Novartis Pharmaceuticals Corporation v. MSN Pharmaceuticals, Inc., MSN Laboratories Private Ltd., and MSN Life Sciences Private Ltd. (Fed. Cir. 2025/1/10) Precedential
2025/1/10付でCAFCの判決がでており、本ブログでも判断の覆った記載要件について簡単にご報告させていただいていた事件ですが、2025/8/22付で、最高裁への裁量上訴の申し立て (Petition for a writ of certiorari) がなされており、興味深い論点がありますので改めてまとめておきたいと思います。(受理されるかは現時点では不明)
上記事件の経緯(時系列)
- Novartisの'659特許発行。問題となったクレームの文言「バルサルタンとサクビトリルは組み合わせて投与される (administered in combination)」
- バルサルタンとサクビトリルとの複合体 (complex) が開発される(上記特許発行時にはなかった技術のため「後発技術 (after-arising technology) 」と呼ばれる)
- Novartisは上記複合体による薬剤 Entresto を製造・販売
- MSNらがEntrestoのジェネリック薬品を新薬申請、NovaftisがMSNらを特許侵害で訴える(=複合体による実施は、「組み合わせて投与される」というクレームを侵害する)
- MSNらは、上記特許は、複合体が開発される前のものであり、実施可能要件を満たさないため無効と主張したが、地裁・CAFCともに立証不十分とし、特許は有効と判断(実施可能性は出願時点で判断すべきであり、後発技術の複合体まで実施可能とする必要はない)
- MSNら、上訴の申立 <いまここ>
権利者が後発技術も含むようクレームを広く主張するのであれば、その後発技術も明細書によって実施可能にされるべきでは(侵害判断と有効性判断におけるクレーム範囲の一致)というのがMSNらの主な主張となります。
申立書によれば、後発技術と実施可能要件を含む特許法112条(a)の要件についてのCAFCの判断は分かれており、最高裁による判断が求められるとしています。
- The Idenix Line: 後発技術が特許の有効性に関連する。後発技術を用いる競合製品を包含するために広範なクレーム解釈を主張する場合、明細書がその全範囲を記載し実施可能にしていないと、特許は無効と判断される(侵害判断と有効性判断においてクレーム範囲が一致)
- The Hogan-Entresto Line: The Idenix Lineの逆で、後発技術が特許の有効性に関連しない。本事件におけるCAFCの判断はこの系列であり、クレームが後発技術を含むように解釈されたとしても、明細書がその後発技術を記載または実施可能にしている必要はない。
- The Schering Line: クレームを後発技術を含まないように狭く解釈する
- The SuperGuide Line: The Schering Lineの逆で、クレームを後発技術を含むように広く解釈する
本件について、進展がありましたら改めてご報告させていただきます。
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<蛇足>本日で当ブログ開設一周年となりました。記事を読んでいただき誠にありがとうございます。米国の特許に関する法律や実務、話題について、日本の皆様に少しでも身近に感じていただけるよう、これからも情報発信に努めていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

