Novartis Pharmaceuticals Corporation v. MSN Pharmaceuticals, Inc., MSN Laboratories Private Ltd., and MSN Life Sciences Private Ltd. (Fed. Cir. 2025/1/10) Precedential
Novartisの特許第8,101,659号の書面記載 (written description) 要件違反 (第112条(a))による特許無効の判断が覆された事件です。
書面記載要件 (第112条(a))
明細書は、『出願日の時点で発明者がクレームされた主題を所有していたことが当業者に合理的に伝わる』場合に、発明を適切に説明するものとなる
Juno Therapeutics, Inc. v. Kite Pharma, Inc. (Fed. Cir. 2021)
(Ariad Pharms. Inc. v. Eli Lilly & Co. (Fed. Cir. 2010) (en banc)を引用)
’659特許のクレーム1
1. A pharmaceutical composition comprising:
(i) the AT 1-antagonist valsartan or a pharmaceutically acceptable salt thereof;
(ii) the NEP inhibitor [sacubitril] or [sacubitrilat]2 or a pharmaceutically acceptable salt thereof; and
(iii) a pharmaceutically acceptable carrier;
wherein said (i) AT 1-antagonist valsartan (バルサルタン) or pharmaceutically acceptable salt thereof and said
(ii) NEP inhibitor [sacubitril (サクビトリル)] or [sacubitrilat] or a pharmaceutically acceptable salt thereof, are administered in combination in about a 1:1 ratio.
太字の部分にあるように、このクレームは、バルサルタンとサクビトリルが組み合わせて投与されることを要件としています。
一方、Novartisの医薬品「エンレスト」やMSNのジェネリック薬品では、バルサルタンとサクビトリルとが複合体 (complex) として結合されたもので構成されています。Novartisは、この複合体による実施も上記特許のクレームの範囲であると主張していました。
しかしながら、このバルサルタンとサクビトリルとの複合体は、’659特許の優先日より後に開発されたものであったため、MSNは、クレームの太字の部分について、書面記載要件違反、すなわち、「出願日の時点で発明者がクレームされた主題を所有していたことが当業者に合理的に伝えられ」(*1)ていない旨を主張し、地裁はこれに同意していました(=特許無効)。
Novartisは、出願時に存在していない「複合体」について記載する必要はないと反論していたわけですが、CAFCはNovartisの意見に同意し、地裁による判断を覆しました。
「発明とは、『書面による説明』調査の目的においては、現在クレームされているすべてのもの」(Vas-Cath Inc. v. Mahurkar, (Fed. Cir. 1991))であり、上記クレームにおいては、バルサルタンとサクビトリルとの複合体 (complex) はクレームされておらず、説明される必要はないと判断されました。
妥当な結論にも思えますが・・・書面記載要件違反に関連する事例ということでメモしておきたいと思います。
(2025/10/7 一部表記修正)