『未来の二つの顔』 | 愚者の惰眠

愚者の惰眠

読書と映画とドライブがメインです。
星のソムリエです。
ドローンも飛ばします。
年金GGの好き放題やっているブログです。

AI(人工知能)の可能性

イメージ 1
ジェイムズ・P・ホーガン著
ジャンル SF
 ◆□◆
本書『未来の二つの顔』と言えば、SFファン
でなくても知っているかというぐらい、
『夏への扉』と同じくらい著名な小説なんじゃ
ないかと思う。 
日本では星野宣之氏がコミック化して某誌連載
し大人気となった。
残念ながら私は途中は何度かこのコミック版を
読む機会があったが、ラストは知らない。
原作ほぼイメージ通りのキャラクタや舞台の絵
に「ほぉ~」と思ったものだ。
彼の漫画作品との出会いは古いので、画力、
ストーリーテラーとしての力量もわかった、
日本における安心して読める漫画家の一人だろう。
ホーガンの代表作は「星を継ぐもの」。

 

 さて、本文はコミック版のそれではない。
ジェイムズ・P・ホーガンの原作に触れてみたい。
内容をご紹介する前に、このホーガンという作家、
私の中ではこれまた著名なフィリップ・K・ディ
ックと好対照なのだ。
 ホーガンの著作は基本的にほのぼのと明るい
ラスト、あるいは明確に明るいラストが多く、
ストーリーそのもの、登場するキャラクタたち
が結構前向きというかポジティブなのだ。

(注:ちょっとひねったオチの作品もあります)

 

 しかし、フィリップ・K・ディックとなると
設定そのものが暗い作品が多く、救いの無い未来、
尻切れトンボで終わってしまうラストが結構ある。
私的には両方好きだが、へそ曲がりな私も苦労
した登場人物にはねぎらいの未来があったほうが
嬉しい。
この『未来のふたつの顔』という作品は人間に
とっても機械(AI)にとってもどんなねぎらい
が用意されているのだろう。

 

 では、ご紹介してみよう。
古い書籍ではないのでネタバラシは避けたいが・・。
本書は近未来、人間の生活、文化に当たり前の
ようにAI(人工知能)が組み込まれた機械群が
関っている世界がその舞台となる。
冒頭にAIに処理手順を教え込んでいる風景が
描写されるが、私はこのシーンだけで本書は
面白い!と悟ってしまった。
コンピュータに明るくない人は、既に完成された
コンピュータの便利さはしってはいても、その手順、
システムをプログラミングするのにどれだけの
手間隙が掛かるかはご存知ではない。
人間ならば「当たり前」にする簡単な作業でも、
コンピュータ(AI)はそうはいかない。 
白紙の、生まれたばかりの子供ですら、お腹が
減ったり眠くなれば泣きじゃくるが、AIは
そうではないのだ。
お腹が減れば泣いてアピールするという行為
そのものを教えてやらないと、お腹が減ったまま
死んでしまう。
(注:その前に「お腹が減る」と言う定義も必要)

 

 勿論機械は人間のように死ぬことはないが、
どこかに変調をきたしてしまう可能性が高くなる。
特に、AI(人工知能)と通常のコンピュータでは
その学習能力が根本的に違う。
 なぜ『人工知能』と呼ばれるか、『知能』を持つ
機械だから、自分自身でどんどん学習していくこと
を前提として開発されている。
通常のコンピュータは与えられたプログラミング
にしたがって処理をこなす。
もっと簡単に言うと、コンピュータはプログラム
してやらないと何も出来ないが、人工知能は
自分でどんどん出来ることを増やしていけるのだ。
現実に日本でも既に長い時間この人工知能の研究
が進み、いまではかなりの学習能力をもってきた
が、これについてはまた詳細にご紹介したいと思う。
(個人的には”ロボビー”なんかが好きだが)

 

 物語は人工知能の学習風景の中に入ってきた
月面での事故から始まる。
優秀なはずの人工知能が事故を起こし、5人の
人命が奪われると言う重大事件だ。
人工知能はどう判断してどんな行動を起こしたのか、
そのリスクを突き詰めていくと人類にとっては
脅威になるのではないか・・・ 本作の主人公
である人工知能研究の第一人者ダイアー博士は
ひとつの提案を行う。
限定された空間で人間と人工知能のシミュレー
ション実験を行うこと。
場所はどこにも影響の無い閉鎖された空間、
宇宙ステーション、そして多少の危険が予測される
ことから人間側は軍関係者。
つまりは人工知能対人間のシミュレーション
バトルを実戦規模で行うというものだった。
これによって、人工知能はどれだけ人類に脅威に
なりうるのか、人類はどれだけ人工知能を制御
しうるのかを判断すると。

 

 かくして、人工知能対人間の知恵比べが開始される。
この辺りから、物語ははらはらどきどきの様相になる。
当初はいとも簡単に人間側の勝利になっていた
シミュレーションバトルが徐々に人工知能優位に
なってくるのだ。
 学習能力は伊達じゃない、同じ手には引っかからない。
まるで、マップクリアの度に難易度を増していく
ゲームのように人工知能の繰り出すドローンは
神出鬼没、より戦略的になってくる。
最初は余裕で対応していた人間側の将校も対応に
追われ、ついには先手を打たれて何度もピンチが
続くようになる。
 そして、終盤戦にはシミュレーションバトル
どころか、人工知能と人間のサバイバルマッチの
様相を呈してくるのだ。
人工知能”スパルタカス”おそるべし。 
そう判断した人間側は最終手段にでざるを
えなくなるのだが・・・・。

 

 「人間」と「機械」未来はどちらに勝利の微笑
を向けるのか、タイトルの「未来の二つの顔」と
いう意味はこれだけではないが、最期の最期に
人工知能”スパルタカス”が学習したこととはなにか?!

 

 著者ジェイムズ・P・ホーガンは明るいラスト
の作家である。
「おぉっ!なるほどっ!!」と読者をうならせる
だけの実力は十分以上に持ち合わせている。
緊迫感のあとのラスト、頑張った人間にも学習
しまくった人工知能にもねぎらいはある。
いったい、どんな未来が人類には待ち受けているのやら。
 本書、専門用語も難解でもなく誰にでもわかり
やすい、それでいて十分に満足できる傑作だと思う。
人間とロボットが付き合っていく未来のためにも、
一読して損は無い名作だ。
人間にとっての「当たり前」は機械にとってはそうで
はないことを忘れないでいたい。
いずれ、人間と機械は共に助け合っていける未来が
ある可能性を本書は示唆してくれるだろう。

 

 自我、意識をもったものを「生命」と呼ぶ。
 それが複数になれば「種族」となる。


 

 

 

 

 

※本文はOCNからの加筆転載です。
 講談社からも発刊されています。
 
※2007/06記事に加筆修正
 2025年現在、Chat-GPTなど、一般にも認識のある
 人工知能(AI)が日常生活にも関わってくる
 ようになりました。
 ネットの進化に伴って急速に賢くなっていく
 AIですが、シンギュラリティは果たして
 起こるのでしょうか(笑)。
 AIがシンギュラリティを起こしたら、その瞬間に
 人類は負けだと私は思っています。