「猟奇」傑作選―幻の探偵雑誌〈6〉 (光文社文庫)/光文社

¥782
Amazon.co.jp
昭和初期に相次いで誕生した探偵小説雑誌。
しのぎを削り合ったそれらの雑誌でしたが、多くは短命に終わったようです。本日の本に収録されております『猟奇』という雑誌はその中では5年も続いた人気雑誌であったようです。この雑誌は江戸川乱歩と春日野緑が中心となって発足した大阪の「探偵趣味の会」から誕生しました。今回はその中から気に入った作品の感想を。
以下ネタバレ。
①夢野久作『瓶詰の地獄』
潮流の研究をしていた海洋研究所に、研究用とは別に三つの瓶が流れ着いたという手紙が届きました。以下は、到着した三つの瓶に入っていた手紙の内容です。
第一の瓶。どうやら瓶は無人島から流されているようで、差出人は二名。以前にも同様の手紙を流した旨が書いてあり、今まさに救助の船が島に着こうとしているようです。しかし当人達は救助を喜ぶどころか、自らが犯した罪の重さ故に死を選ぼうとしています。
第二の瓶。二人の島での生活が綴られています。どうやらその二人は兄妹で、孤独に対する恐怖からかお互い密かに想い合っている様子。しかし筆記者である兄は、その事を大きな罪だと悩み苦しんでいます。
第三の瓶。無人島に流れついた二人が健気に無事を報告し、助けを求めている手紙。
この瓶が流れ着いた順番が物議をかもしているようですね。私は③→②→①だと思いました。
でもそうすると第三の瓶がカタカナで書いてあるのがあんまり納得できないんですよね。第一、第二は兄の太郎が書いているからか流暢な漢字とひらがなの文なのに、第三の瓶だけアヤコとおぼしきカタカナが綴られている。
また第一、第三の瓶は二人いるという事が明記されているのに、第二の瓶は太郎しか記していない。もしかして、順番は③→①→②で、第一の瓶に入っていた手紙を書いた直後、太郎とアヤ子は氏を決意するもののアヤ子だけが死んでしまい、第二の瓶で太郎はその思い出をまだアヤ子が生きているかのように綴っているという可能性もあるでしょうか。
いろいろと楽しめる切れ味鋭い掌編でありました。
②本田緒生『拾った遺書』
両親に強く反対されながらも愛し合う一組の男女と、その女に横恋慕してしまった一人の男性。本作はその横恋慕した男が書いたとおぼしき遺書。その遺書には、彼が、愛し合う男と女にそれぞれ「明日○時○駅で言葉も交わさずに死のう」という手紙を出して彼らを殺害したという告白が書いてありました。
こういった心中が本当にあったなら……?と考えると恐ろしい作品です。
③角田喜久雄『和田ホルムス君』
ホルムスとはシャーロック・ホームズのこと。ちょっととぼけているけれど人からは珍しい好人物と称される和田君。彼のお家に泥棒が入ります。和田君は泥棒がする願掛け、つまりはう○こから犯人を見つけ出します。軽妙で面白い。
他にも岸虹岐『吹雪の夜半の惨劇』や西田政治『肢に殺された話』もミステリ・怪奇色があって面白かったです。
あとなにより楽しいのがコラム!!今で言う2chみたいな漢字でみんな好き勝手言ってます。「江戸川乱歩はオワコンwwwww」とか「『新青年』が『猟奇』をパクってる件」みたいな投稿がたくさん載っています。当時の読者の率直な意見を見る貴重な資料ではないでしょうか。

¥782
Amazon.co.jp
昭和初期に相次いで誕生した探偵小説雑誌。
しのぎを削り合ったそれらの雑誌でしたが、多くは短命に終わったようです。本日の本に収録されております『猟奇』という雑誌はその中では5年も続いた人気雑誌であったようです。この雑誌は江戸川乱歩と春日野緑が中心となって発足した大阪の「探偵趣味の会」から誕生しました。今回はその中から気に入った作品の感想を。
以下ネタバレ。
①夢野久作『瓶詰の地獄』
潮流の研究をしていた海洋研究所に、研究用とは別に三つの瓶が流れ着いたという手紙が届きました。以下は、到着した三つの瓶に入っていた手紙の内容です。
第一の瓶。どうやら瓶は無人島から流されているようで、差出人は二名。以前にも同様の手紙を流した旨が書いてあり、今まさに救助の船が島に着こうとしているようです。しかし当人達は救助を喜ぶどころか、自らが犯した罪の重さ故に死を選ぼうとしています。
第二の瓶。二人の島での生活が綴られています。どうやらその二人は兄妹で、孤独に対する恐怖からかお互い密かに想い合っている様子。しかし筆記者である兄は、その事を大きな罪だと悩み苦しんでいます。
第三の瓶。無人島に流れついた二人が健気に無事を報告し、助けを求めている手紙。
この瓶が流れ着いた順番が物議をかもしているようですね。私は③→②→①だと思いました。
でもそうすると第三の瓶がカタカナで書いてあるのがあんまり納得できないんですよね。第一、第二は兄の太郎が書いているからか流暢な漢字とひらがなの文なのに、第三の瓶だけアヤコとおぼしきカタカナが綴られている。
また第一、第三の瓶は二人いるという事が明記されているのに、第二の瓶は太郎しか記していない。もしかして、順番は③→①→②で、第一の瓶に入っていた手紙を書いた直後、太郎とアヤ子は氏を決意するもののアヤ子だけが死んでしまい、第二の瓶で太郎はその思い出をまだアヤ子が生きているかのように綴っているという可能性もあるでしょうか。
いろいろと楽しめる切れ味鋭い掌編でありました。
②本田緒生『拾った遺書』
両親に強く反対されながらも愛し合う一組の男女と、その女に横恋慕してしまった一人の男性。本作はその横恋慕した男が書いたとおぼしき遺書。その遺書には、彼が、愛し合う男と女にそれぞれ「明日○時○駅で言葉も交わさずに死のう」という手紙を出して彼らを殺害したという告白が書いてありました。
こういった心中が本当にあったなら……?と考えると恐ろしい作品です。
③角田喜久雄『和田ホルムス君』
ホルムスとはシャーロック・ホームズのこと。ちょっととぼけているけれど人からは珍しい好人物と称される和田君。彼のお家に泥棒が入ります。和田君は泥棒がする願掛け、つまりはう○こから犯人を見つけ出します。軽妙で面白い。
他にも岸虹岐『吹雪の夜半の惨劇』や西田政治『肢に殺された話』もミステリ・怪奇色があって面白かったです。
あとなにより楽しいのがコラム!!今で言う2chみたいな漢字でみんな好き勝手言ってます。「江戸川乱歩はオワコンwwwww」とか「『新青年』が『猟奇』をパクってる件」みたいな投稿がたくさん載っています。当時の読者の率直な意見を見る貴重な資料ではないでしょうか。