§1.8 ガロアの主定理

本節では根号で表せない数が代数的数になりうることの証明について述べる。その証明は以下の2つの定理の証明に分割される。 

 

(定理27)

5次対称群S₅は可解群ではない。

 

(定理28 ガロアの主定理)(※40

f(x)=0をQ上既約な式とし、その解の一つが根号を用いて表記できるものとする。このときf(x)=0の最小分解体Lのガロア群Gは可解群である。

 

§1.5で示したように実数解3個の5次既約方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群Gは5次対称群である。定理27よりこの群は可解群ではない。定理28を対偶にかえてLのガロア群Gが可解群でないとき、f(X)=0の解は根号を用いても表記することができない。あわせてf(x)=0の解が根号で表せないことが導かれる。

 

まず、定理27の証明の概要について述べる。

定理14の証明中に述べるように5次対称群S₅の元は互換の積の形で表記できる(※56)。そのなかで偶数個の互換の積で表記することが可能な元の集合は群の公理をみたしており、S₅の部分群になる(※41)。この群を5次交代群とよび、A₅と表記することにする。

A₅については、以下の2つの定理が成り立つ。

 

(定理29)

5次交代群A₅の位数は60か120のいずれかである。

 

(定理30)

5次交代群A₅は可解群ではない。

 

定理27の証明では、S₅が可解群ならばその可解列にA₅が含まれることを示すことになる。これにより定理30からS₅は可解群でないことが導かれる。

 

最後に定理28の証明を俯瞰しよう。その証明には次の定理を用いる。

 

(定理31)

「ガロア拡大体・可解群」のLの中間体Mがガロア拡大体であるとき、Mも「ガロア拡大体・可解群」である。

 

Lはf(x)=0の最小分解体なのでガロア拡大体である(定理15)。L⊂L’をみたすL’が「ガロア拡大体・可解群」ならば、定理31よりLも「ガロア拡大体・可解群」になる。

したがって、定理28を示すには「Lを中間体にもち、「ガロア拡大体・可解群」のL’を構成できること」を示せばよい。

 

以下、L’の構成方法について述べる。次の①~③がL’の必要条件となる。

①    Lを中間体にもつ。

②    ガロア拡大体である。

③    「ガロア群が可解群である」=「Q→L’の間に各拡大が「ガロア拡大・可換群」となる拡大列が存在する」。

 

f(x)=0の解のうち、根号で表せる解をαとする。αは根号で表せるので、べき根拡大(※42)を繰り返すことでαを含む拡大体ができる。Q→L’の間にこれらのべき根拡大を組み入れておくことでα∈L’となる。その上でL’がガロア拡大体になるようにすれば、αのQ上共役解はすべてL’に含まれL⊆L’をみたす。

 

次に順序が前後する形になるが、③をみたすための方法について述べる。

③をみたすL’を構成するうえで重要な役割を果たすのが1の原始n乗根である。原始n乗根については(※43)で説明を補足している。

上記で述べた各べき根拡大のべき根指数――原始元ª√βのa――の最小公倍数をnとし、1の原始n乗根をωとする。最初にQ→Q(ω)という体の拡大を組み入れる。(※44)で述べる通り、このQ→Q(ω)は「ガロア拡大・可換群」である。また予めωを加えたことで、続く各べき根拡大はガロア拡大になる。べき根拡大はガロア拡大であれば、そのガロア群は可換群になる(※45)。したがってここまでの拡大はいずれも「ガロア拡大・可換群」である。

もっとも②をみたすL’を構成するためには、新たに体の拡大を組み込むことになるので、③については再度考察の必要が生じる。

 

