§1.5 最小分解体

 f(x)=0の解をすべて含む最小の体をf(X)=0の最小分解体という。

Lにf(x)=0の解がすべて含まれており、Q→Lの間にf(X)=0の解のみを原始元とする体の拡大列が存在すれば、Lはf(X)=0の最小分解体である。

 以下、L’をf(X)=0の最小分解体としてL=L’を示そう。Lにはf(x)=0の解をすべて含んでいるのでL⊇L’。またLの元は有理数とf(x)=0の解の四則演算の結果になりうるのでL⊆L’。あわせてL=L’が得られた。

 この最小分解体に関する十分条件は、ガロアの主定理(§1.8)の証明で用いることになる。 

 

さて本節では、最小分解体に関する以下の定理14の証明を俯瞰する。

 

 (定理14)

 既約5次方程式f(ⅹ)=0が実数解を3個もつとき、その最小分解体Lのガロア群は5次対称群S₅になる。

 

n次対称群については(※22)で補足している。また、定理14の条件をみたすf(x)=0の例としては、x⁵-6x+3=0が挙げられる。この点については(※23)で確認している。

 

 さて定理14ではf(x)=0の最小分解体がガロア拡大体であることを前提としている。まずこの点がみたされていることを確認しよう。 

 

 (定理15)

 有理数係数f(X)=0の最小分解体Lはガロア拡大体である。

 

 定理15の証明では、ガロア拡大体の十分条件(定理8)を用いて、原始元θの全Q上共役解がLに含まれていることを確認する。

 次に、n次方程式の最小分解体については以下の定理が成り立つ。

 

 (定理16)

 有理数係数n次方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群は、n次対称群の部分群と同型である。

ただし対称群の演算については、fとgの積をf・g:(123…n)→「(123…n)にfの置換を施した後、gの置換を施した結果」と定義する。

 

なお、「~群の部分群」という用語には「~群」自身も含まれているので注意されたい。定理16からは、5次方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群が5次対称群の部分群であることが導かれる。

 定理15、定理16を前提としたうえで、定理14の証明にはさらに以下の2つの定理が必要になる。

 

(定理17)

有理数係数f(X)=0が複素数θを解にもつとき、その複素共役θ’も解になる。

 

(定理18 コーシーの定理)

群Gの位数をnとし、その任意の素因数をpとする。このときGには位数pの元が含まれている。

 

定理17にある複素共役については(※24)で補足している。また定理18では、位数という用語を2通りの意味で用いている。2つの用法の区別については(※25)で説明している。

 

5次方程式f(X)=0が実数解を3個もつとき、残る2解は虚数解である。したがって、その最小分解体の原始元θは虚数になる。θの複素共役をθ’とすると、定理17よりθ’はθのQ上共役解である。

このとき有理数係数の式g(x)について、g(θ)とg(θ’)は複素共役関係になる(定理17証明参照)。したがって虚数を表記するθ形式は、θ→θ’の置換で複素共役へ変わり、実数を表記するθ形式はθ→θ’の置換で不変である。θ→θ’によりf(x)=0の5解のうち虚数2解のみ入れ替わることになる。

n次対称群の元のなかで、2個の数字のみ入れ替える置換を互換という(※26)。定理17からはLのガロア群の中に互換が含まれていることが導かれる。

 

 一方、f(x)=0の解の一つをαとすると、f(x)の既約性よりQ→Q(α)の拡大次数は5である。次元の積公式から、Lの拡大次数が5の倍数であることが導かれる。したがってコーシーの定理より、Lのガロア群には位数5の元が含まれる。

 定理14の証明では、1つの互換と位数5の元の存在から、Lのガロア群がS₅であることを導くことになる。

 

なお、本節で紹介した定理15、定理16は方程式の既約性の如何をとわず成立する。ガロアの主定理(§1.8)の証明では、定理15をQ上可約な方程式について用いることになるので留意されたい。

 §1.4 ガロア群

 本書の目標は可解でない5次方程式の存在を明示することである(※11)。

 5次方程式f(x)=0の解の一つが根号で表わせたとき、他の4つの解も根号で表わすことが可能である(※12)。したがって、5次方程式f(ⅹ)=0の解の1つが根号を用いて表記できれば、f(X)=0には5個の解が存在する。対偶にかえて、f(X)=0に5個の解が存在しないとき、f(X)=0の解は1つも根号を用いて表記することはできない。あとは、f(X)=0が5個の解を持つ場合について、その非可解性を示せば十分である。

 このような理由から、以下の定理10については証明を省略し、その成立を前提として話を進めていくことにする(※13)。

 

(定理10 代数学の基本定理)

複素数係数のn次方程式には、重解を許してn個の複素数解が存在する。

 

 上記をご了承いただいた上で、ガロア群について定義する。

 

 §1.2で示したように代数的拡大体は単拡大体であり、原始元θが存在する。ここで、このθが代数的数であることを仮定し、そのQ上共役解の集合を「θ₁ θ₂ θ₃…」とする。Lがガロア拡大体であれば、この集合の元はいずれもθ形式によって表記される。各数のθ形式の集合を「θ  f(θ) g(θ)…」としよう。θをこれらθ形式に置き換える置換の集合「θ→θ θ→f(θ) θ→g(θ)…」について、以下の定理11が成り立つ。

