チェブラーシカの優しい世界② | 世界の切れっ端

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〜ひっそりと生息中@TOKYO〜

急に気温が下がって、朝夕はかなり冷えるようになったタシケントからこんにちは。

 

さて、前々回に引き続き、チェブラーシカことチェブ様について語りたいと思います。

 

生まれてから50年経った今でもカワイイが進行形なのって、チェブ様かジュディマリのYUKIちゃんか、と世間では論争が絶えませんが(多分どちらも正解)、チェブ様は周りのキャラクターも魅力いっぱい。

それだけでなく、前回も書いたけど、作品全体に漂うなんとなくちょっぴり物悲しい雰囲気も作品に魅入ってしまう要因の一つかなと。

そんな中だからこそ、登場人物達の優しさや純真な心が余計に光る。

 

「ソ連時代の後半なんて、どうしようもないくらい酷い生活。どこの店に行っても棚に並んでる商品は1種類か2種類ずつくらい。でもどの人も、みんな等しく同じ境遇を共有していて、だからこそみんなで助け合って頑張ろうみたいな雰囲気が社会にあったんだね」

と語るのは、少年時代をソ連で過ごした同僚。

 

チェブラーシカがオレンジの箱に紛れて南の国から辿り着いたこの街も、ソ連邦のとある街。

ああこんな雰囲気だったのかなと、ロマン・カチャーノフ監督の作品を観ながら、今はなきソビエト社会の生活を想像してしまう。

 

***

 

チェブラーシカの作品の魅力として欠かせないのは、人形劇作品としてのそのクオリティの高さ

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーさんのサイトでは、アニメーションディレクターである伊藤有壱さんのインタビューが載っている(こちら)。

伊藤さんによると、チェブラーシカとゲーナの瞳にだけ照明を当てて「星」が入るようになっており、この効果のおかげで観る人はこの二人の不安や喜びといった気持ちの動きを読み取れるようになっているらしい。

 

その他にも、ちょっとした仕草に作り手の細かい工夫が見られる。

 

※ここからネタバレ注意※

 

例えば、『チェブラーシカと怪盗おばあさん』(原題:シャパクリャク、1974年製作)。

ストーリーは言わずもがな、ロシアでは知らない人がいないほど有名な挿入歌「水色の列車」がクライマックスに流れる秀逸な作品。

 

モスクワ発ヤルタ行きの区間急行に乗るつもりだったゲーナとチェブラーシカは、チケットを持っていないシャパクリャク婆さんに自分達のチケットを盗まれてしまう。

すったもんだあった末(※省略しますが、一部始終がめちゃくちゃ面白いので一見の価値あり。有名な線路を歩くシーンもあります)、最後はゲーナが自分のチケットをシャパクリャクに譲ってあげる。

自分は列車の上に座って行くらしい。

 

「あなたはご婦人だし、それにチェブラーシカは小さいから」

 

え!そんなんでいいのゲーナ!?あんなに酷い目に遭わされたのに!?

 

どんなけ紳士なの。。先輩と呼んでもいいですか。。

 

そして列車の上に独り寂しく座るゲーナ先輩。

すると背後からなんとチェブ様が走ってくる!

 

「ゲーナ、僕も(列車の上に座って)一緒に行くよ」

「ありがとう、チェブラーシカ」

 

私だったら「えー!席に座ってなよ、危ないよ!それにせっかくチケットがあるのに勿体無い」なんて余計なこと言っちゃいそう。

素直に「ありがとう」って優しさを受け止めるこのシーンが、私は大好き。

そうだよ、いつも変に遠慮し過ぎちゃうんだよね。素直にありがとうでいいんだよ。

 

すると、なんとシャパクリャク婆さんもやってきて、

「あんたはいい子だよ、チェブラーシカ。友達を見捨てないんだね」

と言って、結局3人一緒に列車の上に仲良く並んで座って移動。なんかもうこれだけで心が洗われるよ。。

 

この時、ゲーナ先輩が得意なガルモーシカ(楽器)を演奏して歌うのが「水色の列車」。

 

