―――――――――――「君に勇気をあげるよ、少年」


遠のきかけていた意識は、必死にその言葉を掴んだ。


目を開くと、身長の高い若い男性が僕の顔をのぞきこんでいた。

その顔にとても似ている人物を、僕は知っている。

「…ア、ル…?」

「あれ、君は僕のことを知っているんだね、でも今は状況が状況だからね」



アルに似た男性は手を取って、この、鉄アレイを背負っているような状況から、僕を救い出してくれた。


「ほら、あなたもよ」

後ろではサキュバス族の一人、紫色の長い髪が印象的な女性がグランベリアを立たせていた。

「行くよ。君たちも手伝って欲しい。人手はあった方がいいからね」

優しいを笑顔と共に、先陣を切って走り出す男性の背中を、僕は追いかけ。


ずっとずっと先で戦っていたベルの元へ、やっとたどり着いた。

「ベルっ!!君は絶対に死なないからっ!!」

「な…」

僕とグランベリア以外の二人を見て、目を見開いたベル。

「助けに来た。だからその力はもう使うのはよしな」

鞘を強く握り、震えていた両手にそっと、男性の手が重なる。

すると強さを増していた光線は徐々に勢いを失くし、ベルの表情が和らいでいく。

「一人で死ぬなんて馬鹿なのは、僕一人だけで十分だ」

「ルカが死んだら、私も死ぬぞ」

「でしょ?僕も同じ。だったら、三人で生き残った方が、最善の選択だよ」

すると、固いうろこを持つ片手が僕達の手に重ねられる。


「母さんがそこまで力を持っていたなんて知らなかった。いつか、私にも教えてほしい。

そうすればきっと、私の隣にいる馬鹿を止めることだって、できるからな。
だから死なせないっ!!」

素直じゃないグランベリアはとってつけたような理由を並べたが。


自分の母親が死ぬのを、娘が見たいわけがない。
純粋にベルを、自身の母親を助けたいだけ。

「私達の娘が迷惑をかけてごめんなさいねぇ、みんなで協力して助けてほしいわ」

ほんわかしたような雰囲気を持ったサキュバス。

その立ち振る舞いは、なぜだか、目の前で瘴気を放っているアルマエルマと同じに思えた。

「なんだこの仲良し軍団は…そんな軍団に支援を頼んだ覚えはないぞ」

憎まれ口を叩きつつ、四人が重ねて、握っている剣の鞘に、そっとアリスも手を添えた。

添えただけなのに、アリスが放った力は強烈である…。

「おか…さん?おとう…さ、ん?」

どす黒く染まった目から、動揺の色が見えた。

「そうだ、僕達は死んでいない。ここに生きている。だから、いい加減抑えなさい」





「にせ、もの。アリ、スが見せている、偽物だっ!!!」


眉間にしわが寄り、更に怒りを露わにするアルマエルマ。

しかし、僕達の力が押されることはなかった、むしろ、アルマエルマの瘴気を消し続けていた。


この力の雰囲気、やはり…君はアルなんだね。


「わがままな娘には、教育的指導しないとね」

平気な顔をして、アルに似ているその男性はアルマエルマを圧倒するほどの力を発揮していく。


僕は思った。

今ここにいる サキュバス、人間と天使ハーフ、龍人、魔王、

そして、君がアルだとしたら、魔物とのハーフ。

そんな種族の違う五人がこうして、手を取って戦っている姿は。


僕やアルが思い描いていた、共存の象徴ではないのか、そう感じられた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔王城はひどい有様であった、入口は大きくえぐれ、崩れ落ちていて。


