公開日: 2023/9/27

タイトル: The natural disaster economist
ポッドキャスト: Planet Money
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概要:

自然災害が経済にもたらす長期的な影響について、GDPへの影響などマクロ的視点のデータは多いが、ミクロ的視点で災害後の経過を追った研究は少ない。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で教鞭をとるタティアナ・デルギナは自然災害に特化した経済学者である。

 

まず災害後の募金に関する研究を紹介する。復興を支援するためにそれまで支援していた他のプロジェクトへの募金が止まってしまっては、社会にとってプラスになったとは言い難い。幸いトルネード災害を対象とした研究では、災害直後に増加した募金総額は翌年以降も下がることなく募金が続いた。災害が人々の慈善意識を高め、人々の募金予算を大きくしたと言える。冷めた考え方をすれば、赤十字などのリストに載って継続的にリマインドがあったためと解釈できるが、純粋に人を助けるという善行の快感に目覚めた人もいるだろう。

 

米国において実際に復興の要となるのは、募金ではなく個々の契約に基づく保険金と政府からの支援金だが、保険会社は近年の自然災害のリスク上昇により難しい局面に立たされている。リスクが高ければ当然保険料を値上げすべきだが、上げ幅は規制されており、また市民からの反発もある。そのためカリフォルニア州など災害の多い地域からの撤退や高リスク地域での新規契約停止が検討されている。

 

デルギナは2005年に発生したハリケーンカトリーナに関し、財務省の協力を得て、前年にニューオーリンズにいた人々のその後の経済状況を追う研究を行った。被災したであろう市民のデータを、災害のない似たような地域の住民データと比較したのだ。甚大な被害をもたらした災害であったため、被災者の生活への長期的な悪影響が予想された。結果、ハリケーン直撃直後の2005年および2006年は、ニューオーリンズの人々の経済状況は明らかに悪化していた。しかし2007年には被災しなかった場合と同等のレベルまで回復し、2008年にはなんと、被災しなかった場合より所得が多かった。被災者の経済状況は、たったの数年間で被災しなかった場合より良くなっていたのだ

 

最初はデータを疑うほど驚いたデルギナだが、考えられる主な要因として2つ挙げている。第一に、ニューオーリンズの物価水準が高くなったためだ。これは他の被災地域でも見られる現象だが、あまりに多くの住居が破壊されたため供給が追い付かず、住宅費が上がり、それに呼応して賃金も上昇したのである。第二に、被災者がより給与の高い、経済的に豊かな地域へ引っ越したことが挙げられる。

 

別の研究では医療データを用い、ハリケーン前年にニューオーリンズに住んでいた65歳以上の住民及び障害がある住民の死亡率を調べた。当然ながら、ハリケーン直後の死亡率は高かった。しかし2013年のデータでは、ニューオーリンズの人々の死亡率は、比較対象地域の死亡率を下回っていた。ここでも考えられる要因は引っ越しだ。ニューオーリンズは経済面だけでなく、公的医療の面でも国内で下方に位置していた。ハリケーンをきっかけに、より豊かでより医療が充実した(より死亡率の低い)地域に移住した人々の生活が、災害がなかった場合の想定を上回ったのである。

 

ではなぜもっと早く引っ越さなかったのか。災害に見舞われやすい地域の住民はリスクをどのようにとらえるべきなのか。これは個々人が自分に問うべきことでもあるが、地球温暖化の影響で自然災害の頻発化が懸念される今、自治体や政府が考えていかなければならない課題である。

 

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「禍を転じて福と為す」がデータに表れている。ハリケーンに全てを破壊されずとも、より良い地域への引っ越しはできる。しかし猫が家につくように人も土地につくのだろう。様々な理由でその土地を離れられない人もいるが、転機を自ら作り出すのが苦手な人も多いのかもしれない。