江戸川乱歩全集 第6巻 押絵と旅する男/講談社

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 桜が綺麗に咲いていますね。管理人です。
用事に出た帰りに桜並木のある道を歩いて帰ったのですが、桜を見る悦びって桜そのものにあるだけではないのかなぁなどと考えていました。辛くて長い冬がやっと終わった悦びや、桜色と対比して鮮やかに写る空の青や、菜の花の黄や雪柳の白や、これから新生活が始まるちょっとした不安や楽しみや、そんな色んなものが集まって桜をいっそう美しいものにしているんじゃないかと。

さて、本日の本は江戸川乱歩『押絵と旅する男』です。

 乱歩短編の傑作と名高い表題作ほか、「盲獣」「何者」「黄金仮面」の中篇がそれぞれ収められています。

以下物語の結末に触れた感想

①押絵と旅する男

 押絵を持った一人の老人に出会った主人公は、彼から不思議な話を聞かされる。渡された望遠鏡で押絵を覗くと、まるでその中の人物は生きているように感じられる。
 なんとも幻想的で幸せなのに物悲しい雰囲気を持った一遍。覗きからくりで老人の兄が見ほれた相手はなんと押し絵の八百屋お七。永遠に歳を取らないお七と押絵の中の世界で生きた兄さんは果たして幸せだったのでしょうか。読み終わった後、まるでいつまでも覚えている短い夢を見たような気分になりました。

②盲獣

 盲目の男が美しい女達をモチーフにして作った『触覚芸術』という発想がとても面白い。もっと美しい話にしようと思えばいくらでもできるのだろうけれど、このような形になったのは芸術と通俗の間を自由に行き来する乱歩らしさといったところでしょうか。目の見える自分には決して知ることの出来ない悦びをうらやましいと思いました。
 しかし乱歩はなんかとにかく美女を次から次に出現させては殺しますよね、気のせい??

③何者

 これは面白い!!管理人イチオシです。
何者かに右足を銃で撃たれてしまった「私」の友人の結城弘一。犯人として名前が挙げられたのはこれまた友人の甲田伸太郎。探偵好きの結城は探偵となり自らを撃った犯人を突き止められるのか。そして怪しげな赤井という男は一体何者なのか?
 かなり本格寄りのお話。被害者=探偵=犯人という意外さももちろん面白いし、赤井さんの正体も全然予想していなかったからびっくりしたのだけど、一番すごいと思ったのが犯人の動機。確かに自分の足を自分で撃つメリットってないよね!でもこの時代にならあったんですね、理由が。乱歩の時代にしか書けなかったであろう作品。

④黄金仮面

 これ確か子供向けにリライトされたのを読んだような。大衆向けのハラハラどきどき怪人が出てくるお話。とりあえずね、乱歩の作品にカーテンからこちらをにやにや見てくる仮面の男が出てきたらそれは絶対仮面だけだし、ベッドですやすや眠ってる美女は絶対すでに逃げ出した後だし、車に乗る前には運転手と座席の下を絶対チェックしなきゃいけないということがよくわかりました。
 黄金仮面の正体はまったくわからなかった!こんなお話だったっけ!シャーロック・ホームズ対ルパンを自分の小説でもやりたかったのね乱歩さんw「地の利はこちらにありますからね」ってちゃんとルパンをフォローしてあげる明智さんww当時ルパンの原作ファンの人が起こると思ったのかしら。