話を②にうつそう。予め加える1の原始n乗根をωとし、続く各べき根拡大の原始元を「α、β、θ…」とする。また「α、β、θ…」のQ上最小多項式をそれぞれ「A(x)、B(x)、C(x)…」とする。ここでg(x)=(xⁿ -1)A(x)B(X)C(X)…とおく。ここまででてきた拡大の原始元はいずれもg(X)=0の解である。したがってさらにg(x)=0の解を原始元とする拡大を組み込むことで、L’をg(x)=0の最小分解体にすることが可能である。これによりL’はガロア拡大体となる(定理15)。

あとは新たに加えた拡大についても「ガロア拡大・可換群」であることを示せばよい。以下の定理を用いる。

 

(定理32)

ガロア拡大列Q→M→Lにおいて、Mを1の原始n乗根を含むガロア拡大体とし、M→Lをβを原始元とする{n次}べき根拡大とする。

このとき、Lに「βのQ上共役解を原始元とする{n次}べき根拡大」を重ねることでβの全Q上共役解を含む拡大体L’を構成できる。

ただし{n次}べき根拡大とはMの元のn乗根を原始元とする拡大を意味している(※46)。

 

定理32を前提とすると、L’の構成方法は以下のようになる。

まず、Qにω、αを加え、M₁=Q(ω α)をつくる。M₁はガロア拡大体である。定理32よりM₁に「βのQ上共役解を原始元とする{m次}べき根拡大」(mはnの約数)を重ねてβの全Q上共役解を含む拡大体M₂を構成できる。すでに1の原始n乗根を加えてあることから、新たに加わったべき根拡大は「ガロア拡大・可換群」となる。こうしてできたM₂は(xⁿ -1)A(X)B(X)=0の最小分解体なのでガロア拡大体である。したがって同様に定理32を用いてM₂にθのQ上共役解を加えるべき根拡大――「ガロア拡大・可換群」――を重ねてθの全Q上共役解を含むM₃を構成できる。

同様に繰り返して①~③をみたすL’が得られる。

 

§1.7 可解群

まず可解群について定義する。

 

(定義 可解群)

G⊃H₁⊃H₂⊃…Hn⊃eを正規列とする。

各剰余類群「G/H₁ H₁/H₂ H₂/H₃…」いずれもが可換群であるとき、この列を可解列という。可解列をもつ群Gを可解群と定義する。

 

定義にある正規列、剰余類群、可換群については(※33~35)で説明している。また可解群の定義については、各剰余類群が巡回群であることを条件とするほうが一般的である。(※36)では巡回群について説明するとともに、2つの定義の違いについて述べている。

 

さて、説明の簡略化のため表記について以下のような取り決めをする。

ガロア拡大体のなかで、そのガロア群が可解群であるものを「ガロア拡大体・可解群」と表記することにする。また、ガロア拡大のうち、その拡大に関するガロア群が可換群である場合を「ガロア拡大・可換群」と表記することにする。ガロア拡大体とガロア拡大の用法の区別については§1.3で述べたとおりである。

この表記を用いるとき、次の定理が成り立つ。

 

(定理22)

ガロア拡大体Lのガロア群をGとする。このとき①「Gが可解群であること」と②「Q→Lの間に、各拡大が「ガロア拡大・可換群」である代数的拡大列が存在すること」は同値である。

 

この定理22の証明には、§1.3で示した定理7に加え、以下の定理23~定理25の証明が必要になる。

 

(定理23)

 ガロア拡大体Lに関する代数的拡大列をQ →M→Lとし、Lのガロア群をGとする。

このとき①「Q→Mがガロア拡大であること」と②「Mの固定群HがGの正規部分群であること」は同値である。

 

 (定理24)

 ガロア拡大体Lに関するガロア拡大列をQ→M→Lとする(※37)。また、Lのガロア群をGとし、Mの固定群をHとする。

 このとき、「Q→Mのガロア群」と「剰余類群G/H」は同型である。

 

 (定理25)

 ガロア拡大体Lに関する代数的拡大列をQ→M→Lとし、Mの固定群をHとする。このときM→Lのガロア群はHである。

 

