想像ラジオ/河出書房新社

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 いとうせいこうさんっていったい何やってる人なんだろう。
昔大食い選手権みたいなやつの司会をやってらっしゃった記憶もあるし、みうらじゅんさんと仏像を見に行っていた記憶もあるし……。一番印象に残っているのはシティーボーイズさんのライブで舞台に出ていらっしゃったときのこと。管理人はシティーボーイズが好きなんですが、昔は毎年のように出ていらっしゃったんですよね。中村有志さんと。5人の公演が大好きでした。『マンドラゴラの降る沼』はもちろん『スイカ割りの棒 あなたたちの春に 桜の下で始める準備を』も生で見に行きました。素敵でした。

 そんな「なんかちょっと面白いことをする人」という印象だったいとうせいこうさんなんですが、小説もお書きになるんですよね!むしろこっちが本業なのかな?『ノーライフキング』をずっと昔に読んだ記憶があります。忘れちゃいましたけど……。

 本作はラジオのお話。DJアークという箱舟みたいな名前の人が送るラジオです。
でもこのラジオ、AMにあわせてもFMにあわせても聞けないんです。ではどうやって聞くかというと、ただ想像するだけでいい。だから「想像ラジオ」なんです。

 この話はラジオを聞いたことがある人とない人で印象が違うんじゃないでしょうか。ラジオを聴いていた人って、青春の中にラジオの記憶があるもので、嫌でもそのときのノスタルジックな雰囲気が思い出されてしまいませんか……?私も深夜ラジオを馬鹿みたいに聞いていた世代なので、なんだろうな、ラジオを聴いていた人たちの中に変に芽生える孤独な連帯感みたいなものを思い出しました。
 ラジオってたぶん一人で聞くことが多いと思うんですよ。テレビと違って。しかも夜に。でもラジオの中には自分に話しかけてくれるDJさんがいて、面白い話題を提供してくれるはがき職人さんが居て、恋愛に悩んでいる学生のリスナーさんがいて……ってなんだか孤独を慰めてくえっる存在じゃなかったですか?

 このお話の中でラジオを聴いているのは死んでしまった人たちです。しかも、東日本大震災で。生きている人たちと死んでいる人たち、それぞれの想いが切々と語られていきます。

 印象に残ったのは「死んだ人を忘れよう忘れようとしている」という箇所でしたね。もう震災から3年半経ちますが、確かに当時は「早く忘れなきゃ前に進めない」と自分たちに言い聞かせていたような気がします。でも、忘れなくてもいいのではないかとこの本はいうわけですね。死んだ人はそれをうらみ続けていいし、生きている人は死んだ人を思い続けても良い、それが本当の死者との共存なんじゃないかって。

 誰も幸せにはならないけれど、どこかで誰かが自分のためにこんなラジオをしていてくれたらなと感じた本でした。
幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))/早川書房

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 唐突ですが、私、夏にさくらんぼ酒を仕込みました。
それがやっと3ヶ月経ったので満を持して飲んだのですが、
アホみたいにまずくてトイレの洗剤を間違えて飲んだのかと思いました。
今はこの毒劇物の処理法を考える毎日です。
お酒嫌いなのになんでお酒にしちゃったんだろう。
シロップにすればよかったよ。

 さて、本日の本はウィリアム・アイリッシュ『幻の女』です。
江戸川乱歩が猛烈な勢いで推したというサスペンスの傑作です。

 舞台はニューヨーク。ヘンダースンといういたって平凡な男が奥さんと口げんかをしてしまいます。腹が立った彼は名前も知らない行きずりの女と酒やショウを楽しんで一夜をすごします。しかし、帰宅した彼を待っていたのは無残に殺された奥さんの死体と刑事。当たり前のように嫌疑をかけられ、有罪にされたヘンダースン。彼に残されたのは死刑執行までの150日間だけでした。

 彼の無実を証明してくれるのは事件当夜一緒に居た顔も名前も分からない「幻の女」だけ。しかし、その夜に会話したはずのバーテンも、タクシー運転手も、誰も彼女の顔を見ていないというのです。まるで霧のように夜が明けると消えてしまった彼女の痕跡。わくわくする謎でございます!!いったいなぜ彼女は名乗り出ないのか、なぜ彼女を見た人が誰も居ないのか。ヘンダースンはたった一人の親友、南アメリカに行ってしまったロンバードを呼び戻して、事件解決を依頼することになりました。

以下ネタばれ

 私はね、ロンバードが出てきたときに二人の友情に感動すらしたんですよ!!!よく戻ってきてくれたと。ロンバードお前良いやつだなと。これからロンバードが活躍して二人のブロマンスが展開してくれると心のどこかで期待していましたよ。

 だまされたああああああああ!!!!