魔王城の内部も入口同様で、凶暴な何者かが通った傷痕が深く残されていた。


僕達が進んでいくと、エルベティエが壁によりかかっているのが発見された。

身体の一部が、人間を形成していない。

エルベティエのようなスライムでなかったらどうなっていたことか、寒気がした。

「エルベティエ、一体どうしたんだ…」

駆け寄ると、力なく視線だけ、僕達へ向く。

「アルマエルマが…突然襲い掛かって…とてつもない力」

息苦しそうに言葉を紡ぐエルベティエへ、安静にしててと伝える。

「そんな…アルマエルマがエルベティエに手を出したのか…?」

信じられないという顔をするグランベリアと共に先へ進む。

「そんなはず…」

以前、共に戦ってきた仲間に手を出すなんて…ショックがでかい。

「何か、理由があるんだそのはずさ」

自分に言い聞かせるようにそう言う。

アルマルマは、僕が過去の世界へ行く前に思い悩んでいた。それが…原因、なのかもしれない。

「…」

ベルはしかし、難しい顔をしたまま僕達の前を進むばかりだった。

何か、事情を知っているよう感じではあるが。

今話をしないのは、目の前に集中しろということなのだろうか。



アリスが鎮座している一歩手前、大きな広間に辿り着くと、状況は更に緊迫していた。

アリスとアルマエルマ?らしきどす黒いオーラをまとった人物が交戦中。

しかし、アリスがどうみても後れを取っている。

柱には頭から血を流したたまもが苦しそうに座り込んでいた。

「たまも、おい!」

入口から叫ぶと、アリスが大声を発した

「来るなルカ!今のアルマエルマは…ぐっ!!…アルマエルマじゃないっ!」

闇の力と闇の力のぶつかりの余波はとてつもなく、僕とグランベリアは立っていることすら、ままならないような状況。

先ほどから空気に重しを背負っているのも相まって、膝をつけてしまいそうになる。


しかし、ベルはその圧力をもろともせずに、しっかりと地に足をつけている。

びくともしていないその強靭な身体に、現場にいる僕達は目を見開いた。


「ぐっ…何だこの力…私よりも遥かに強い…」

そんな中、アリスが苦しそうにそう零した。


まさか、あのアルマエルマがアリスと戦うなんて、しかも、力では負けていない。

信じられない光景だが、今のアルマエルマは、僕が知っている彼女ではない。

あのどす黒いオーラを取り払ったら、以前の彼女に戻ってくれるのだろうか。

アリスがアルマエルマを振り切って、一体距離を置く。


「アリ…す…っ!、よくも、よくも私の私のぉおおお!!!」

野太いノイズのかかったような轟が近くの壁を抉り取る。

目はどす黒く染まっていて、瞳を見るだけで背筋が凍ってしまう。

「それは、違う、アルマエルマよく聞…、くそっ!!」

もう、アルマエルマには説得の隙がないようだった。このままではアリスの体がもつはずがない。

みんなで旅をして、戦って、平和を取り戻したのに、こんな形で崩れていくなんて、本当にいいのか。


いいわけがない、いいわけがっ・・・・!

