋お七。永遠に歳を取らないお七と押絵の中の世界で生きた兄さんは果たして幸せだったのでしょうか。読み終わった後、まるでいつまでも覚えている短い夢を見たような気分になりました。

②盲獣

 盲目の男が美しい女達をモチーフにして作った『触覚芸術』という発想がとても面白い。もっと美しい話にしようと思えばいくらでもできるのだろうけれど、このような形になったのは芸術と通俗の間を自由に行き来する乱歩らしさといったところでしょうか。目の見える自分には決して知ることの出来ない悦びをうらやましいと思いました。
 しかし乱歩はなんかとにかく美女を次から次に出現させては殺しますよね、気のせい??

③何者

 これは面白い!!管理人イチオシです。
何者かに右足を銃で撃たれてしまった「私」の友人の結城弘一。犯人として名前が挙げられたのはこれまた友人の甲田伸太郎。探偵好きの結城は探偵となり自らを撃った犯人を突き止められるのか。そして怪しげな赤井という男は一体何者なのか?
 かなり本格寄りのお話。被害者=探偵=犯人という意外さももちろん面白いし、赤井さんの正体も全然予想していなかったからびっくりしたのだけど、一番すごいと思ったのが犯人の動機。確かに自分の足を自分で撃つメリットってないよね!でもこの時代にならあったんですね、理由が。乱歩の時代にしか書けなかったであろう作品。

④黄金仮面

 これ確か子供向けにリライトされたのを読んだような。大衆向けのハラハラどきどき怪人が出てくるお話。とりあえずね、乱歩の作品にカーテンからこちらをにやにや見てくる仮面の男が出てきたらそれは絶対仮面だけだし、ベッドですやすや眠ってる美女は絶対すでに逃げ出した後だし、車に乗る前には運転手と座席の下を絶対チェックしなきゃいけないということがよくわかりました。
 黄金仮面の正体はまったくわからなかった!こんなお話だったっけ!シャーロック・ホームズ対ルパンを自分の小説でもやりたかったのね乱歩さんw「地の利はこちらにありますからね」ってちゃんとルパンをフォローしてあげる明智さんww当時ルパンの原作ファンの人が起こると思ったのかしら。
黒蜥蜴 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)/東京創元社

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 最近デコポンが美味しい季節ですね。管理人です。
私はすべての柑橘系のフルーツの中ではデコポンが一番好きで良く買うんですけども、たまーにデコポンのデコがちゃんとポンっとしてないやつがあって、「いよかんですね~」とかっていよかんの値段を払わされそうになることがあるんですよね。まぁそんなに値段変わらないのでいいっちゃいいんですけど。デコポンのアイデンティティそこだけかよ……とちょっと悲しくなります。

 さて、本日の本は江戸川乱歩『黒蜥蜴』です。

名探偵明智小五郎シリーズ唯一の女賊は気高く美しく才気にあふれた緑川夫人。その名も黒蜥蜴。腕に彫られた黒い蜥蜴が体中を這いずり回るようになまめかしい。そんな彼女が次のターゲットに選んだのは宝石商・岩瀬庄兵衛が所有する「エジプトの星」とその愛娘。果たして明智小五郎は宝石と娘さんを守りきることが出来るのか、黒蜥蜴との勝負の行方やいかに!

以下、物語の結末に触れています。

 私が読んだ創元推理文庫版は当時の挿絵がそのままに収録されているのですが、どうして当時のこういう挿絵ってワクワクするんでしょうかね!艶やかな黒蜥蜴と昭和のイケメン明智小五郎の活劇が生き生きと描かれています。

 明智小五郎は変装の名人ですが、黒蜥蜴も及ばずとも劣らない変装の名手なんですね。特に男装をしたときのかっこよさといったら!!男をたぶらかす美少年然とした中世的な魅力にもうめろめろでございます。

 たいがいの女のワルってのは色気で強い男をたぶらかしてのし上がるイメージなんですが、黒蜥蜴の場合色っぽいくせにそれに頼ってる感じがあんまりないんですよね。どちらかというと己の頭脳とピストルですべてを掌握できてしまうタイプ。そこがまたかっこいい。

 そんな強くて頭のいい彼女が初めて見つけた自分を満足させる男は探偵だったんですね。明智を殺してやりたいほどライバル視しているのと同時に、初めて出会った自分を唯一理解できる男を殺したくはないというジレンマ。ラストの物悲しい恋物語は宝石のように美しいです。


 さて、このお話は三島由紀夫が舞台の戯曲にリメイクしています。舞台がお好きな人なら美輪明宏さんの舞台をごらんになった方も居るかもしれませんね!この舞台5月に公演があるんですが、実は今年で最後になってしまうようです。もう販売は終了しているらしいですが、当日券が出るところもあるようですので、興味をもたれたかたは是非ご覧になってくださいね!