 

(定理11)

 ガロア拡大体Lの原始元θをその全Q上共役解に置き換える置換の集合をMとする。

Mの任意の2つの元をf:θ→f(θ)、g:θ→g(θ)とするときf・g:θ→f(g(θ))と定めると、Mは群の公理をみたし群になる。

 

定理11の証明ではMが群の公理をみたしていることを確認することになる。群の公理については(※14)で説明している。

 本書では上記で述べた原始元θからθ形式への置換からなる群をガロア群と定義する。この演算の定義が、いわゆる合成関数の定義とは異なる(※15)。なお、ガロア群の実例については(※16)で紹介している。

 

さて、このガロア群の定義は、原始元θが代数的数であることを前提としており、この点についても確認が必要となる。原始元の存在(定理4)の証明から分かるように、代数的拡大体の原始元θは代数的数の和の形で表記される(※17)。したがって以下の定理を示せばよい。

 

(定理12)

α、βが代数的数ならば、α+βも代数的数である。

 

 対称式の基本定理(定理9)と代数学の基本定理(定理10)を前提とすると、定理12の証明は以下のようになる。

 αのQ上共役解の集合を「α=α₁ α₂…αn」、βのQ上共役解の集合を「β=β₁ β₂… βm」とする。ただしここで代数学の基本定理を仮定し、方程式の次数と同じ個数の解が存在することを前提としている。

 これらの集合から1個ずつ元を選び足し合わせていくとnm個の数になる。これらnm個の数を解とする方程式を作ると、その係数は「α₁ α₂…αn」についても「β₁ β₂… βm」についても対称式になる。対称式の基本定理により、「α₁ α₂…αn」、「β₁ β₂… βm」について基本対称式化可能である。各基本対称式の値は有理数であることから、この式の係数はいずれも有理数である。したがってその解のα+βは代数的数である。■

 

 定理12の証明中で構成した式が既約方程式であるかどうかは定まらない。既約であれば、この式がα+βのQ上最小多項式ということになる。既約でない場合は、アーベルの既約定理(定理1)より、この式の解の一部がα+βのQ上共役解である。いずれにせよ、α+βの共役解の個数は、そのQ上最小多項式の次数に一致する(※18)。このことは、次節で述べる最小分解体Lのガロア群について考察するうえで重要な意味を含んでいる(※19)。

 

 さて、定義3にあるガロア群の定義はもう1つ問題をはらんでいる。§1.2でも述べたように、代数的拡大体の原始元θは一意に定まらない。したがって原始元θの選び方によらず、ガロア群の構造が一意に定まることを確認しておく必要がある。

 

(定理13)

ガロア群の構造は原始元の選び方によらず一意に定まる。

 

 定理13の証明には、拡大次数の一意性(定理5)が用いられる。

 

 また、(※20)で示す通り、Q上既約な方程式は重解をもたないことが知られている。

原始元θのQ上最小多項式はQ上既約なので、θのQ上共役解はいずれも異なる数である。したがってガロア群の位数――群に含まれる元の個数――に関しては以下の等式が成り立つ。

 

 (ガロア群の位数)=(原始元θのQ上共役解の個数)=(原始元θのQ上最小多項式の次数)=(θ形式の項数)

 

※21)では、任意の拡大体Mにおいても上記の等式が成り立つことを確認している。

 

§1.3 ガロア拡大

本節では、ガロア拡大とガロア拡大体の定義について述べ、それらに関する2つの定理を紹介する。

 

 (定義1 ガロア拡大)

 代数的拡大S→Lについて、Lのすべての元のS上共約解がLに含まれているとき、S→Lをガロア拡大とよぶことにする。

 

 (定義2 ガロア拡大体) 

 代数的拡大体Lについて、Q→Lがガロア拡大であるとき、Lをガロア拡大体とよぶことにする。

 

 ガロア拡大とガロア拡大体で定義を分けたのは、以下のような事情による。

 一般に代数的拡大列S→M→LについてS→M、M→Lがガロア拡大であっても、Q→Lがガロア拡大であるとは限らない(※9)。上記の定義に従えば、ガロア拡大を重ねて構成した体がガロア拡大体であるとは限らないことになる。Lのすべての元のQ上共役解がLに含まれているときのみ、Lをガロア拡大体とよぶことにした。

 

 これらの定義のもと、以下の2つの定理が成り立つ。

 

(定理7)

Q→M→Lを代数的拡大列とし、Lをガロア拡大体とする。このとき、M→Lもガロア拡大である。

 

(定理8 ガロア拡大体の十分条件)

代数的拡大体Lの原始元をθとする。θの全Q上共役解がLに含まれているとき、Lはガロア拡大体である。

 

 定理7、定理8の証明にもアーベルの既約定理(定理1、定理1’)が用いられる。

 加えて定理8の証明には、次の定理が必要となる。

 

(定理9 対称式の基本定理)

 任意の対称式は、基本対称式化可能である。

 ただし基本対称式化とは、変数の対称式について式中に含まれる文字をn変数の基本対称式にまとめる変形をさしている。

 

 対称式、基本対称式については(※10)で述べている。