魔王城はひどい有様であった、入口は大きくえぐれ、崩れ落ちていて。
魔王城の内部も入口同様で、凶暴な何者かが通った傷痕が深く残されていた。
僕達が進んでいくと、エルベティエが壁によりかかっているのが発見された。
身体の一部が、人間を形成していない。
エルベティエのようなスライムでなかったらどうなっていたことか、寒気がした。
「エルベティエ、一体どうしたんだ…」
駆け寄ると、力なく視線だけ、僕達へ向く。
「アルマエルマが…突然襲い掛かって…とてつもない力」
息苦しそうに言葉を紡ぐエルベティエへ、安静にしててと伝える。
「そんな…アルマエルマがエルベティエに手を出したのか…?」
信じられないという顔をするグランベリアと共に先へ進む。
「そんなはず…」
以前、共に戦ってきた仲間に手を出すなんて…ショックがでかい。
「何か、理由があるんだそのはずさ」
自分に言い聞かせるようにそう言う。
アルマルマは、僕が過去の世界へ行く前に思い悩んでいた。それが…原因、なのかもしれない。
「…」
ベルはしかし、難しい顔をしたまま僕達の前を進むばかりだった。
何か、事情を知っているよう感じではあるが。
今話をしないのは、目の前に集中しろということなのだろうか。
アリスが鎮座している一歩手前、大きな広間に辿り着くと、状況は更に緊迫していた。
アリスとアルマエルマ?らしきどす黒いオーラをまとった人物が交戦中。
しかし、アリスがどうみても後れを取っている。
柱には頭から血を流したたまもが苦しそうに座り込んでいた。
「たまも、おい!」
入口から叫ぶと、アリスが大声を発した
「来るなルカ!今のアルマエルマは…ぐっ!!…アルマエルマじゃないっ!」
闇の力と闇の力のぶつかりの余波はとてつもなく、僕とグランベリアは立っていることすら、ままならないような状況。
先ほどから空気に重しを背負っているのも相まって、膝をつけてしまいそうになる。
しかし、ベルはその圧力をもろともせずに、しっかりと地に足をつけている。
びくともしていないその強靭な身体に、現場にいる僕達は目を見開いた。
「ぐっ…何だこの力…私よりも遥かに強い…」
そんな中、アリスが苦しそうにそう零した。
まさか、あのアルマエルマがアリスと戦うなんて、しかも、力では負けていない。
信じられない光景だが、今のアルマエルマは、僕が知っている彼女ではない。
あのどす黒いオーラを取り払ったら、以前の彼女に戻ってくれるのだろうか。
アリスがアルマエルマを振り切って、一体距離を置く。
「アリ…す…っ!、よくも、よくも私の私のぉおおお!!!」
野太いノイズのかかったような轟が近くの壁を抉り取る。
目はどす黒く染まっていて、瞳を見るだけで背筋が凍ってしまう。
「それは、違う、アルマエルマよく聞…、くそっ!!」
もう、アルマエルマには説得の隙がないようだった。このままではアリスの体がもつはずがない。
みんなで旅をして、戦って、平和を取り戻したのに、こんな形で崩れていくなんて、本当にいいのか。
いいわけがない、いいわけがっ・・・・!
