補正で上位概念化する際には記述要件を満たすか確認する | The U.S. Patent Practice

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Mondis Technology Ltd. v. LG Electronics, Inc. (Fed. Cir. 2025/8/8)  Precedential

 

クレームの補正によって上位概念化された特徴が明細書に記述されていなかったことにより、特許が無効となった事例となります(pre-AIA 第112条第1段落 (現行法における第112条(a) 要件違反)。

 

※第112条には、実施可能要件、ベストモード要件、記述要件(日本における第36条第6項第1号のサポート要件に対応)の3つの要件が含まれていると解されており、本件はその最後の要件に関するものとなります。

 

U.S. 7,475,180 B2 (ちなみに日本出願を基礎とする特許です)

 

出願時のクレームの一部抜粋

A display unit for displaying an image based on video signals . . . comprising:
   a video circuit adapted to display an image based on the video signals . . . ;
   a memory in which at least display unit information is stored, said display unit information including 

an identification number for identifying said display unit  (前記ディスプレイユニットを識別するための識別番号) and characteristic information of said display unit; and

   ...

この赤字部分について、審査の過程で、以下のような補正が行われていました。

. . . information including an identification number for identifying at least a type of said display unit (前記ディスプレイユニットの少なくとも種別 (type) を識別するための識別番号) and characteristic information of said display unit

 

明細書では、一貫して、ディスプレイとその識別番号とが一対一で対応する形で記述がなされており、「種別」についての情報が明示的に開示されていない点は、両者の間で争いがありませんでした。

 

 

一旦、発明が特許となると、それが有効であるとの推定が働きますが、クレームされた特徴に対応する記述が明細書で明示的に開示されていない場合に、これが反証され得ることが示された事例となりました。

 

なお、CAFCは、審査官によるクレームの許可そのものが、クレームが第112条の要件を満たしているという実質的な証拠を提供するものではないと述べています。(AK Steel Corp. v. Sollac & Ugine, 344 F.3d 1234, 1245 (Fed. Cir. 2003))

 

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ファーストオフィスアクションを受けた後、特定の限定について、上位概念化の補正を行うことは稀ではないと思います。これによって広がった特徴について、明細書において対応する記述があるか、注意しておく必要があります。

 

日本出願に基づく米国出願の場合、補正案を検討するとき、日本語の明細書や翻訳クレームを使用することがあると思います。

 

補正案の検討段階で日本語を使用することは問題ないと思うのですが、これをクレームに落としこむ際には、英文明細書に基づく英文表現になっているか、最終確認することが重要です。(これが難しい場合には、日本語で指示して先方に翻訳してもらった方が無難だと、個人的には思います。日本語ベースで上位概念化した言葉を機械的に翻訳し、明細書に即していない表現が、意図的な指示として伝わることが最も危険なように思います)

 

また、明細書の作成段階においては、将来の補正を見据えて、特定の実施形態だけでなく、代替となる形態やバリエーションについて、可能な限り盛り込んでおくことが大切です。