「わが娘よ、剣を貸してくれ」

「母さん…!?」

僕達二人の目の前で仁王立ちしているベルは、振り返って、右手を差し伸べた。

「…私が行く」

「母さん…」

「心配することはない。言いたくはないが……年季が違う」

向こうの世界と同じ姿であるのに。

君は、遠くに行ってしまった。

そんな気がした。

グランベリアは迷いつつも、アリスを見殺しにするわけにもいかないと思ったのか、ベルへその剣を手渡した。

「母さん、無茶だけは…」

「誰に言っているんだ。四天王のグランベリアの母親、ベルだぞ」

その言い草に少しだけ笑ってしまった。そんな僕達の元から、ベルはしっかりとした足取りで向かう。

その背中はとても頼もしかった。

あぁ、ついこの間のように、隣にいてくれるのではなくて、ベルはずっと先を歩いているんだなって。そう感じてしまった。

長い月日を過ごしてきたベルとの溝なのかもしれなくて、寂しさを覚えた。

「…!?」

アリスとアルマエルマの力が拮抗している中、アリスはこの重圧を潜り抜けてきた龍人の姿に目を見開いていた。

「私が加勢しよう」

「貴様は…!」

空気の重みを感じさせない、鋭い剣の先がどす黒い瘴気に突き刺さる。

音を発しない余波が、生身の僕達へ降りかかった。


驚いたのは、その剣の先がアルマエルマを圧倒していることだ。

その様子を一目見たアリスは行けると確信したのか、口元をニヤリッと上げ、自身の力を振り絞ってアルマエルマの瘴気へとぶつける。


しかし、効いていなかった。

アリスの攻撃は、届いていなかった。

「…これは」

アリスは改めて、ベルが放った攻撃を確認して、目を見開く。

「貴様、その力はっ!?」


「ふ…魔王様ともなれば気づくようだな」

先ほどまで余裕を見せていたベルの額の端に、冷や汗が浮かんでいた。

「ただ力が強いだけでは到底無理だと思っていたが…貴様、正気か」


「娘と、好きな人のためだ」


アリスは少しだけ笑って、アルマエルマを見据えた。

「あいつも貴様も、大馬鹿だ」

僕はその力の余波を全身に受けて、深淵から浮かび上がる不安を感じぜざる得なかった。

この力の感じ、そう、僕が昔、過ちを犯そうとした時に使ったモノと酷使している。

「ベル、君はまさか、自分の生命を削って…っ!」

「っ!?母さん!?」



「ばれてしまったか」

じゃあ

その一言を言うと、更にベルの力は光を増した。


「やめてベル!!!ついさっき、久しぶりに会った、ばかりじゃ…」

「母さんっ!!!!!」



増していく威圧感と、強烈な光線により、僕の意識は遠のきそうになった。

力不足な自分を、これほどまでに悔やんだことがあっただろうか。

僕にとっては先日でも、彼女にとっては何百年と時を超えて再会を果たしたというのに。

こんな短い間にしか過ごせないなんて、悲しすぎる。

そんなの…ないだろ…っ。



―――――――――――「君に勇気をあげるよ、少年」


遠のきかけていた意識は、必死にその言葉を掴んだ。
母さん、なんとなくわかった。母さんが昔よく、私に聞かせてくれた勇者の物語。それは、ルカのことだったのか」


「そうだ」


「えっ…」

僕は目を白黒させてベルを見つめる。


「じゃあ、私の許嫁は、ルカ、な、のか」

歯切れ悪く言ったグランベリアの言葉に、僕はつい言葉を失ってしまう。

口がポカーンとしている。

「へっ…?話が見えないんだけど」

そんな僕の反応を予想していたかのように、ベルは余裕の笑みを見せる。

「言っただろう、絶対にあきらめないって」


…。

え、別れ際に言ったあの言葉?


