「本当の〆切」は存在するのか? | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
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今日も地球科学の関連話題ではなく,いわゆる「〆切」に関するお話。

「〆切」という言葉は,「期限の決まった仕事」をしていると必ずといっていいほど,使用する単語です。
学生のときでも,宿題の〆切,レポートの〆切,卒論や修論の〆切がありました。
もっとも学生のときの〆切は,多少オーバーしてしまっても,補修だったり,追加課題だったり,なんらかのペナルティが用意されていることが多く,最終的には多少の〆切超過は許される事も多かったのですが……。
社会ではそうはいきません。
〆切の超過は,下手をすれば,多大な損失となるケースもあるからです。

私は,現在はサイエンスライターですが,ついこの間まで編集者をしていました。
今回はその視点から,〆切についてのお話です。

さてこの業界,まことしやかに言われているのは「本当の〆切」の存在です。
「〆切」と言われる期限を超過しても,「本当の〆切」までに入稿すれば,何のかんのいっても印刷物は仕上がる,というものです。

「本当の〆切」ははたして存在するのでしょうか?
原稿やもろもろのデータを納める側としては,「本当の〆切」は気になるところです。

結論からいえば,存在します。

編集者だけが把握している「本当の〆切」は,どこの出版社にもあるはずです。
どんなに作家さんたちと親しくても,編集者によるチェックの時間や,何らかのトラブルに対応する時間等を考慮して,外には「安心できる〆切」をまず伝えるのが常です(のはずです)。
もちろん外から入稿する側の立場としては,1日でも自分の手元に時間が欲しいわけで,ここに〆切をめぐる駆け引きが発生します。

ちなみに「本当の〆切」は,印刷所の印刷機をおさえてある時間から逆算されることが多いです。
印刷所にデータを入稿して「すぐ印刷して」というわけにはなかなかいかず(個人出版に対応するところは別),印刷時間をあらかじめ予約しておきます。
この予約時刻が本当のデッドライン。
古巣でようやく中堅どころに慣れた頃の私は,この時刻に駆け込むようにデータを印刷所まで持っていく,ということが何度かありました(;^_^A
まだ,サーバ入稿などをやっていない時代で,データはMOで印刷所へ。
バイク便を呼ぶよりも,タクシーを捕まえて自分で行った方が早い。
そんなギリギリのケースです。
印刷所では担当の人が待っていて,データを受けとってすぐに印刷工程の開始,という状況でした。
それは,いろいろな人にとって心臓に悪い状況でした。。。。

編集者から伝えられる〆切を守るという事は,不測の事態に対しても編集者サイドで調整してもらえる時間がある,ということだと私は認識しています。
……ということは「本当の〆切」が実在しても,クォリティの高いものを求めるのであれば,編集者からの要望に応えるのが妥当である,と思うわけです。
〆切を守るライター。
非才の身には,まずこの一項目だけでも,自分の看板としたいですね(;^_^A
……あ~もっとも,「駆け引き」はさせて頂く事になるかもしれませんが。。。

その一方で,「本当の〆切」から「安心できる〆切」を正確に算出できるのも,編集者に求められる能力だと考えています(古巣の経験から)。
「安心できる〆切」が早すぎれば,作家さんたちに負担を与える事になりますし,遅すぎればクオリィティの劣化につながります。
ただし,この計算。算出には経験が必要で,一朝一夕で出せるものではありません。

腕の良い編集者が出した〆切は,「本当の〆切」でなくても守るに値するものなのです。
(ちょっと編集サイド寄りのまとめかな)。



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