 定理23にある正規部分群については(※33)で説明している。定理25ではM→Lのガロア群について「Hと同型」という表現は使わず、単にHと記した。この点については(※38)で説明している。

 

 定理23~定理25を前提とすると、定理22の証明は以下のようになる。

 

 まず①から②を導こう。

 ガロア拡大体Lのガロア群Gが可解群であるとする。可解列をG⊃H₁⊃H₂⊃…⊃Hn⊃eとし、それぞれの固定体をQ→M₁→M₂→…→Mn→Lとする。ガロア対応により、このQ→M₁→M₂→…→Mn→Lのそれぞれの固定群はG⊃H₁⊃H₂⊃…⊃Hn⊃eである。

 

 まず、Q→M₁→Lに注目する。仮定によりH₁はGの正規部分群である。したがって定理23よりQ→M₁はガロア拡大である。また、剰余類群G/H₁が可換群であるという仮定と定理24から、Q→M₁のガロア群は可換群である。あわせて、Q→M₁が「ガロア拡大・可換群」であることが得られた。

 

 次にM₁→M₂→Lに注目する。M₁→Lがガロア拡大であることは定理7により保証されており、そのガロア群は定理25よりH₁である。仮定によりH₂がH₁の正規部分群であることから、M₁→M₂がガロア拡大であることが導かれる。また、剰余類群H₁/H₂が可換群であるという仮定と定理24から、M₁→M₂のガロア群は可換群である。あわせてM₁→M₂は「ガロア拡大・可換群」であることが得られた。

 

 同様に繰り返していき、最後にMn→Lに注目する。Mn→Lがガロア拡大であることは定理7により保証されている。そのガロア群は、定理25によりHnであり、可換群である。

Mn→Lも「ガロア拡大・可換群」となる。

 

 以上でGが可解群であるとき、Q→Lの間に各拡大が「ガロア拡大・可換群」となる代数的拡大列が存在することが示された。

 

 次に②から①を導く。

 各拡大が「ガロア拡大・可換群」となる拡大列をQ→M₁→M₂→…→Mn→Lとし、それぞれの固定群をG⊃H₁⊃H₂⊃…⊃Hn⊃eとする。

 

 まずQ→M₁→Lに注目する。仮定によりQ→M₁はガロア拡大なので、定理23よりH₁はGの正規部分群である。また仮定よりQ→M₁のガロア群は可換群なので、定理24より剰余類群G/H₁は可換群になる。

 

 次にM₁→M₂→Lに注目する。M₁→Lがガロア拡大であることは定理7により保証されており定理25よりそのガロア群はH₁である。M₁→M₂がガロア拡大体であるという仮定と定理23から、H₂がH₁の正規部分群であることが導かれる。またM₁→M₂のガロア群が可換群であることと定理24から、剰余類群H₁/H₂が可換群であることが導かれる。

 

 同様に繰り返していき、最後にMn→Lに注目する。定理25よりMn→Lのガロア群はHnである。仮定よりHnは可換群であり、剰余類群(Hn/e)=Hnも可換群である。

 

 以上でQ→M₁→M₂→…→Mn→Lの各拡大が「ガロア拡大・可換群」であることからLのガロア群Gが可解群であることが導かれた。             ■

 

 3つの定理のうち、定理24の証明では、2つの群――ガロア群と剰余類群――の各元に1対1の対応をつけ、その対応が演算の結果にまで保存されることを示すことになる。前半部分については、以下の定理26の証明も必要になる。

 

(定理26)

 ガロア拡大体Lの原始元をθ、ガロア群をGとする。Gの任意の2つの元をf、gとし、Lの任意の元αのθ形式をA(θ)とする。またαの固定部分群をHとする。

このとき、①「A(f(θ))=A(g(θ))が成り立つこと」と②「f、gがHによる同一の剰余類に含まれていること」は同値である。

したがって、A(θ)の軌道とHによる剰余類には1対1の対応がつく。

 

