少し前にXでもポストしたのですが、PCT出願の国内移行手続きの際に提出する自発補正 (Preliminary Amendments, PA) の形式が不適切であるとして、USPTOから通知が発行されるケースが散見されます。(当方からの問い合わせに対して情報提供くださった皆様、ご協力感謝いたします)
日本出願を基礎として米国で国内移行する場合、マルチ従属による追加料金の支払いを回避するため、これを削除する自発補正書を出すことが一般的ですが、これまで受け入れられていたフォーマットが、突如、特定の方式審査官により拒絶され始め、案件によって形式不備の通知が出されていることが確認されています。
通常、日本語のPCT出願のクレームのフォーマットは、以下のようになっています。
(日本の特許庁の手続きマニュアルから抜粋)
大かっこ[]で囲まれた請求項1というフレーズがポイントです。PCT出願に際し、これをミラー翻訳したものは、
[Claim 1] A hand scanner comprising: . . .
と記載されることになります。
ここで、米国での国内移行手続きにおいて、クレーム2 以降のマルチ従属を解消するため、以下のように記述された PA を用意します。Claim 1 に関しては修正はありませんから、
1. (Original) A hand scanner comprising: . . .
とし、マルチ従属のあるクレームについて、例えば
4. (Currently Amended) The hand scanner according to claim 1 any one of claims 1 to 4, further comprising . . .
のように、マルチ従属を削除して対応します。
ここで、特定の方式審査官は、翻訳文が [Claim 1] となっているのだから、このラベル表記についても補正をする必要があり、それを怠った場合には形式不備であり、その補正は受け入れられないと主張し始めました。
その方式審査官によれば、例えば上のクレーム1, 4 については、
[Claim 1] 1. (Currently Amended) A hand scanner comprising: . .
[Claim 4] 4. (Currently Amended) The hand scanner according to claim 1 any one of claims 1 to 4, further comprising . . .
のようにすべき、ということです。
"Original", "Currently Amended"は "Status Identifier"と呼ばれ、MPEP上、クレーム番号に続くものであり、クレームの状態を示すために必要とされています。(他には、前回に補正されたことを示す"Previously Presented"、キャンセルされたことを示す"Canceled"などがあります)
その意味合いから考えて、クレーム番号の表記を変えたことにより、その後ろで "Currently Amended"とするには個人的に違和感があります([Claim 1] だろうが Claim 1 だろうが 1. だろうが、1番目のクレームを示していることに変わりはない)。何より、これまで長年問題なかった運用を、何の事前通知もなく突然変更(しかも審査官によってはこれまでの形式でもOK)するのですから、何とも unreasonable だと個人的には思います。
また、PAが受け入れられないことにより、マルチ従属の削除がなされず、追加料金が取られたケースもあるようです。こうなると、少しでも料金を余分にせしめようと運用を調整しているのではないかと邪推してしまいます。
USPTOに問い合わせをしたところ、庁内でも、上記のようなPAを受け入れるべきか、議論がされているところだそうです。運用が決まっていないなら、少なくともこれまでのフォーマットは拒否しないのが行政の正しいポリシーではと思ってしまいますが、そのような考え方は通用しないようです。
従って、不本意ではありますが、USPTOの今後の方針決定によらず、今後は、[Claim #]といったクレーム番号表記も補正しておいたほうがよさそうです。副作用として、国内移行出願のクレームで "Original"なクレームは存在しなくなります。
ちなみに、翻訳文で "[Claim 1]" といった表記を省略して "1." などと記載すると、USPTOは不完全な翻訳文とみなすようですので、注意が必要です。(私は知らなかったのですが、数年前からこのような運用になったとのことです)