最後のトリック (河出文庫)/河出書房新社

¥734
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 シーツを洗うタイミングが見つからない。管理人です。
すっきりしない天気に低気圧が続いて、体調を崩されている方も多いのではないでしょうか。低気圧になると具合が悪くなる人がいるというのを管理人も最近初めて知りました。ここ1週間ほど調子が乗らなかった人は、もしかしたら気圧のせいかもしれませんよ。

 さて、本日の本は深水黎一郎さん『最後のトリック』です。

 ミステリー作家である「私」のもとに、香坂誠一という人物から手紙が送られてきた。なんとその手紙には、犯人当てミステリーの最後の砦である「読者が犯人」のトリックを提供したいとの旨が書かれていた。逡巡する作家の下に届けられた2通目の手紙によると、そのトリックの値段は2億円。いったいそのトリックはどのようなものなのか?

以下、物語の核心に触れています。

 とっっってもチャレンジングで、ミステリーを普段読みなれている人には「おお!ついにやったか!!」という新たな扉を開いた作品なのだなぁと言うことが、島田御大の解説から分かります。話運びは面白く、ワクワクさせる言葉やオカルティックな要素も散りばめられて、あれよあれよとページをめくってしまいました。

 が、ちょっと私には合わなかった……。結末を知ったときにがっかりしてしまった……。

 対人恐怖による心臓発作はそもそも殺人……?というところから疑問に思ってしまいました。動機がないからどうも結末にすっきりしないんですね。これは自分が殺人に加担してなんかいない!って思いたいからなんでしょうか……。

 リアルタイムで小説が読者に読まれていることが、ラストのトリックに深く関係していますが、文庫で読んでしまっているので臨場感に欠けてしまって残念です。

 なんだろう、読み終わってこんなむなしい気持ちになったのは久しぶりです。途中まで楽しんで読んでいただけにとても残念。
霊応ゲーム (ハヤカワ文庫 NV レ 5-1)/早川書房

¥1,512
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※本日の記事は腐女子限定ですのよおほほほ。

 BLというジャンル。もう説明するまでもないかもしれませんが、男性同士の恋愛を描いた作品のことを言います。明らかに肉体関係の描写がすごいものはもちろん18禁。しかし、「こいつら付き合ってるとか愛してるとかいう描写ないけど、絶対友達以上だよな!?」と、勝手に読者が腐臭を嗅ぎ付けてしまうBLのことを「匂い系BL」というそうです。

 この匂い系、図書館にあるような本にももちろんたくさんあります。有名なところでいくと先日ご紹介した『デミアン』、漱石の『こころ』、太宰治『駆け込み訴え』、中島敦『山月記』等々。普通の嗅覚を持った方にはただの面白い作品なのですが、腐女子の嗅覚と妄想力にかかればあら不思議、美味しい作品に早変わりです。

 本日ご紹介する『霊応ゲーム』はまさにそんな作品です。

 主人公のジョナサン・パーマーはイギリスの全寮制中学(いわゆるお坊ちゃん達の行くパブリック・スクール)に通う気弱な少年。普段は親友のニコラスやペリマン兄弟と一緒に、目立たずひっそりと学校生活を送っていました。しかしある日、ラテン語の教科書を忘れてしまったとき、隣の席にいたリチャード・パーマーという少年に助けられたときからその生活が一変します。

 このリチャード・パーマー。マジ完璧。マジカリスマ。イケメン・天才・金持ち。黒い髪に青い瞳。(俳優で言うと誰だ……ベネディクト・カンバーバッチ想像したけど・・・・・・イケメンじゃな(ry。トムヒ?黒髪にしたトムヒ??)その完璧なカリスマ性ゆえに、クラスで権力を握るジェームズ・ホイートリーというガキ大将に仲間にしたいと思われていました。

 そんなリチャードがグズのジョナサンとなんか仲良くしてる!?と頭にきたジェームズはジョナサンを執拗にいじめ始めます。しかし、二人の仲を割こうとすればするほどリチャードとジョナサンの絆は深まるばかり。友人のニコラスでさえ、リチャードのことが怖くなってくるほど。そして、ある日、ジェームズの取り巻きの一人が大怪我を負ったところから、悲劇が幕を開けます。

