第1章       証明俯瞰

 

§1.1 アーベルの既約定理

 

 代数的数とは、有理数係数の方程式(Q上方程式)の解になりうる数をさしている。θが代数的数ならば、θを解にもつQ上方程式が存在する。その中で、最も次数が低い式をθのQ上最小多項式という。代数的数θのQ上最小多項式はQ上既約な式であり、定数倍を除いて一意に定まる(第3章※1参照)。

 また、θのQ上最小多項式の解になる数をθのQ上共役解という。

 これらの用語に関連して、以下の定理が成り立つ。

 

 (定理1 アーベルの既約定理)

 θを代数的数とする。θを解にもつQ上方程式は、θの全Q上共役解を解にもつ。

 

 この定理には以下のような応用がある。

 有理数係数の2式f(x)、g(x)についてf(θ)=g(θ)が成り立つとする。このときθの任意のQ上共役解θ’について、f(θ’)=g(θ’)も成り立つ(※2)。したがって、f(θ)=g(θ)をf(θ’)=g(θ’)と書き換えることが可能である。以降、この手法を度々用いることになる。

 

 アーベルの既約定理の証明には以下の定理が必要になる。

 

 (定理2)

 f(x)、g(x)をQ上互いに素な2式とする(※3)。

 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるQ上の式が存在する。

 

 互いに素な整数а、bについて、不定方程式аX+bY=1が整数解を持つことが知られているが、定理2はその多項式版にあたる。

 

 この定理1と定理2は、有理数体のみならず、一般の拡大体においても成立する(※4)。

 

 (定理1’)

 θを代数的数とし、Lを任意の拡大体とする。θを解にもつL上方程式は、θの全L上共役解を解にもつ。

 

 (定理2’)

 Lを任意の拡大体としf(x)、g(x)をL上互いに素な2式とする。

 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるL上の式が存在する。