プラネタリウムのふたご (講談社文庫)/講談社

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 明確な悩みがある人、そういうのはないけれど漠然とした不安がある人、世の中にはきっと悩んでいない人なんていないんじゃないでしょうか。かくいう私も毎日何かに悩み、不安に思い、このままでいいのかと焦り、結局何も出来ない日を送ることが多いです。

 そんなときに友人にこの本を薦めてもらいました。いしいしんじさんの『プラネタリウムのふたご』です。いしいしんじさんの本は『トリツカレ男』をむかーしに読みました。大人の童話、すこし説教くさい話?を書く人なんだな~と言う印象でした。自分には縁がない人だなと思っていました。

 でも、今回。本当に読んでよかった。読む時期も、きっとよかったのだと思います。

 お話は、とある田舎町のプラネタリウムに銀色の髪をした双子が捨てられていたところから始まります。双子はいつも泣いているような顔をしている泣き男の元で、星空の神話を聞かされて育てられます。ある日、あるサーカスの一座が村にやってきていつも一緒だった双子は別々の人生を送利はじめることになります。

 手品の才能を開花させ、喝采を浴びるテンペル。
田舎町で毎日プラネタリウムの公演をし、郵便屋として働くタットル。
二人はまったく別々の人生を歩みながら、さまざまな人に出会い、さまざまな出来事を体験していきます。たった一人の友人である犬を失った兄貴の話、山の伝統である熊狩りのために熊に化けるタットル、自分宛に手紙を出し続けていた老女、手癖の悪い栓抜き。
 愚かに見えるのに、それを自覚している登場人物たちが、管理人にはとても強かに見えました。きっと人によって胸を打たれるエピソードは違うのではないでしょうか。きっと10年後、この本を読んだら抱く感想はまた違うのでしょう。

 私は女だからなのかどうかはわかりませんが、老女の話が一番心に残っています。老女は忘れられた存在です、くだらない存在です、弱い存在です。実際はそうではないのですが、その人の価値は誰かが認めないとないも同然なんです。しかし彼女もそれは自覚していて、なお自分に出来ることを精一杯しなさい、与えられたことをやりなさいと淡々と生きているのです。
 私は毎日自分ではくだらないなーと思う仕事をしたり、これに意味があるのかなぁと思うようなことをして自分って駄目だなと思うことが最近多かったのですが「自分にできることくらい、しっかりやらなくてどうするの」と本当のおばあちゃんに言われたような気がしました。

 さて、物語の最後で双子に大きな別れが訪れます。テンペルは自分に与えられた手品の才能を惜しみなく発揮し、別れの悲しみの中で今度こそタットルは自分に出来ることをきっちりとやり遂げます。

 理不尽で嫌なことは誰の身にも起こりうることですが、その中に一縷の光を見つける力をこの物語は与えてくれたような気がしました。そして、ほんの少しだけ自分の孤独を和らげてもらったような気がしました。

 また読み返すのはきっと辛いとおもう。思うけれど、手元において何度も読みたい本でした。
凍花 (双葉文庫)/双葉社

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 長女の百合ねぇは何でもこなす完璧な人。綺麗な容姿に賢い頭に母親のような優しさ。次女の梨花ねぇはわがままなところがあったり男にだらしないところがあったりするけど、モテモテの人気者。そんな二人の姉を誇りに思っている三女の柚香。「三人揃えば、最強の三姉妹」……だと思っていた、百合ねぇが梨花ねぇを殺すまでは。

 完璧だと信じていた優しい百合ねぇはいったいなぜ次女を殺すにいたったのか。近いようで一番謎の多い存在である姉妹の恐ろしい秘密を探るお話です。

以下ネタばれ

 軽い語り口で読みやすく、一気に引き込まれます。憧れだった百合ねぇの自分の知らない姿が徐々に浮き彫りになっていき、彼女の印象が180度変わってしまう。一つ屋根の下、仲良くしてくれていたと思っていた姉が、影では自分たちの悪口を日記に書いていた。ショックを受けて姉は頭がおかしいやつなんだと思おうとする柚香だが、その日記の真実の意味に気づいて……。

 という話なんですが、なんだろうリアリティがあるようでいて伝わってくるものがなかったです。人が見せている表面的なものと実態には違いがあるよなんていうのは当たり前だと思うし、それをずっと表に出せなくて日記にしか吐き出すところがなかった姉には私のようなぐうたらなやつは共感もできず、あまりにデリカシーがなさ過ぎる主人公の柚香にはなんだか腹が立ってしまい……。百合が妹を殺した感情を追体験していくのが本書の肝だと思うのですが、しびれるような「あーーーわかる」が自分にはなかったです。

 評価が高い本なので、きっと他の人は共感できているのだと思います。SMAPの中居さんがおススメされていたようですね。私には合わなかったというだけなのかな、残念。
幻獣標本箱/風濤社

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 毎日暑いですね。
学生さんは夏休みを満喫されていらっしゃるでしょうか。
常日頃から休みたい休みたいと愚痴をこぼしている管理人ですが、いきなり1ヶ月も休みをもらったら毎日だらけてしまって有意義に過ごせる自信がありません。

 さて、本日の本は江本創さん『幻獣標本箱』です。
読むというより見て「おお~」となる作品集です。
未確認生物ハンターという特殊な職業の作者さんは古今東西からさまざまな幻獣を捕まえてきては標本にし、研究機関に提供しているようです。

 日本にも人魚のミイラだとか、鬼の手のミイラみたいなものが古くから伝わっていますよね。本書はそれをものすごい美術センスで作っちゃおうってことなんですね。きちんと生物学的に分類されていまして、小型の悪魔や虫人間といった哺乳類に始まり、蛟や翼竜といった爬虫類、そして架空の属の竜族、魚類、植物まで、ディテールにこだわった作品が美しい写真と面白いコメントとともに掲載されています。

 未確認生物って、そのまんまのきれいな写真に見せられるよりも標本にするなり一部をとってくるなりして一段階鮮度を落として情報量を制限したほうが信じやすいなんてことありませんか?かつてイッカクの角がユニコーンの角だと信じられて重宝されたみたいに。本書はあえて年季がたったミイラや標本にすることで逆にリアリティを出しているのかなと思いました。

 是非一度手にとって、不可思議で奇妙な幻獣標本の世界をのぞいてみてください。