軌道と固定部分群については、(※39)で補足説明している。

新たに出てきた固定部分群という用語は、固定群という用語によく似ている。Mの固定群とは、Mのすべての元に不変に作用する元の集合のことだった。これに対し、αの固定部分群は、1つの元αに不変に作用する元の集合をさしている。したがって2つの用語はまったく同一の意味というわけではない。

しかし、(※32)でも述べたように中間体Mにはその原始元αが存在する。Mの元はいずれもα形式で表記されるので、αに不変に作用する置換はMのすべての元に不変に作用する。したがってMの固定群とαの固定部分群は一致する。定理24の証明に定理26が用いられるのはこのような事情による。

 

§1.6 ガロア対応

ガロア拡大体Lの体の構造と、そのガロア群Gの群の構造には密接なつながりがある。(※27)ではガロア群が3次対称群の場合について、最小分解体とガロア群の構造を例示している。

体と群のつながりについて記述するため、中間体、群の作用、固定群、固定体という用語を導入する。

 

まず、Q⊂M⊂LをみたすMをLの中間体という。

 

またガロア拡大体Lの原始元をθとするとき、Lの元はθ形式によって表記される。各元のθ形式中のθに、ガロア群Gの置換をほどこしていくことを「Gを作用する」と表現することにする。また、このGのある元の作用によってθ形式の値が変化しない場合を「不変に作用する」と表現することにする。

 

ガロア群Gの元のうち、中間体Mの任意の元に不変に作用する置換の集合をMの固定群という。またガロア群Gの部分群Hの全置換によって不変である数の集合をHの固定体という。

 

※28)では、これらの用語とアーベルの既約定理(定理1)の関係について述べている。また、固定群が群の公理をみたしていることと、固定体が四則演算で閉じていることについては(※29)で確認している。

 

固定体と固定群については以下の定理が成り立つ。

 

(定理19 ガロア対応)

ガロア拡大体Lのガロア群をGとする。Lの中間体をM、Gの部分群をHとする。

このとき①「Mの固定群がHであること」と②「Hの固定体がMであること」は同値である。

 

この定理19はLの中間体とGの部分群に1対1の対応がつくことを保証している。

定理19は必ずしも自明な定理ではない(※30)。証明には以下の定理20、21の証明が必要になる。

 

(定理20)

ガロア拡大体Lとその中間体Mの拡大次数をそれぞれl、mとする。このとき、Mの固

定群の位数はl÷mになる。

 

 (定理21)

 ガロア拡大体Lの拡大次数をlとし、そのガロア群をGとする。Gの部分群Hの位数をhとするとき、Hの固定体となる中間体Mの拡大次数はl÷hである。

 

 定理20と定理21を前提とすると、定理19の証明は以下のようになる。

 

 まず①から②を導く。

 Mの固定群Hの固定体をM’としてM=M’を示そう。

 まず、定理20よりHの位数はl÷mである。次に定理21より、M’の拡大次数はl÷(l÷m)=mである。したがってMとM’の拡大次数は等しい。

 またMの元はHの作用で不変であるのに対し、M’にはHの作用で不変なすべての元が含まれている。したがってM⊆M’。

 あわせてM=M’が得られた。

 

 次に②から①を導く。

 Hの固定体Mの固定群をH’としてH=H’を示そう。

 Mの拡大次数は定理21よりl÷hである。定理20よりH’の位数はl÷(l÷h)=hである。したがってHとH’は位数が等しい。

 またHはMのすべての元に不変に作用するのに対し、H’にはMのすべての元に不変に作用する全置換が含まれている。したがってH⊆H’。

 あわせてH=H’が得られた。                      ■

 

 (※31)では定理19の証明について、ガロア群が3次対称群の場合を実例とした解説をしている。

 また定理20と定理21の証明では、任意の中間体Mについて原始元が存在することを前提としている。この点については(※32)で示した。