以下、物語の結末に触れています。

 どんな話なのか予備知識なしで読み始めたので、前半ジョナサンとリチャードが仲良くしているのを見て、「わ~ジョナサンがリチャードという味方を得て成長していく感動学園モノかな~」と思っていたら、後半よwwwwwもう思わずうめき声が漏れましたね。

 「霊応ゲーム」とは日本で言うこっくりさんのようなものなんですね。儀式をしてそれに霊が応じるから霊応ゲームなのかしら。このゲームを行った二人の周りでは奇妙な自殺・事故・事件が相次いで起こっていきます。いじめっ子達の大怪我や事故、ジョナサンをからかったラテン語教師の過去の悪事の暴露からの発狂、校長先生の夫婦の問題。これって偶然なの?それともリチャードがその偶然が起こるように裏で動き回っているの?と不安を煽ります。

 奇妙な事件が続いて、初めて恐怖を感じたジョナサン。しかしそのときにはもう魂までリチャードにつかまれていて、逃げることは不可能でした。死を覚悟していたジョナサンと、それを予期していたニコラスの友情が切ない……。結局すべてを失って一人きりになってしまったニコラスが物語の語り手で、そしてまだ霊応ゲームは終わっていないのが怖い!

 なぜリチャードはジョナサンを殺したのか。そして彼が最後に見たのは一体なんだったのか。そして彼はなぜ死んだのか。すべてを説明してしまわないで、読者の想像にお任せしますというのがすばらしい余韻となって心に残ります。

 映画化して!!マジで!!絶対見に行くから!!!
デミアン (新潮文庫)/新潮社

¥464
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みなさんこんにちは、最近めっぽう暑いですね。

 私事で恐縮ですが先日英検を受けました。恥ずかしながら準2級。中高生が主な受験者の中でもういい大人の自分が受けるのは勇気が要りましたが、これが英語のある人生の第一歩になってくれることを願っております。いくつになっても!!勉強ってしていいもののはずなので!!

さて、本日の本はヘッセ『デミアン』です。

 主人公は10歳の少年エーミール・シンクレール。彼は敬虔なクリスチャンの「よい」おうちに生まれ、優しい両親と真面目な姉達に囲まれて幸せに暮らしていました。しかしそんな暮らしの中で、彼は世間が神様が支配しておられる「よい」ものばかりだけではなく、悪いもの・汚らしいものによっても構成されていることを日ごろから感じていました。
 ある日、シンクレールはクローマーという悪ガキに見栄を張って嘘をついてしまったことから脅迫され、彼の支配下に置かれてしまいます。「よい」世界からはっきりと隔絶されてしまったことを知ったシンクレールは悪い世界へとどんどん引きずられていってしまいます。

 そこに現れたのが上級生の転校生マックス・デミアンです。彼は男のような女のような、老けているような少年のような、まったくつかみどころの無い不思議な少年でした。彼はどんな方法を使ったのか、追い詰められているシンクレールの心を見抜き、クローマーを遠ざけてくれました。シンクレールに、彼は言います。「よい」ところだけしかない神様は不十分であり、「よい」ものと「わるい」ものとを併せ持った神様を信じなければならないと。その日から、シンクレールは大人になり始めます。

以下、物語の結末に触れています。

 いや~~~~~~いいですよね!!少年!!!
朴訥とした少年とすべてを分かったような美少年の組み合わせが美味しくないわけないですよね!!デミアンかっこいいよはぁはぁ。

 でもきっとこの物語の本質は前半のほのぼの少年物語ではなくて、後半の戦争と自分自身の発見の部分なのでしょう。様々な人物と出会って自分とは何かを探求するシンクレールは、最終的に自分=デミアン=デミアンママ=求めていたものであると知るわけですね。最終的なゴールは自分自身を知ることであるということなのでしょうか。

 この作品はヘッセの変換期的作品であり、物語の前半と後半で作風がガラッと変わる成長が見えるそうな。確かに前半の分かり易い、ちょっとノスタルジックな展開と、後半の印象は大きく違うように感じます。