コンピュータが絡む発明でほぼ必ず使用される主記憶装置、いわゆる RAM (Random Access Memory) ですが、日本出願の翻訳文をベースに米国出願する際、訳語などに関連して修正すべきか悩むことの多い要素です。
一般的に、RAMとは、プロセッサが処理を行う際、プログラムやデータを一時的に記憶しておくメモリの一種で、ハードディスクなどのいわゆるストレージとは異なり、容量が小さい反面、高速な読み書きが可能になっています。
メモリそのものの発明でない限り、この要素に関連する説明部分が致命的な問題を起こすことは少ないと思うのですが、そのような側面が余計に、出願前に直すべきか維持すべきか、判断を迷わせます。以下、いくつか事例をご紹介します。
悩ましい事例その1
「主記憶装置」→ main storage device
近代のコンピュータの領域では、storage deviceとは、ハードディスクなど、比較的大容量な補助記憶装置(mass storage) を指すことが多いです。(まだRAMが存在しなかった頃のコンピュータでは、 RAMと同じ働きをする装置を primary storage と呼んでおり、その名残でこう呼ぶことも間違いではないようですが)
その観点からいうと、別途定義されている「補助記憶装置」としての(secondary) storage deviceとの関係で、2種類のstorage deviceが存在することになります。
明細書と図面の書き方にもよるのですが、RAMは、日本語でも英語でも「メインメモリ (main memory)」と呼ばれるので、「記憶」の部分は memory と訳してほしいと思うことがあります。
悩ましい事例その2
「メモリユニット」→ memory unit
カタカナ語の「ユニット」が曲者です。ミーンズプラスファンクション形式のクレームの限定解釈を避けるため、クレームでは「〇〇部」という表現を " . . . unit"と訳さないように工夫されている翻訳文もよくみかけます。
カタカナで「ユニット」と書いてしまうと、翻訳者としても "unit" とせざるを得ないのだと思います。この memory unitがクレームで使用されている場合、審査の段階において、低くない確率で、ミーンズプラスファンクション形式のクレームと認定されることになります。
OA応答時に対処可能なので、出願時に放っておいても害は少ない問題ではありますが・・・。単に RAM を言うのであれば、わざわざ「メモリユニット」というカタカナ語を使用することもないかな、とは思います。
悩ましい事例その3
「メイン記憶ユニット」→ main storage unit
上の1と2のコンビネーションです。「メイン」と「補助」とを対比させ、かつ、ユニットという表現を使用したくてこのようになったのだと思います。
これについては・・・「主」でよかったのではと思わなくもないです。
悩ましい事例その4
main memory を構成する要素として volatile memory と nonvolatile memory が定義されている
volatile (nonvolatile) とは、「揮発性の (非揮発性の)」という意味で、電源供給が途切れてもデータを保持できない(できる)ことを表しています。一般に、RAM は volatile です。
上述の通り、一般的には、main memory とは RAM を指します。RAMとは、volatile memory です。では、上の main memoryに含まれる要素としての nonvolatile memory とは・・・?
この nonvolatile memory とは、読み出し専用の高速メモリである ROM (Read Only Memory) のことを指したいことは、明細書の記載からも技術常識的にも理解できるわけですが、RAMとROMの括りを main memory としてしまっていることに違和感があります。(私だけでしょうか・・・)
日本語の明細書としてみるとあまり違和感がないのですが、英語にしてみるとおかしい、となる問題の典型例の一つかなと思います。米国出願なされる可能性が高い案件ついては、用語集などを利用して、訳語のコントロールをされるとよいと思います。