旅のラゴス (徳間文庫)/徳間書店

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 皆さんこんばんは。
朝夕冷え込みますが、いかがお過ごしですか。
冷え性の管理人は冬がつらすぎてつらすぎて叶いません。冬こそゆっくりお風呂に入って体を温めようと思います。

 さて、本日の本は筒井康隆さん『旅のラゴス』です。裏表紙の売り文句には「物語を破壊しつづけた筒井康隆が挑んだ堅固な物語世界!」とあります。確かに私の知っている筒井康隆さんは「これって小説としてありなの?」という作品を書いていた人のはず!!気持ち悪くて不快で下品で面白い小説を書いていた人なはず!(印象には個人差があります)

 で、でもほら……『時をかける少女』みたいにピュアッピュアなのもお書きになるし。よし、読もう!!と思って手に取りました。

 本作はタイトルのとおり、ラゴスという名の青年が旅をするお話です。
ラゴスのいる星は、高度な文明を持ったご先祖さんが逃げ込んできた星で、その文明はポロという場所の1室にある書物に記されて残っているばかりで、かなり原始的な生活に戻ってしまっているようです。もちろん高度な文明を持った2200年前の人が地球人とは一言も書いていないのですが、私はそう考えて読んでしまいました。

 そんな未発達の文明に逆戻りしてしまったラゴスたちですが、私たちには出来ないような特殊な能力を持っている人がたくさん居ます。「転移」という、心の中に浮かべた景色に瞬間移動できる能力や、家畜や人の感情を読み取る能力、心に浮かんだ人の顔をたちまち再現してしまう能力……ラゴスはいろんな能力を持った人に出会います。

 ラゴスの旅は基本的に一人旅なので、出会いもあれば別れもあります。カットインしてきたと思ったらカットアウトしていっちゃうモブ。いつまでも心に残り続ける女性や当時の仲間。余分な描写は一切なく、分かれてしまった彼らのその後を知るすべはありません。旅は一期一会ですからね。

 以下ネタばれ

 ラゴスは目的の書物を見つけ、その知を赴くままに享受し成り行きから旅の出発点、つまりは自分の家に戻ってきます。でもその途中で本を書き写した貴重なメモを山賊に捨てられてしまうのですね。知識・学問を最高のものだとして考えていたラゴスにとっては身を切られるような壮絶な辛さだったのではないでしょうか。

 しかし、紙を捨てられてしまったラゴスは『その十五年のうちにお前は、人間の生み出した知の遺産が、十五年どころか、ひとりの人間が一生かかろうが、二生、三生かかろうが学びきれぬほどの膨大なものであることを身にしみて悟ったのではなかったのか(以上引用)』と気づきます。文明に対して常に謙虚であったラゴスにも傲慢さがあったのだということなのでしょうか。

 故郷に帰ったラゴスは今、自分ができる役目をすべて終え、再び旅立ちます。今度は自分の心の赴くままに。解説の鏡明さんは、この物語における未来が、過去そのものである、と書いていますね。再び旅に出るには、一度帰郷せねばならんということらしいです。なるほどなぁ。

 読んでみた感想は、なんだろう。思考停止してます。馬鹿たれな自分にはうまい感想など書けそうもないです。ただ、ラゴスの旅は人生そのもので、私の人生にもきっと到達点があって、帰るべき原風景があって、そしてまたそれを知って旅に出ることになるのだろうなぁと思いました。旅に出るというのは、生きるということで、ラゴスが旅をやめないというのは、生き続けることを辞めないということだと今の私は思いました。

 不思議なパワーと切なさを与えてくれる本です。とても好きな本に出会えました。
カクレカラクリ (講談社ノベルス)/講談社

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 みなさんこんにちは。
最近寒いですよね。寒さ弱い人間の私にはつらい季節がやってきました。
冷え性ってどうやったら治るんだろう。
運動がいいって聞くんですけど、管理人は水泳くらいしか運動できないんですよね。
球技だめ、走るのとかもっとだめ……。水泳って逆に寒くないかな。

 さて、本日の本は森博嗣さん『カクレカラクリ』です。
むかーしドラマやってなかったっけ、と思ったら
森博嗣さん初のドラマ化作品だそうです。そうだったんだ。

 120年前、鈴鳴村に仕掛けられたという大仕掛けなカラクリ。
それが120年後の今年、動き出すという言い伝えがあった。
廃墟マニアの郡司と栗城、同じ大学に通う花梨とその妹・玲奈は、その謎に挑むが……?

