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The U.S. Patent Practice

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Eye Therapies, LLC v. Slayback Pharma, LLC (Fed. Cir. 2025/6/30) Precedential

 

クレームの前提部(プリアンブル)と本体部とを接続し、本体部に列挙された構成要素が排他的かどうか(列挙されていない要素の存在を許容するかどうか)を定義する役割を担う移行句 (transitional phrase) の一つ、"consisting essentially of"について、明細書中の記載および審査履歴から、その意味がより限定的に解釈された事例となります。

 

移行句の例

  • comprising (~を含む):  "open-ended"と呼ばれ、クレームの本体部に列挙された構成要素以外の要素の存在を許容する、最も広い表現。構成要素以外の追加要素を含む引例によって新規性が否定され得る。
  • consisting of (~からなる): "closed-ended"と呼ばれ、本体部分に列挙された構成要素以外の要素の存在を許容しない表現。一般論として、構成要素以外の追加要素を含む引例によって新規性は否定されない。
  • consisting essentially of (本質的に~からなる): 今回の争点となった表現で、consisting of より少し広い表現。「クレームに記載されていない構成要素は、それが『発明の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えない』限り、含めることを許容する」(AK Steel Corp. v. Sollac  (Fed. Cir. 2003))

争点となった表現を含むクレーム (U.S. Patent No. 8,293,742)

1. A method for reducing eye redness consisting essentially of administering brimonidine to a patient having an ocular condition (眼疾患を有する患者にブリモニジンを投与する), wherein brimonidine is present at a concentration between about 0.001% weight by volume and about 0.05% weight by volume.

このクレームの有効性を争うIPRの手続きにおいて、PTABは、"consisting essentially of"という表現は、ブリモニジン以外の活性剤の使用は発明の基本的な特性に重大な影響を与えないとして、そのような活性剤の使用が許容されると判断し、その使用態様を開示する引例によって、上記クレームに係る発明は自明であると判断していました。

 

これに対し、CAFCは、審査段階における出願人の以下の応答に基づき、consisting essentially ofの解釈は、通常よりも狭く解釈されるべきであり、ブリモニジン以外の活性剤の使用は排除されると判断しました。

  • ブリモニジンとブリンゾラミドとを投与する態様を開示する引例回避のために、もとはcomprisingであった移行句を、consisting essentially ofに補正した
  • 補正されたクレームでは、ブリモニジンに加えて、他の有効成分の使用を必要としないという主張を行った
  • 上記主張を根拠に審査官はクレームを許可した

また、CAFCは、consisting essentially of の制限的な解釈を認めなかった過去の事例 Ecolab, Inc. v. FMC Corp., (Fed. Cir. 2009) について、以下のように述べています。

Ecolabの事例では、「本質的に過酢酸からなる」溶液を用いて家禽を消毒する方法は、過酢酸を唯一の抗菌剤として含む組成物に限定されないと解釈した。当裁判所は、特許明細書には過酢酸以外の抗菌剤を含む組成物を記載した例が記載されていたため、"consisting essentially of"の典型的な解釈から逸脱する当事者の主張を却下した . . . 言い換えると、当裁判所は、内部証拠 (intrinsic evidence) は、当事者が主張した代替的解釈と矛盾すると判断した。

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今回の事例により、consisting essentially ofという移行句の意味が、明細書の記述と矛盾しないという前提で、審査履歴の主張によって影響され得ることになります。クレームされていない追加要素を開示する引例を回避しつつ、他の重要でない要素の存在を許容する表現として、使える状況があるかもしれません。どのような場合に使用すべきか、その場合には明細書にどのような記述をしておくべきか、また機会をあらためてまとめてたいと思います。