「猟奇」傑作選―幻の探偵雑誌〈6〉 (光文社文庫)/光文社

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 昭和初期に相次いで誕生した探偵小説雑誌。
しのぎを削り合ったそれらの雑誌でしたが、多くは短命に終わったようです。本日の本に収録されております『猟奇』という雑誌はその中では5年も続いた人気雑誌であったようです。この雑誌は江戸川乱歩と春日野緑が中心となって発足した大阪の「探偵趣味の会」から誕生しました。今回はその中から気に入った作品の感想を。

以下ネタバレ。

①夢野久作『瓶詰の地獄』

 潮流の研究をしていた海洋研究所に、研究用とは別に三つの瓶が流れ着いたという手紙が届きました。以下は、到着した三つの瓶に入っていた手紙の内容です。

 第一の瓶。どうやら瓶は無人島から流されているようで、差出人は二名。以前にも同様の手紙を流した旨が書いてあり、今まさに救助の船が島に着こうとしているようです。しかし当人達は救助を喜ぶどころか、自らが犯した罪の重さ故に死を選ぼうとしています。

 第二の瓶。二人の島での生活が綴られています。どうやらその二人は兄妹で、孤独に対する恐怖からかお互い密かに想い合っている様子。しかし筆記者である兄は、その事を大きな罪だと悩み苦しんでいます。

 第三の瓶。無人島に流れついた二人が健気に無事を報告し、助けを求めている手紙。

 この瓶が流れ着いた順番が物議をかもしているようですね。私は③→②→①だと思いました。
 でもそうすると第三の瓶がカタカナで書いてあるのがあんまり納得できないんですよね。第一、第二は兄の太郎が書いているからか流暢な漢字とひらがなの文なのに、第三の瓶だけアヤコとおぼしきカタカナが綴られている。
 また第一、第三の瓶は二人いるという事が明記されているのに、第二の瓶は太郎しか記していない。もしかして、順番は③→①→②で、第一の瓶に入っていた手紙を書いた直後、太郎とアヤ子は氏を決意するもののアヤ子だけが死んでしまい、第二の瓶で太郎はその思い出をまだアヤ子が生きているかのように綴っているという可能性もあるでしょうか。
 いろいろと楽しめる切れ味鋭い掌編でありました。

②本田緒生『拾った遺書』

 両親に強く反対されながらも愛し合う一組の男女と、その女に横恋慕してしまった一人の男性。本作はその横恋慕した男が書いたとおぼしき遺書。その遺書には、彼が、愛し合う男と女にそれぞれ「明日○時○駅で言葉も交わさずに死のう」という手紙を出して彼らを殺害したという告白が書いてありました。
 こういった心中が本当にあったなら……?と考えると恐ろしい作品です。

③角田喜久雄『和田ホルムス君』
 ホルムスとはシャーロック・ホームズのこと。ちょっととぼけているけれど人からは珍しい好人物と称される和田君。彼のお家に泥棒が入ります。和田君は泥棒がする願掛け、つまりはう○こから犯人を見つけ出します。軽妙で面白い。

 他にも岸虹岐『吹雪の夜半の惨劇』や西田政治『肢に殺された話』もミステリ・怪奇色があって面白かったです。

 あとなにより楽しいのがコラム!!今で言う2chみたいな漢字でみんな好き勝手言ってます。「江戸川乱歩はオワコンwwwww」とか「『新青年』が『猟奇』をパクってる件」みたいな投稿がたくさん載っています。当時の読者の率直な意見を見る貴重な資料ではないでしょうか。
 
「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール (ブルーバックス)/講談社

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みなさんこんにちは~。
 
ブルーバックス完全読破を夢見る管理人です。
今回の作品は藤沢晃治『「分かりやすい説明」の技術』です。
自分はどうも説明が下手でして
言葉は重ねるのに全然真意が伝わらないんですね。
なのでこの本で勉強してみました。
 
以下、自分用メモ。
説明上手になるための15のルール。
 
①タイムラグの存在を知れ。
「わかる」ということは説明されたトピックが脳内で整理されて収納されるということ。
説明する側とされる側にはその内容に対して最初は温度差が存在する。
説明される側があったまるまで待つこと。
 
②概要を先に伝えておくこと。
 
③「間」を置きながら、染み入るように話せ。
意味別の区切りごとに小休止。
キーポイントを話した後に間。
複雑な概念を話すときには、相手が整理できる時間をちょいちょいはさむ。
 