 おおおおまあああえええええ!!!親切な振りして!!この野郎!!

 確かに調べていく先々で事件に対して口をつぐんでいた関係者たちが謎の死を遂げていくのはタイミングがよすぎるなぁとは思っていたのですが……いや~、盲点でしたね。なにせ彼の目線で事件を追っちゃってますからね、まんまとだまされてしまいました。

 ヘンダースンに感情移入している読者からすると、手がかりをつかもうとすれば逃げられ、つかもうとすれば逃げられで本当にやきもきさせられましたが、同じようにロンバードも「やばい、こいつ口割りそう。殺さなきゃ!」「やばい、ホントに女見つかっちゃった!!殺すしかない!!」と別の意味でやきもきしていたんですね。

 ラスト、もういよいよ電気椅子にヘンダースンが座らされる直前で見つかった「幻の女」(このパンフレットのあぶりだしも見事)を、彼の元へ送り届けるロンバードがなんとたくましく見えたことか。その後の彼の豹変振りにどれほど驚いたことか。手に汗握る展開に、ページをめくる手が止まりませんでした。まさしくサスペンスの傑作です。


 
人間の建設 (新潮文庫)/新潮社

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 さて、本日2冊目は『対話 人間の建設』です。
たまたま本屋に行ったら、新潮文庫の100冊フェアをやっていました。普段そういうフェアとは無縁に生きているんですが、なんだか気になってこの本を手にとってしまいました。「やめとけ!!お前みたいなのが読んでもきっと理解できないぞ!」という声と「でもほら、やっぱりちょっとちゃんとした本も読んでみたいから!」という声の対決の末、読んじゃいました。

 小林秀雄と岡潔が誰かもまず知らないよね。管理人ね。
小林秀雄にいたっては音楽プロデューサーだっけとか思ってたよね。それ小林武史だったよね。全然違ったよね。

 小林秀雄さんは哲学書について本を書いていたり、批評を一ジャンルとして確立したりした文系の超天才(っつっても理系の知識も普通の理系の人よりあるんじゃないかな)。岡潔さんは数学の解析学という分野でなんかすごい発見した超天才らしい。もうね、管理人のボキャビュラリーと教養がなさすぎてこんな紹介しか出来ないよね。wiki読んでください。

 で、読んでみました。

結果。ぜんっぜんわからない。

 もうねwww随所に「日本語でおk」って言いたくなるくだりがあるwww
『集合論で、無限にいろいろな強さ、メヒティヒカイトというものを考えているのですね。その一番弱いメヒティヒカイトをアレフニュルというのです(以上引用)』
 はいはい、おっけーおっけー!!メヒティヒカイトね、はいはい。なにそれ?こんな高度すぎる雑談が結構あります。でもなぜか面白くて読み進めちゃいました。

 『人は自己中心に知情意し、感覚し、行為する。その自己中心的な広い意味の行為をしようとする本能を無明という』だそうです。管理人覚えました。ピカソは無明からくる絵だから面白くないとかなんとか。え?まじで?そんなこと伝わってきちゃう?私は全然伝わらないよ!?

 個人的に理科を勉強しているので気になったところメモ。
『釈尊は諸法無我といいました。科学は無我である、我をもっているものではないということを教えこまないといかんわけです。自然科学の弊害は多いですね(中略)科学することを知らないものに科学の知識を教えると、ひどいことになるのですね。主張のない科学に勝手な主張を入れる(以上引用)』には大いに共感しました。科学はいいものでもわるいものでもなくて、ただそこにあるものなんだということですね。

 あとは、人は論理的であることが証明されたとしても、納得はできないことが数学的に証明された、という話に驚きました。学問というものは合理性・利便性だけでは進まないのだそうです。知識を得られるから、それに意味があるから、だけでは人は動かない、そこには情というものが存在しなければならないのだそうです。私は今まで学問(特に数学)なんていうものは人間の感情というものが介在しない厳然たる存在だと思っていたのですが、認識を改められました。

 岡さんはものすごい日本人気質?があるようで「死を見ること、帰するが如し」と飛び立っていた神風を生んだ日本人にしか真の無差別智。純粋直感は働かせることが出来ないといっています。これはちょっと今読んだら偏っている意見に聞こえるのじゃないかしら。しかし、日本という民族がそのために用意されているという言葉にはハッとさせられました。自分は自分のことを死ねる民族だとは思っていませんが、この時代はまだそうだったんでしょうね。

 他にもたくさんの話題があります。きっとすべての人の琴線に触れる話題があるはずです。わからない!分からないけどなんか面白い!ちょっと賢くなった気がした読書体験でした。