 以下ネタばれ

 とにかくね!読み終わった人全員が思う感想はね!
「コーラが飲みたい!!!!」きっとこれに尽きますよ。
 玲奈ちゃんが飲んでるコーラが美味しそうなんだ……。作中でも「サブリミナル効果?」と言っていたみたいに何度も何度も出てくるから、管理人はコーラが飲みたくて飲みたくてしょうがなかったよ。飲んだよ実際。
 なんでこんなにコーラが出てくるんだろうと思ったら、この作品はコカ・コーラ社創立120周年記念のために書かれたものだからなそうな。なるほどね、通りでこんなにもコーラを推すわけだ。

 120年の時を経て動くカラクリがどんなものか、と主人公たちが考えているところが機械音痴の私にはなるほどなぁと思いました。120年動き続ける機械を作るより、120年とまっていてまた動き出す機械を作るほうが難しいんですね。ほこりや汚れが溜まるし、120年後を確実に知らせてくれる別の動力がないと駄目ですからね。現代の技術でもやっぱりこれは難しいのかなぁ。

 そこでカラクリ師・磯貝機九朗が選んだものは祭りの山車が橋を渡るときにかかる重量でした。これ自動車が通っちゃうとアウトだと思うんだけども、さすがの天才カラクリ師もこんなに自動車が普及すると思わなかったのかな。

 謎解きは結構あっさり目。きっとドラマ化が前提だったから易しくしたのかな。対立した旧家もその対立の役目を終えて、肩の荷が下りた花梨は自分の道を歩みだしました。大学生の夏に読みたい青春冒険ストーリーでした。

 さて、この森博嗣さん。S&Mシリーズがドラマ化ですよ!!FOOOOO!!!
犀川先生が綾野剛さん、萌絵が武井咲さんだそうです。
原作を読んだのが私が中学生だったときですから、もう14年以上前のはずなので、放送前に読み直したいと思います。
果しなき流れの果に (ハルキ文庫)/角川春樹事務所



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 海外のSFオールタイムベストといえば『星を継ぐもの』や『夏への扉』が選ばれるそうですが、日本のオールタイムベストでは小松左京さんの『果しなき流れの果に』がよくランクインするようです。これは読まねばならないと思って手にとってみました。




 話のスケールが大きすぎてあらすじを書くのが不可能なので事の起こりだけ。大泉教授に呼ばれた研究員の野々村は白亜紀の地層から出てきたという不思議な砂時計を見せられます。その砂時計は落ちてくる砂がまったく減らず、永遠に時を刻み続ける四次元空間でつながれた砂時計でした。


 この奇妙な砂時計を調べようと思った矢先、この発掘に関わった大泉教授が心筋梗塞で倒れ、番匠谷教授も何者かによって意識不明の重態。その謎を探ろうとした学者も死亡。そして野々村自身も愛する恋人・佐世子を残して忽然と姿を消してしまいます。




 ここからはもう長大すぎて私には理解ができませんでしたので、こちらのブログ『無名戦士の黒い銃』
さんであらすじをご覧下さいませ。管理人は読みおわってこちらのブログを読んで、やっと話の流れがおぼろげながら分かった感じです……。




 未来では地球を滅ぼすような太陽の変動があって、人類を救い出す(という名目で意のままにあやつる?)目的を持った宇宙人と、それに対抗する何らかの組織の対立があるようです。地上に残ったハンス、宇宙船で逃げるという指名を追った松浦・エルマはそれぞれ別のグループの仲間になってしまったかんじ。




 その中で「時間移動できる能力を利用して、人類が1万年かけて学んだことを100年で出来るように教える。それを何度も何度も繰り返して自分たちが想像も出来ないようなレベルに到達することができる」という考えはなるほどなと思いました。バックトゥザフューチャー世代だからか、なぜか過去は決して変えてはいけないのだと思っていました。現在の世の中も何者かの介入を受けているのではないかという考えも壮大で素敵です。




 あと心に残ったのは宇宙人がいうところの「階梯」を進むたびに個人としての思考や判断は、種としての思考や判断に統合されていく、というものですね。現在の私たちのように肉の生命とともに、そのいのちを終える存在は第二階梯に過ぎないのだそうです。




 さて、ラストは壮大な物語から野々村が帰ってきます。記憶も感情もすべて失って。そのときの彼が見た景色がなんと鮮やかでかけがえのないものであったか!




『湿った土の上にむしろがのべられ、今年の梅の実が、まだ漬け込む前の、つやつやしい鶯色の肌をにぶく光らせながら並べてあった。鶏の白い羽があたたかく光り、雛どものあわい金色の柔毛が、その間をふわふわした煙の玉のように転がっていた(略)』




 五感に訴える素晴らしいラストでした。小松左京さんは本作を書くのにとても苦労されたらしくて何度も辞めようと思ったそうです。ラストの70ページを書き上げたときはペンを握ることすら困難なほどに憔悴しきっていたとか。文字通り身を削る思いで作り上げた本書は、読む人を圧倒し、それはいつまでも心に残ること間違いありません!