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The U.S. Patent Practice

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Rideshare Displays, Inc. v. Lyft, Inc. (Fed. Cir. 2025/9/29)  Nonprecedential

 ()部分は筆者補足

 

特許法第101条の特許適格性に関し、PTABがクレームに記載された発明に特許適格性ありと判断していたものの、CAFCがこれを否定した事例となります。

 

問題となったクレームは、ライドシェアサービスにおいて配車をリクエストしたユーザが、接近してきた車両と自分の位置とを、二つのディスプレイ(その車両と自分の端末)上で比較・視認できるようにすることにより、自分が乗るべき正しい車両かどうかを識別できるようにするものです。

 

U.S. Patent No. 9,892,637 - Claim 29 (IPRを通じて補正)

 輸送サービスに配車を依頼したユーザの所在地へ配車中の車両を識別する方法であって、
 前記車両が前記ユーザの所在地から所定距離以内にあると判定された場合、ドライバーに関連付けられたモバイル通信デバイスに通知信号を生成するステップと、
 前記通知信号の受信に応答して、インジケータを作成することにより、前記インジケータを表す表示信号を生成するステップと、
 前記通知信号および表示信号に基づいて、前記車両に関連付けられたディスプレイに前記インジケータを表示するステップであって、前記ディスプレイは前記車両の外部から視認可能に配置されているステップと、
 前記ユーザに関連付けられたモバイル通信デバイスにインジケータを表示するステップと、
 前記ユーザに関連付けられたモバイル通信デバイスに表示されているインジケータと、前記車両に関連付けられたディスプレイに表示されているインジケータとが前記ユーザの目視により一致することに基づいて、車両を識別するステップと、を含む方法。

PTABは、USPTOの特許適格性に関するガイダンス "2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance" およびその October 2019 Update に基づき、上記クレームは抽象的アイデアに向けられているものの (Step 2A, Prong One)、互いに移動する複数のデバイス間通信を可能にする技術的特徴を開示していると判断し、これが「コンピュータおよびネットワーク技術に根ざした技術的解決策を提供している」ため、特許適格性を有する (Step 2A, Prong Two)と結論付けていました。

 

CAFCは、上述の通り、USPTOのガイダンスには拘束されないことを明示した上で、クレームが技術的解決策をもたらすというPTABの見方に同意しませんでした。

本件において、クレームは、ライドシェアアプリ利用時におけるユーザー体験の向上と、ドライバーの識別に向けられている 。しかし、クレーム自体には、モバイルデバイス環境そのものへの改善に向けられた記載は何もない。すなわち、その技術的改善は、人間同士のインタラクションをより容易にし促進するが、テクノロジー自体の機能の仕方を根本的に変えたり改善したりするものではない 。

なお、本件では、USPTOのアトーニーが第三者として参加し (intervene) 、101条に関して意見をしたようですが、上述の通り、USPTOのガイドラインは参酌されず、Alice判決に基づいて特許適格性が独自に判断される結果となりました。

 

本件はNonprecedentialのケースではありますが、裁判所がUSPTOのガイドラインに従わないことを改めて示す事例となりました。特許適格性の要件について、新長官のもとで審査が緩くなっても、裁判所の判断が厳しいままでは混乱が続くことになるため、審査基準の変更と合わせて法改正もぜひ早く進めていただきたいものです。