あくまでも私個人の感想だけど、過度とも言える程のレディーファースト?な社会で育ったここの女の子たちは、「困った時は男性が助けてくれる」という精神が根付いているからなのか、最後まで自分でなんとかしようとは思ってないことが多い・・・ように感じる。
だから何を聞いても、二言目には、「не знаю(ニェ ズナーユ)」。つまり「知らなーい」「わかんなーい」ってこと。
小さくかぶりを振って、可愛い感じで、「知らなーい」「わかんなーい」。
知らないなら調べろやぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!
という言葉が出てくるのを、青筋立てながらなんとか抑える毎日。
あのねえ。「не знаю(ニェ ズナーユ)」って言って許されるのは、チェブ様だけだから。
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ソビエト社会主義共和国連邦。
私がまだ純真無垢で鼻を垂らした幼稚園児の頃、こういう名前の国が存在していた。
「生活はめちゃくちゃだったけど、一番良い時代でもあった」と、子供時代をソビエト社会で育ったウズベク人の同僚は振り返る。
子供の教育には時間や手間を惜しまなかったソ連政府。この時代に子供向けの教育番組がたくさん制作された。
その中で、誕生から50年経った今でも世界中に愛されているのはチェブラーシカ。
(画像はAmazonからお借りしました)
チェブラーシカは、1966年にエドゥアルド・ウスペンスキー原作の絵本『ワニのゲーナ』に登場し、1969年から人形アニメで映画化されてから世界中に愛されてきたキャラクター。
当時のソ連は、大戦後で孤児の子が少なくなかった。
だからチェブラーシカの世界では、子供も動物も、個人として登場し、それぞれみんなちょっぴり孤独。
そういうこともあってか、作品の中では、家族という枠を取り払い、何なら動物の種別さえも超えた友情が謳われている。
この物語の世界では、ズルをする人もいるけれど根はとても善良。
他人への寛大さや、ちょっとしたことには動じない忍耐強さ、社会を皮肉るユーモアもあれば、何とも言えない物悲しさが漂うなど、子供向けとは思えないほど非常に奥深い作品。
2010年には、中村誠監督により新たに映画化されているし(原作者のウスペンスキー氏も大絶賛)、三鷹の森ジブリ美術館の特別サイトでも作品を覗くことができる(こちら)。
登場人物が抱える孤独感や優しさが、現代人の心に沁みるのなんのって。
子供向けだからとスルーせず、疲れた大人には是非観て欲しい。
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【あらすじ】※ネタバレ注意
チェブラーシカは、遠い南の国からオレンジの箱の中に入ってやってきた。
箱を開けた果物屋のおじさんに「君は誰?」と聞かれても「не знаю(わかんない)・・・」としか答えられない、自分自身でも正体不明の謎の生き物。
私だったら、そんな答えが返って来たら、「は??わからんってなんやねんそれ今すぐ確認しろや」って言ってしまいそうになるけど、チェブ様に言われたら、
「そうだよねぇ〜わかんないよねうんうん」って怒りメーターをバグらされてしまうほど、それくらい可愛いいのなんのって!!!
耳が大きくてばったり倒れるので、「君はチェブラーシカ(ばったり倒れ屋さん)だね」と果物屋さんに命名された。
でも、何の動物かわからないため動物園にも入れて貰えないチェブラーシカは、古い電話ボックスで一人コマを回して寂しく夜を過ごす。
アイデンティティが確立していない不安さ。自分が何者かわからず、社会を彷徨わざるを得ない寂しさって、現代人にめちゃくちゃ刺さる。
一方、毎日動物園へ通勤するワニのゲーナは、仕事から帰ると一人になるのが寂しいため「友達募集」の貼り紙を出す。
(そういえば、こないだうちの同僚も寂しいからって友達作りのアプリを登録してたな。。)
貼り紙を見たチェブラーシカはゲーナの家を訪ねるも、自分が何者なのか答えられない。
「チェブラーシカという言葉は辞書にも載ってないね」とゲーナに言われると、「・・・じゃあ友達になれないの?」と悲しそうに聞く。
ずっと世界に拒否されてきた孤独なチェブラーシカ。
でも、ゲーナは正体不明のチェブラーシカを友達として受け入れる。
チェブラーシカが何をやっても「それはいい考えだ!」と必ず肯定するゲーナは超紳士で余裕のあるかっこいい大人。
そしてチェブラーシカは純真無垢で他者に優しくて、孤独な者が集まれる「みんなのいえ」をゲーナと作ったり、だんだん周りに受け入れられていく。
この二人は、“良いことしても有名になれない”を信条にいたずらを繰り返す謎のお婆さんシャパクリャクに酷い目に遭わされても、やり返したり一言もなじったりしない。
私だったら絶対とっ捕まえてボコボコにするか訴えて慰謝料ふんだくるけど、そんな暴力はこの世界には存在しない。
映画を観た人全員が、この優しい世界とチェブラーシカの可愛らしさに「ちぇ、チェブ様・・・」ってなること間違いなし。
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このチェブ様の制御不可な可愛らしさに全人類が平伏しているわけだけど、特に日本人の狂信的な崇拝具合は有名らしく、ウズ人同僚に「チェブラーシカ、日本でも人気だよ」って言ったら「知ってるよ」ってドヤ顔で言われてしまった。
新作映画を作ったり、CG版作ったり、アニメ化したり、グッズ展開したり、限定コラボ企画したり、、チェブ様の啓蒙活動に余念がない日本人。
そんなみんなに朗報だよ!!
チェブ様のフル実写版映画が2023年公開予定。
ロシア語版だけど、YouTubeにあがってる公式トレーラーはこちら。
※警告:耳を揺らして歩く後ろ姿が可愛過ぎて悶死不可避。
ワニのゲーナが庭師になっていたり、悪戯好きのシャパクリャク婆さんがチョコレート工場長になっていたりと、オリジナルの話とは全く別の物語として楽しめそう。
新作に出てくるCGのチェブラーシカは「歯があって怖い」「若い時のヨーダみたい」とか、ロシアでは散々批判されているみたいだけど、チェブ様を愛しているからこその厳しい意見なんだよね!うんうん。
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ロシアでの公開は2023年1月1日だって。
ソ連が崩壊して世代交代した今も、ロシアの子供たちはみんなチェブラーシカを観て育つらしい。オリンピックのロシア代表マスコットもチェブ様だったよね。
某国との戦線にぶち込まれているチェブ様ガチ勢のロシアのみんな、そろそろ母国に戻っておいで。
来年はチェブ様映画を観て新年を迎えようぜぃ。
子供の時に観た優しい世界を取り戻しに映画館に行こう。
日本でも公開されますように!
(チェブ様について語り尽くせなかったので、続く)