§1.2 単拡大体

 

 単拡大体Q(θ)とは有理数体Qに1つの数θを付加した体をさしている。Q(θ)には有理数とθの四則演算の結果になりうるすべての数が含まれている。

 

 θを代数的数とし、そのQ上最小多項式の次数をnとする。このとき「1 θ θ² θ³…θⁿ⁻¹」の各数に有理数をかけて足し合わせた式をθ形式とよぶことにする。(※5)でθ形式の実例を挙げている。

 このθ形式に関しては以下の定理3が成り立つ。

             

 (定理3)

 「θ形式で表記できる数の集合」は体になっており、Q(θ)とは同一の集合である。

 また、Q(θ)の元のθ形式による表記は一意に定まる。

 

 この定理3の証明にも、定理2が用いられる。

 

 さて、Qに有限個の代数的数を加えた拡大体を代数的拡大体という。(※6)では代数的拡大体と代数体の違いについて補足している。代数的拡大体については以下の定理4が成り立つ。

 

(定理4 原始元の存在)

代数的拡大体は単拡大体である。

 

 複数個の代数的数をくわえて作った拡大体も、実は1個の代数的数の付加によって構成できるというのが定理4の主張である。この1個の代数的数を原始元という。

 定理4の証明では、この原始元の存在を示すことになる。第2章で述べる証明から分かるように、各拡大体について原始元は一意に定まらない(※7)。

 代数的拡大体Lの原始元をθとすると、定理3によりLの元はθ形式によって一意的に表記される。θ形式の項数――θのQ上最小多項式の次数と一致する――をLの拡大次数という。

 拡大次数については、以下の定理5が成り立つ。

 

(定理5 拡大次数の一意性)

 原始元の選び方によらず、代数的拡大体Lの拡大次数は一意に定まる。

 

この定理5の証明からは、次の定理6の成立も導かれる。

 

(定理6 次元の積公式)

Q→M→Lを代数的拡大列とする。Q→Mの拡大次数をm、M→Lの拡大次数をnとするとき、Q→Lの拡大次数はmnである(※8)。

 

 

 

第1章       証明俯瞰

 

§1.1 アーベルの既約定理

 

 代数的数とは、有理数係数の方程式(Q上方程式)の解になりうる数をさしている。θが代数的数ならば、θを解にもつQ上方程式が存在する。その中で、最も次数が低い式をθのQ上最小多項式という。代数的数θのQ上最小多項式はQ上既約な式であり、定数倍を除いて一意に定まる(第3章※1参照)。

 また、θのQ上最小多項式の解になる数をθのQ上共役解という。

 これらの用語に関連して、以下の定理が成り立つ。

 

 (定理1 アーベルの既約定理)

 θを代数的数とする。θを解にもつQ上方程式は、θの全Q上共役解を解にもつ。

 

 この定理には以下のような応用がある。

 有理数係数の2式f(x)、g(x)についてf(θ)=g(θ)が成り立つとする。このときθの任意のQ上共役解θ’について、f(θ’)=g(θ’)も成り立つ(※2)。したがって、f(θ)=g(θ)をf(θ’)=g(θ’)と書き換えることが可能である。以降、この手法を度々用いることになる。

 

 アーベルの既約定理の証明には以下の定理が必要になる。

 

 (定理2)

 f(x)、g(x)をQ上互いに素な2式とする(※3)。

 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるQ上の式が存在する。

 

 互いに素な整数а、bについて、不定方程式аX+bY=1が整数解を持つことが知られているが、定理2はその多項式版にあたる。

 

 この定理1と定理2は、有理数体のみならず、一般の拡大体においても成立する(※4)。

 

 (定理1’)

 θを代数的数とし、Lを任意の拡大体とする。θを解にもつL上方程式は、θの全L上共役解を解にもつ。

 

 (定理2’)

 Lを任意の拡大体としf(x)、g(x)をL上互いに素な2式とする。

 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるL上の式が存在する。

 

はじめに

 

本書では、ガロア理論を用いて5次方程式の解の公式が存在しないことを証明しています。同型写像、自己同型写像といった用語は用いずに、極力初等的な記述でガロア理論について述べてみました。

 

第1章ではガロア理論の全体像を俯瞰し、第2章では、第1章で紹介した各定理の証明をまとめました。また第3章では第1章、第2章の証明を補足しました。第3章は通常の本の脚注にあたりますが、本書では1つの章にまとめています。必要に応じて参照していただければ、と思います。

 

タイトルの「ガロア理論三段解説」はこの記述スタイルをさしています。

私は、数学の専門家でもなんでもない、アマチュアの数学ファンにすぎません。そんな私がガロア理論に関する本をまとめてみようと思ったのは、この三段解説のスタイルに魅力を感じたからです。

三段解説が読者の皆さんの勉強に少しでも役に立てばうれしく思います。

 

以下に主な参考文献を列挙します。

1「ガロア理論の頂を踏む」(石井俊全著/ペレ出版)

2「方程式 解ける鎖、解けない鎖」(志賀浩二著/岩波書店)

3「群論への30講」(志賀浩二著/朝倉書店)

 

特に「ガロア理論の頂を踏む」には大きな影響を受けました。私は「ガロア理論の頂を踏む」のおかげでガロア理論を理解できたので、著者の石井俊全先生に深く感謝します。

 

 以前の「素人流ガロア理論」を読んで下さった方、ありがとうございます。以前の文章より多少は読みやすくなったのではないか、と思っています。今後とも「素人流数学ブログ」と「ガロア理論三段解説」を宜しくお願い致します。