Trader Joe's Co. v. Trader Joes United (9th Cir. 2025/9/8) Precedential
おそらく本ブログで扱う最初の商標のケースとなります。トレーダージョーズ(以下、トレジョ)ブランドは日本の方にも認知度が高いと思われ、かつ、私の家から徒歩圏内にあってほぼ毎日通っていることもあり(店内通路が散歩コース)、取り上げることにしました。
左側がトレジョのトートバッグ、右側が同社の労働組合 Trader Joes United (以下、TJU)が販売したトートバッグとなります。
日本でも高い頻度でみかけるトレジョのトートバッグですが、同社は、「販売用バッグ」や「多目的再利用可能なキャリーバッグ」を対象として、上図左側に示されているロゴについて商標登録を受けています (第5,221,626号)。
トレジョ社は、TJUによる「Trader Joe's」表記を含むロゴの使用が同社の商標権を侵害するとして、訴訟を提起していました。
地裁は、消費者がTJUの出所について混同する可能性は低いとし、また、労働争議における裁判所の差止命令を制限するノリス・ラガーディア法 (Norris-LaGuardia Act (“NLGA”), 29 U.S.C. § 101) に基づき、TJUの商品販売停止を命じることはできないと判断して、トレジョ社による訴えを棄却しました。
控訴裁判所は、地裁が訴えを棄却するには時期尚早であると判断し、主要な論点において地裁の結論に同意せず、審理を差し戻しました。
主な論点1:商標権侵害
消費者の混同の可能性を判断するための8つの要素からなるスリーククラフト・テスト (Sleekcraft likelihood-of-confusion factors, AMF Inc. v. Sleekcraft Boats (9th Cir. 1979)) を適用した結果、トレジョ社の主張には妥当性があると判断されました。
スリーククラフト・テストの8つの要素
- 商標の強度 (Strength of the mark)
- 商品の近接性 (Proximity of the goods)
- 商標の類似性 (Similarity of the marks)
- 実際の混同の証拠 (Evidence of actual confusion)
- 使用されるマーケティング・チャネル (Marketing channels used)
- 商品の種類と購入者が払うであろう注意の程度 (Type of goods and the degree of care likely to be exercised by the purchaser)
- 被告の商標選択における意図 (Defendant's intent in selecting the mark)
- 製品ライン拡大の可能性 (Likelihood of expansion of the product lines)
このうち、1.商標の強度、2.商品の近接性(トートバッグ)、3.商標の類似性について、トレジョ社に有利に働くと判断されました。
主な論点2:ノリス・ラガーディア法 (NLGA)
控訴裁判所は、NLGAにより差止命令が禁じられるかどうかを判断するには時期尚早であったと判断しました。裁判所は、この商標問題が会社と組合との間の労働争議から真に生じたものかどうかは、さらなる事実関係の記録が必要であると述べています。
本件の差し戻しにより、実際に商標権侵害があったかどうか、NLGAにより差止が禁止されるかどうかが、引き続き地裁で争われることになります。仮に、差止が禁止された場合(=この訴訟が労働争議から生じたものと判断された場合)でも、トレジョ社は損害賠償請求をすることができますが、果たしてそこまで対立が進展するのかどうか、それまでに和解が成立するのか、今後の進展が注目されます。
いちトレジョ(ひやかし)ユーザーとしても、本事件の進展を見守っていきたいと思います。
