※なんとなく内容について触れている部分があります。未見の方はご了承ください。
『スラムドッグ$ミリオネア』を見た。第81回アカデミー賞作品賞にノミネートされた作品としてぼくが見たのはは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『ミルク』についで3作目である。
作品の比較は、あまり意味のないことのようなもがするけれど、あくまでひとつの“尺度”ということで、無粋をお許しいただいて比較してみたい。
さて、奇しくもこの3作品に共通するのは、人の半生(あるいは一生)を描いているということ。ひとつの作品では年を経るごとに若返っていくという人の一生が、ひとつの作品では、ゲイの市民権を獲得するために奔走した人の半生が、そしてもうひとつの作品では、インドの貧民として生まれついた青年の半生が描かれる。そこに共通しているのは、(おそろしく単純化して語るとするならば)「人生はすばらしい!」というメッセージだろう。3作品とも見応えのあるすばらしい作品だ。もし『スラムドッグ$ミリオネア』にちょっとした違いがあるとすれば、それは半生(あるいは一生)を描くにあたって、“クイズ$ミリオネア”とシンクロする形で、印象的に描いている点だろう。そのスタイルが、『スラムドッグ$ミリオネア』にアカデミー賞を受賞させた一因となっているのかもしれない。
さらに『スラムドック$ミリオネア』を魅力的なものにしているのが、インドを舞台にしているということ。作中で、主人公ジャマールの兄、サリームに「インドは世界の中心だ」といった主旨のセリフがあったが、混沌の都市インドをしっかりと描いていたように思う。描写のスタイルとインドという舞台がマッチした、見応えのある作品でした。
(8.0)
●リアルに描かれる等身大の逃亡劇
ここ数年「誰かおもしろい作家いない?」と訊ねると“伊坂幸太郎”の名前を聞くことが多かった。正直気になってはいたのだが、なかなか読む機会がなかった。今回たまたま友人が貸してくれた本が『ゴールデンスランバー』で、まあ、縁とはこんなものなのであろう。
本書のあらすじを簡略に紹介すると、「首相暗殺の濡れ衣を着せられた主人公の逃亡記」ということになる。主人公はごくごくふつうの青年で、ヒロイックな展開は一切ない。極めてリアルに主人公の逃亡が描かれる。もちろん、“リアル”なだけではお話にならないので、物語を推進させるた めの“味付け”がある程度まぶしてあるのだが、作者はウソをつくのがうまいので、そのへんはまったく気にならない。とはいえ、本作で描かれるのは、あくまで等身大の男の逃亡劇で、誰にでも訪れうる“リアルさ”が、背筋を冷たくさせる。だからこそ際立つのが、逃亡する主人公に寄せる人々のちょっとした好意。「本当の奇跡はささやかなところにある」と作者は言いたいのかもしれない。
(おススメ度:7.5)
●継続こそ力
というわけで、おもむろに『はじめの一歩』(マンガ)について書く。
ごぞんじのとおり『はじめの一歩』は、いじめられっ子がボクシングに出会って強くなっていく……という週刊少年マガジン連載のボクシングマンガだ。WiKiによると、マンガが始まったのが1989年らしいから、かれこれ20年も連載は続いていることになる。そして、『はじめの一歩 』が何よりすごいと思えるのは、継続して描き続けていること。20年も描き続けていると、飽きてきたり、手を抜いたり……ということがあると思うのだが、森川ジョージの場合は、そういうところが一切見えない。丹念にとにかく丹念に、物語を進めている。まあ、「それがプロである」と言われればそれまでかもしれないが、それにしてもその姿勢には恐れ入る。おそらくは、『はじめの一歩』の世界を丹念に描いて、それを読者に見せて喜んでもらいたいと思っているのではないかと想像する。
もちろん、生き馬の目を抜くほど競争の激しい少年マンガ誌の場合、継続して描き続ける場合、“おもしろい”という前提がなければならないが、『はじめの一歩』はその点、ボクシングに対する愛に裏打ちされた、見事なストーリーテリングとキャラクターで読者を惹き付けているように思う。願わくば最後まで、きっちり描き終えてほしいと、いちファンとして熱望している。