「わが娘よ、剣を貸してくれ」
「母さん…!?」
僕達二人の目の前で仁王立ちしているベルは、振り返って、右手を差し伸べた。
「…私が行く」
「母さん…」
「心配することはない。言いたくはないが……年季が違う」
向こうの世界と同じ姿であるのに。
君は、遠くに行ってしまった。
そんな気がした。
グランベリアは迷いつつも、アリスを見殺しにするわけにもいかないと思ったのか、ベルへその剣を手渡した。
「母さん、無茶だけは…」
「誰に言っているんだ。四天王のグランベリアの母親、ベルだぞ」
その言い草に少しだけ笑ってしまった。そんな僕達の元から、ベルはしっかりとした足取りで向かう。
その背中はとても頼もしかった。
あぁ、ついこの間のように、隣にいてくれるのではなくて、ベルはずっと先を歩いているんだなって。そう感じてしまった。
長い月日を過ごしてきたベルとの溝なのかもしれなくて、寂しさを覚えた。
「…!?」
アリスとアルマエルマの力が拮抗している中、アリスはこの重圧を潜り抜けてきた龍人の姿に目を見開いていた。
「私が加勢しよう」
「貴様は…!」
空気の重みを感じさせない、鋭い剣の先がどす黒い瘴気に突き刺さる。
音を発しない余波が、生身の僕達へ降りかかった。
驚いたのは、その剣の先がアルマエルマを圧倒していることだ。
その様子を一目見たアリスは行けると確信したのか、口元をニヤリッと上げ、自身の力を振り絞ってアルマエルマの瘴気へとぶつける。
しかし、効いていなかった。
アリスの攻撃は、届いていなかった。
「…これは」
アリスは改めて、ベルが放った攻撃を確認して、目を見開く。
「貴様、その力はっ!?」
「ふ…魔王様ともなれば気づくようだな」
先ほどまで余裕を見せていたベルの額の端に、冷や汗が浮かんでいた。
「ただ力が強いだけでは到底無理だと思っていたが…貴様、正気か」
「娘と、好きな人のためだ」
アリスは少しだけ笑って、アルマエルマを見据えた。
「あいつも貴様も、大馬鹿だ」
僕はその力の余波を全身に受けて、深淵から浮かび上がる不安を感じぜざる得なかった。
この力の感じ、そう、僕が昔、過ちを犯そうとした時に使ったモノと酷使している。
「ベル、君はまさか、自分の生命を削って…っ!」
「っ!?母さん!?」
「ばれてしまったか」
じゃあ
その一言を言うと、更にベルの力は光を増した。
「やめてベル!!!ついさっき、久しぶりに会った、ばかりじゃ…」
「母さんっ!!!!!」
増していく威圧感と、強烈な光線により、僕の意識は遠のきそうになった。
力不足な自分を、これほどまでに悔やんだことがあっただろうか。
僕にとっては先日でも、彼女にとっては何百年と時を超えて再会を果たしたというのに。
こんな短い間にしか過ごせないなんて、悲しすぎる。
そんなの…ないだろ…っ。
―――――――――――「君に勇気をあげるよ、少年」
遠のきかけていた意識は、必死にその言葉を掴んだ。
魔王城の内部も入口同様で、凶暴な何者かが通った傷痕が深く残されていた。
僕達が進んでいくと、エルベティエが壁によりかかっているのが発見された。
身体の一部が、人間を形成していない。
エルベティエのようなスライムでなかったらどうなっていたことか、寒気がした。
「エルベティエ、一体どうしたんだ…」
駆け寄ると、力なく視線だけ、僕達へ向く。
「アルマエルマが…突然襲い掛かって…とてつもない力」
息苦しそうに言葉を紡ぐエルベティエへ、安静にしててと伝える。
「そんな…アルマエルマがエルベティエに手を出したのか…?」
信じられないという顔をするグランベリアと共に先へ進む。
「そんなはず…」
以前、共に戦ってきた仲間に手を出すなんて…ショックがでかい。
「何か、理由があるんだそのはずさ」
自分に言い聞かせるようにそう言う。
アルマルマは、僕が過去の世界へ行く前に思い悩んでいた。それが…原因、なのかもしれない。
「…」
ベルはしかし、難しい顔をしたまま僕達の前を進むばかりだった。
何か、事情を知っているよう感じではあるが。
今話をしないのは、目の前に集中しろということなのだろうか。
アリスが鎮座している一歩手前、大きな広間に辿り着くと、状況は更に緊迫していた。
アリスとアルマエルマ?らしきどす黒いオーラをまとった人物が交戦中。
しかし、アリスがどうみても後れを取っている。
柱には頭から血を流したたまもが苦しそうに座り込んでいた。
「たまも、おい!」
入口から叫ぶと、アリスが大声を発した
「来るなルカ!今のアルマエルマは…ぐっ!!…アルマエルマじゃないっ!」
闇の力と闇の力のぶつかりの余波はとてつもなく、僕とグランベリアは立っていることすら、ままならないような状況。
先ほどから空気に重しを背負っているのも相まって、膝をつけてしまいそうになる。
しかし、ベルはその圧力をもろともせずに、しっかりと地に足をつけている。
びくともしていないその強靭な身体に、現場にいる僕達は目を見開いた。
「ぐっ…何だこの力…私よりも遥かに強い…」
そんな中、アリスが苦しそうにそう零した。
まさか、あのアルマエルマがアリスと戦うなんて、しかも、力では負けていない。
信じられない光景だが、今のアルマエルマは、僕が知っている彼女ではない。
あのどす黒いオーラを取り払ったら、以前の彼女に戻ってくれるのだろうか。
アリスがアルマエルマを振り切って、一体距離を置く。
「アリ…す…っ!、よくも、よくも私の私のぉおおお!!!」
野太いノイズのかかったような轟が近くの壁を抉り取る。
目はどす黒く染まっていて、瞳を見るだけで背筋が凍ってしまう。
「それは、違う、アルマエルマよく聞…、くそっ!!」
もう、アルマエルマには説得の隙がないようだった。このままではアリスの体がもつはずがない。
みんなで旅をして、戦って、平和を取り戻したのに、こんな形で崩れていくなんて、本当にいいのか。
いいわけがない、いいわけがっ・・・・!