「私があきらないと言ったのは、エレノアや、姉貴のこともあるが」



――――――「お前のこともあきらめていない」

ゾクゾクゾク

光の失った瞳で視線を向けられて、僕は背中に寒気を感じた。

「じょーだんだ」

途端に瞳に光が戻ってきた。

「な、なんだ…」

ほっ。

戦士としての殺気とはまた、一味違った危うさのようなものを感じた。

「とも言えないな」

「えっ…」

安堵したり緊張したりと、行ったり来たりしっぱなしである。

もはやパニック状態に等しい。




「だって、この子の名前を付けたの、私、だからな」



そう言って笑顔を向けている先には「グランベリア」。


「…は、ま、まさか」

僕は彼女の言葉を理解した。してしまった。


「…グランベリアと名付けたのが、ベル…!?」

「そうだ、なんでか、もうわかるな」


「僕が、グランベリアの事が、好き…だから…?」

心にぽっかりとわだかまりができた気分だ。

これ以上の会話は本当に良い展開に導かれるものなのか。わからない。

しかし、そんな僕の考えを余所に、別の意味で口をパクパクさせている龍人が隣に一名いて。

僕はそんな考えが馬鹿らしくなりそうになった。

「いや、僕が悩んでるのは君のことなんだよ…?」

「だだだだって、お前、今…!」

「あははは…グランベリアが気になるのはそっちなんだね」

苦笑いを零しつつ、頬を引きつらせる僕。

「当たり前だろ!」

クワッ!とした顔で言うグランベリアを見てると、何だか力の入っていた全身から、風船がしぼむように力が抜けていくようだ。


「ベルは、その、僕がグランベリアを好きだから、この子にグランベリアという名を付けたんだね」

「あぁ、一応そういうことだが…。例え、この子がグランベリアでなくても、ルカと惹きあっていたかもしれない。
それは、今までの旅でわかるだろう?」

「はは、そうだね」



僕が好きな子は、グランベリアという名を付けられて生まれてきたんじゃない。


僕が好きだった子がグランベリアという名前だったから、無理矢理にこの子がグランベリアにされてしまった。

そう、生まれた時から運命が定められたような、残酷なことだ。

僕の好きな子が別の名前だったら、今目の前にいるグランベリアは、グランベリアではない名前になっていたかもしれないのだ。




そういうマイナス思考に至ってしまった僕は、一瞬、この話題に触れることをためらった。

「グランベリアは、いいの?」


「いいの?だと…良いに決まっている。さっきも言っただろう。私は私だ。そういう過程があったとしても、私がグランベリアであることは
変わらない」

ほんっとに、君は強い、強くて、僕の憧れだ…。

「それに、母が話してくれた英雄がルカで、私は、その、本当によ、よかったと思ってるから…」

後半に向かうにつれて声が小さくなっていき、頬を掻いてそっぽを向いてしまう。

「ええとっ…ずっと思ってたんだけど、僕ってそんなすごいことした、かな?」

ベルとグランベリアに質問してみると、二人は顔を見合わせて笑みを零した。


「私達にとって、命の恩人だ。幼いころ、よくその英雄の話を聞かせてもらったのを覚えてる」

グランベリアが母親に添い寝されながら、絵本を読んでる画像を思い浮かべてしまう。

なんか、違和感というか…。

ぷふっ。

ゴツンッ

痛い…。


「ん、命の恩人って、そんな大きなことしたかな?サキュバス村のとこ…?」


アルとベルを助けるために、天使の力を使ったことぐらいじゃないかな。

でもそれだと、「私達」の中のグランベリアが含まれないような…。

「あぁ、懐かしいな…。だが違う。ルカは覚えてないのか。私に天使の加護を与えてくれたの」



「いや、覚えているけど、それと関係が?」


何か重大な事故に巻き込まれそうになって、九死に一生を得たとか…?

「姉貴がかかってた病気が私に感染しなかったのは、どうやらその加護のおかげらしいんだ」


「っ!?」

だからあの時、ベルだけが病気に苦しまずに…!