④具体性と抽象性のバランスをとれ。
全体説明と部分説明を適宜行き来する。
 
⑤説明もれに気づけ。
前提条件がまず伝わっているか確認する。聞き手はどの知識レベルか?どういった層なのか?を意識する。
 
⑥情報構造を浮かび上がらせる。
大項目、小項目を明確に。対比、同列関係を明示せよ。
重複をさける。修飾語を使う場合、どの言葉を修飾しているか明確にわかるように。
 
⑦キーワードを使え。
何度も出てくるものはオリジナルのキーワードを使って説明を端的にすること。
 
⑧論理的な主張をせよ。
一つ一つの説明に裏づけを。一度裏付けたら次はそれを使って証明をしてよい。
 
⑨聞き手が知っている事例にたとえる。
名言・格言・ことわざを活用する。
 
⑩聞き手の注意を操作する。
要点を話す前に「問いかけ」、注意を向ける。
「まとめ言葉(要するに、何が言いたいのかといいますと、つまり、誤解していただきたくないことは、結局)」を使い、聞き手の脳内整理作業を助ける。
 
⑪聞き手を引率せよ。
常に聞き手に地図を示し、何を説明中なのか分かるようにする。
聞き手が落伍していないかチェックする。
 
⑫繰り返しの劣化に注意せよ。
「え?」と聞き返されたら言葉が不明瞭になっている。注意。
自分は何度も説明していても、聞き手は初めてだということを忘れるな。
「伝える」気持ちを取り戻せ。
 
⑬持ち時間を守れ。
説明内容の要点を大、中、小の見出しに整理しておけ。
例えば完璧に説明するのに100の要点が必要だとする。
20分ならばそのうちの2,3の特に大事なものだけ説明する(大見出し)
90分ならば100個全部説明すればいい(小見出し)
 
⑭聞き手に合う説明をせよ。
前提知識の共有は大事。
 
⑮聞き手を逃すな。
部屋の温度、早口、声が小さい、飽きる、知らないと恥ずかしい、関心がない等話し手が不快に思う要素をなるべく排除しておく。
切リ裂きジャック・百年の孤独 (集英社文庫)/集英社

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 みなさんこんばんは。
夜、鈴虫の鳴く声で秋を感じる今日この頃ですね。

 管理人は相変わらず無職とニートと契約社員の間をうろうろしております。最近は次の仕事に向けてお勉強を頑張っている毎日でございます。

 さて、本日の本は島田荘司御大『切り裂きジャック・百年の孤独』です。友人の家でたまたま見かけて無理言って借りました。確か8年くらい前に読んだんじゃないかしら……。でも内容をすっかり忘れていたので再読。

 時は1988年、東西に分裂したベルリンが舞台です。貧民窟と化した西ドイツで娼婦だけが次々と殺される連続殺人が起こります。彼女達は全て咽喉を刃物で切り裂かれ、犯行時間の長い者は腸を引きずり出されていました。世間をおびえさせる殺人鬼を捕まえようと警察は躍起になって犯人を追いますが、その途中で女性巡査モニカ・フォンフェルトンが犯人に襲われて大けがを負ってしまいます。彼女は先日、恋人のカールから大きなダイヤとともに結婚を申し込まれた幸せな女性だったはずなのに。

 そんな、全く犯人を挙げられない警察の元に手紙が届きます。手紙の主である切り裂きジャック研究家は一連の殺人事件が1888年に起こったロンドンの切り裂きジャック事件と告示している事を示唆します。そして百年の時を越えて、二つの事件は驚くべき解決を迎えます。

以下ネタバレ

 もうね、島田先生ファンだから。賛美の言葉しか出てきませんよ。切り裂きジャック事件についてあまり詳しい訳ではないんですがその特徴として
①娼婦ばかりが狙われている。
②腹部が切り裂かれている。
③五人殺した時点で目的を達成したかのようにぱったりと殺人を辞めている。
というのが挙げられるんですが、本作はそのいずれにも「なるほど!」という解答が用意されています。もちろんこれが一種のファンタジー要素を含んだ島田先生言うところのミステリであることは十分承知なのですが、始終ワクワクしっぱなしです。もちろん綺麗な伏線の回収、リアルなベルリンの描写、スリリングな展開といった手腕は健在。短いながらも読ませます。

 解説の深町眞理子さんの『島田荘司さんの作品を、私はかねてから密かに"夢のあるミステリー"と名付けている』の言葉には多いに納得。「センス・オブ・ワンダーをくすぐられるんですよね。ちょっとくらいリアリティがなくてもいいんです!!面白ければ!夢があればそれでいいんですよ!!

 余談ですが、8年前に読んだときにはクリーン・ミステリさんが誰か分からなかったのですが、今読むと「あー!そうか!そうだよね!」と妙に納得ww私も知らぬうちに御手洗フリークになってしまいましたとさ。

 そんな御手洗シリーズ!ドラマ化の噂があるようですね!!噂になっているのは『傘を折る女』だとか。マンガ化もされてますし今度こそ……今度こそお願いしたい……。御手洗さんは玉木宏さん、石岡君は堂本光一さんだとか。ああ~今度こそ噂で終わらないでほしい!待て!続報!