「わが娘よ、剣を貸してくれ」
「母さん…!?」
僕達二人の目の前で仁王立ちしているベルは、振り返って、右手を差し伸べた。
「…私が行く」
「母さん…」
「心配することはない。言いたくはないが……年季が違う」
向こうの世界と同じ姿であるのに。
君は、遠くに行ってしまった。
そんな気がした。
グランベリアは迷いつつも、アリスを見殺しにするわけにもいかないと思ったのか、ベルへその剣を手渡した。
「母さん、無茶だけは…」
「誰に言っているんだ。四天王のグランベリアの母親、ベルだぞ」
その言い草に少しだけ笑ってしまった。そんな僕達の元から、ベルはしっかりとした足取りで向かう。
その背中はとても頼もしかった。
あぁ、ついこの間のように、隣にいてくれるのではなくて、ベルはずっと先を歩いているんだなって。そう感じてしまった。
長い月日を過ごしてきたベルとの溝なのかもしれなくて、寂しさを覚えた。
「…!?」
アリスとアルマエルマの力が拮抗している中、アリスはこの重圧を潜り抜けてきた龍人の姿に目を見開いていた。
「私が加勢しよう」
「貴様は…!」
空気の重みを感じさせない、鋭い剣の先がどす黒い瘴気に突き刺さる。
音を発しない余波が、生身の僕達へ降りかかった。
驚いたのは、その剣の先がアルマエルマを圧倒していることだ。
その様子を一目見たアリスは行けると確信したのか、口元をニヤリッと上げ、自身の力を振り絞ってアルマエルマの瘴気へとぶつける。
しかし、効いていなかった。
アリスの攻撃は、届いていなかった。
「…これは」
アリスは改めて、ベルが放った攻撃を確認して、目を見開く。
「貴様、その力はっ!?」
「ふ…魔王様ともなれば気づくようだな」
先ほどまで余裕を見せていたベルの額の端に、冷や汗が浮かんでいた。
「ただ力が強いだけでは到底無理だと思っていたが…貴様、正気か」
「娘と、好きな人のためだ」
アリスは少しだけ笑って、アルマエルマを見据えた。
「あいつも貴様も、大馬鹿だ」
僕はその力の余波を全身に受けて、深淵から浮かび上がる不安を感じぜざる得なかった。
この力の感じ、そう、僕が昔、過ちを犯そうとした時に使ったモノと酷使している。
「ベル、君はまさか、自分の生命を削って…っ!」
「っ!?母さん!?」
「ばれてしまったか」
じゃあ
その一言を言うと、更にベルの力は光を増した。
「やめてベル!!!ついさっき、久しぶりに会った、ばかりじゃ…」
「母さんっ!!!!!」
増していく威圧感と、強烈な光線により、僕の意識は遠のきそうになった。
力不足な自分を、これほどまでに悔やんだことがあっただろうか。
僕にとっては先日でも、彼女にとっては何百年と時を超えて再会を果たしたというのに。
こんな短い間にしか過ごせないなんて、悲しすぎる。
そんなの…ないだろ…っ。
―――――――――――「君に勇気をあげるよ、少年」
遠のきかけていた意識は、必死にその言葉を掴んだ。