「この子が生まれるとき博打を打ったんだ。天使の加護を与えて、病気にかかるかどうか、をな」


ベルは優しい微笑みを浮かべた。


「結果、グランベリアはここに生きている…。本当にありがとう。ルカがいなければ、グランベリアは生きていない」


僕は言葉を失いつつも、たまらない幸福感に胸をいっぱいにさせていた。

グランベリアが生まれた時、病気が健在だとしたら、確かに、グランベリアは死んでいたかもしれない。

「ありがとう、ルカ。今までの旅以外でも、ルカと、関わっていたなんて」


「なんだか嬉しいぞ」と満足そうに呟くグランベリア。

因果応報というのだろうか。


僕は 傍観者に徹しているだけではなかったんだ。しっかり、彼女達を幸せに導くだけのことは、できたんだ。

そう、本を読んで、文字列を追って、物語を眺めるだけではなかったんだ…。


その思いが胸に染み込んでくると、すぐに目元が熱くなってきた。

「ルカ、さっきも言ったが、私は、ルカが許嫁で、よかったと、思ってるから…へ、返事…」


「ええ、えと…きゅ、きゅうすぎ…ぼ、ぼくも…っ!?」

途端に、背筋にどすぐろい冷たさを感じてた。

「な、なにこの圧力…」

「背中に石を背負っているようだ…」

三人とも不気味な雰囲気を感じ取って、強張ってしまう。


しかし、僕はこの力に覚えがあった。

それはベルも同じようで、顔を見合わせる。

「これ、サキュバスの村の時の…」

「…似ているな」

アル救出をしにいったとき。


僕だけが見た、サキュバス達が一瞬にして灰と化す力の波動と酷使してる。

「…アルマエルマかもしれない」


「アルマエルマだと!?…大変だっ!!」

アルマエルマという単語を聞いたとたんに、目の色をかえたベル。

「力は魔王城へ向かっている、まずいぞ。現代の魔王が危ないっ」

「は…なんでアルマエルマが魔王を…?」

「その話は後だ、魔王城へ急ぐぞ」

真剣なまなざしのベルに後押しされて、飛び出すように僕達三人は魔王城へ急いだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