人形の繊細な動きやカメラワークにも注目。

  • 演奏を始める時に、腕がチェブラーシカに当たることに気づいてちょっと目線でチェブ様に横にずれるよう促すゲーナ先輩(優しい…)。
  • 歌い始める前の、ちょっと物憂げで、でも清々しい感じのなんとも言えないゲーナ先輩の表情。一度目を閉じてからゆっくり頭を振って演奏を始める数秒がなんとも詩的。
  • リズムに乗って頭や腕を時々動かすシャパクリャク婆さんと弾き語りするゲーナ先輩に対して交互に向けられるチェブ様の優しい視線。
  • チェブ様もシャパクリャク婆さんもそれぞれ視線の先が異なる。思い思いにゲーナ先輩の歌に聞き入ってるのがわかる。
  • ちょこんとお行儀よく両手を膝に乗せて歌に聞き入るチェブ様は全身からカワイイが滲み出ている上に、
  • 一度耳にしたら忘れられないメロディと意味深い歌詞。
 
♪ゆっくりと時は流れ去っていく
待ってももう戻らない
過ぎ去った時はちょっぴり惜しいけど
もちろん前に進む方がいいよ♪
 
♪時には誰かを無駄に怒らせてしまっても
カレンダーが一日を終わらせてくれる
新しい冒険に急ごう、みんな
さあ機関士さん、スピードをあげて♪
 
などなど。
人形の動きしかり、素晴らしい歌しかり、ぜひ一度動画を観ていただきたい。
 
↓こんな感じで最後のシーンの背景は曇り空なのです(絵が酷くてすいません)
 
そんな曇り空だからこそ、明るい水色の列車が背景に映える。
ゲーナ先輩の歌と共に列車が画面の奥に走り去りながらエンドロールが流れる名シーン。
 
♪誰もがみんな明るい未来を信じて 走る走る 水色の列車は走る♪
 
 
***

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーさんのサイトで、ソ連時代に制作されたオリジナルのチェブ様動画を予告編として観ることが出来ます。

 

 

「やっと、やっと、「友達の家」が完成しました。ウラー(ばんざーい)!!」と大喜びした後に、礼儀正しくお辞儀するチェブ様。

 

ゲーナのガルモーシカ(楽器)に合わせてリズミカルに足踏みするチェブ様。。

 

おもちゃのヘリコプターで遠くに飛ばされてしまうチェブ様。。。

 

「ゲーナ、もしかして荷物運ぶの大変なの?だったらこうしよう。荷物は僕が持つから、ゲーナが僕を運んで?」と提案するチェブ様。。。。。

 

 

なんなのもう。

画面からカワイイが大洪水ですよ。

 

以前、ACジャパンのコマーシャルにも起用されていたチェブラーシカ。

トラウマになりそうなくらい怖いCMも多くて頻繁にネタにされているACジャパンだけど、思いやりを持つことを訴えるのにチェブ様はばっちりですね。

 

中村誠監督の2010年作品も、原作者のウスペンスキー氏に大絶賛された程の素晴らしい作品なので、ぜひぜひ疲れた現代人に観ていただきたい。

私はゲーナの部屋を片付けるチェブ様とジャグリングするチェブ様が特にお気に入りで、仕事で会議の雰囲気が凄惨な状況になったら必ずこれらの愛くるしいチェブ様を想像して精神を保ってます(現実逃避ともいう)。

 

***

 

そういえば、ヤルタって例のクリミア半島にありますね。

モスクワ発ヤルタ行きの列車なんて、今の世界情勢を考えると、考えられないような路線!

 

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーさんによるチェブラーシカ日本語版翻訳を担当した児島宏子さんによると、

 

“「チェブラーシカ」という映画には、戦争の影響が色濃く出ていると思うんです。第二次世界大戦で、ソ連は世界一の被害者を出した国です。しかし、その後の文化人たちは、特に子供に対して、復讐や仕返しという考えを絶対なくすように努めたのです。”

(インタビュー全文はこちら

 

 

子供時代にチェブ様を観て育ったはずの、プー●ン、ゼ■■スキー、聞いてるーーー!!??

 

 

♪誰もがみんな明るい未来を信じて 走る走る 水色の列車は走る♪

 

あなたたちが走らせるべきなのは戦車じゃなくてこれですよ。水色の列車ですよ。