プレイしてみました!!2000人に選ばれたので。

私は魔法使いを選んで、今は25レベルぐらいです。

転職はみんなが炎魔法の方へ進むのを、私は氷魔法の方へいきました。

戦闘がとっても楽しい。敵を倒すたびに砕けたり、範囲魔法を使うと一気に掃除ができたりと爽快感がはんぱないです。

正式サービス始まったどっぷりこのゲームに浸れると思われますよ。
「私の母の名前だ」


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とある集落の奥に一軒。

寂れている周りとは違って、まだ生活感を残す家があった。

それは、僕にはとても見覚えのある集落と、家。


期待で胸が張り裂けそうだったし、逆に不安で胸が引きちぎれそうでもあった。

玄関をノックすると、聞きなれた、男勝りの女性の声。

「…」

確信を得た。


ただ、会って話がしたい、その一心で扉を開く

赤く可憐な髪を腰まで伸ばし、容姿はそう、ベルのまま。

老いた様子もなく、美しいあの時の彼女を、現代にタイムスリープさせてきたようである。

僕は彼女を一目見て、しかし、感動やら何やらで胸が張り裂けそうになってしまった。

そんな僕の思いを映すように、甘ったるい匂いが鼻孔をくすぐった。

え…あっ…。



そうか、僕は抱きしめられているのか、そう気づくのに数秒かかった。



僕達にとって、美しい時間。

「な、何をやっているのだ母さん!」

感動の時間はすぐに終わりを迎えて、グランベリアに引き離される僕と彼女。

「ルカ…私はずっと…何百年と、待っていたんだぞ…」

ベルの瞳に水気が差し始める。

僕にとっては昨日の、数十時間前の出来事に対して、ベルにとっては何百年前の出来事なんだ。

そうか、やっぱり、あの世界は過去だったんだ。

「ベル、生きて、たんだね…」

その現実が、すぐに涙腺を震わせようとする。

「あぁ、不幸なのか、それとも幸いなのか、私がこの世界に取り残された」

「という、ことは…」

「エレノアと私の姉貴…リリアは既にこの世を去った」

「…そう、か」

「玄関で話すのもなんだ、上がってくれ」

落ち着いた声音で僕を招き入れる彼女を見て、容姿に変化は見られないものの…。

なんというか、大人っぽくなった、というか。



昔と風景は変わらないリビングへ腰かける。

「話したいことがたくさんあって、何から話していいのか困ったものだ」

ははは、と優しくほほ笑むベル。

「でも、ルカを思う気持ちは変わらなかった、ずっと、ずっと待っていた…」

再会の喜びのためか、少しだけ潤んだ瞳が彼女の魅力をより一層引き立てた。



僕は恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう、

グランベリアがさっきから蚊帳の外なのが気に入らないのか、足をつねられた。

「いてて…」

「まず、なんでルカと母さんが知り合いなのか聞きたいのだ。なんなんだルカは、過去からタイムスリープでもしてきたのか」

ふんっと苛立たしげにため息をついて、イスに深く腰掛ける。


「割と的確に真実を突いてきてるね…そんな感じ。本に掛かってる魔法か何かで僕は過去へ飛ばされたのさ」

「まぁ、それは私が仕掛けた罠なんだけどな」

しれーとした顔で言うベルに対して、唖然とした。

「ど、どういうこと…?」

「運命というのは繋がっているのさ、ルカはいつか私に話しただろう、変な書物に呼ばれて過去へ来たのかもしれない、と…」

「あ、あぁ…」

そんな話をちらっとしたことがあった。


「その話を聞いてピンッと来た。私が仕掛ければいいと、な。むしろ、私が仕掛けたからこそ、ルカは過去にタイムスリップしたんだ」」



「…どうしてそんなことを」


「簡単さ、ルカが過去を知らなければ私はルカに会っても意味がないし、あったところで何も進まない。
初対面の奴に、お前を知っていると言っても仕方がないだろう」

なるほど…。

何か悪意のようなモノがあるのではないかと、深読みしてしまったようだ。




「進む…か…」


ベルはまだ、僕への思いを進ませようとしている、のだろうか。

いや、そんなはずないか…。

「だからこうして今、私とルカは再会できた…。」

ど、どうなんだろうか。衝撃的事実すぎて、どう反応していいのか。

「ふっ、色々と困惑しているようだな…まぁ、無理もない。
ルカがいない間に色々とあったのだ」

「あ、そうだ、グランベリアが母と呼んでいたけど、それは?」

「ふふ、やはり気になるんだな」

よくぞ聞いてくれましたという風に目を輝かせる。

「この子は私の娘であり、娘ではない」

何だか深刻な内容そうなので、心配になって本人に視線を映すと、大丈夫というのに頷いた。

「というと…?」



「この子は、エレノアと姉貴の子供だよ」


――――――っ!

「グランベリアが、エレノアと、ベルの姉の子供…!」

そう、だったのかっ。

こんな身近に、二人の娘がいたなんて衝撃的すぎる。

そして、グランベリアの家族(リリアとエレノア)と知り合いだったなんて…!

「姉貴が必死の思いで生んだのがグランベリアなんだ、だから、姉貴の意志を次いで、私が育て親になった」

「そう…エレノアは薬を、完成できなかった、のか」

ベルは少しだけ頬を緩ませて、首を横に振った。

「人間と、龍人族の寿命は違う、それはわかるだろう」

「…うん」

「姉貴は言ったんだ、愛している人の後を追いたい。と」

「…っ」


「薬はエレノアにしか作れない。そのエレノアが寿命で死んだらな…」

「でも、それじゃあ、グランベリアはっ!…グランベリアがかわいそう、じゃないか…」


ベルは目を瞑って「そうだな…」とため息をついた。

「姉貴が身籠ったのは、エレノアの死後なんだ。だから、どう足掻いても、病気の影響で助かる余地がなかったのさ…。

むしろ、そこを狙ったのかもしれないが」

「そっ…か…」

「エレノアがいない世界で生きたくないけど、それでもこの世界に自分の生きていた証を残したいとか、そういう類だろうな」



グランベリアの隣でこんな話をして、大丈夫なのだろうか。そういう面持ちで視線を移す。

「気にしなくていい、過去を嘆いた所で、今の私は私だ。育ててくれた人はベルさん、それだけのこと」

凛々しい言葉でそう言うグランベリア。

そうだ、グランベリアは昔からこういう仲間だった。

「それに…る、ルカとこうして…ごにょごに…」

グランベリアにしては珍しく歯切れ悪く、かつ、小さい声でぶつぶつ言葉を繋ぐ、頬は思いのほか赤い。

「グランベリアに真実を打ち明けた時も、こんな感じだったよ。ほんと、強い子だ」

優しい眼差しでグランベリアを見つめる。

本当の母親のごとく。

いや、本当の母親ではないからこそ、本当に近づけようと努力してきた結果なのかもしれない。

本当かどうかは、グランベリアにはさほど関係なさそうだが。

「母さん、なんとなくわかった。母さんが昔よく、私に聞かせてくれた勇者の物語。それは、ルカのことだったのか」


「そうだ」


「えっ…」

僕は目を白黒させてベルを見つめる。


「じゃあ、私の許嫁は、ルカ、な、のか」

歯切れ悪く言ったグランベリアの言葉に、僕はつい言葉を失ってしまう。