公開日: 2023/09/20

タイトル: Subtitles: On
ポッドキャスト: Twenty Thousand Hertz
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概要:

近年テレビや映画を字幕付きで見る人が増えている。音声と音響効果・音楽のボリュームの差が大きすぎて調整が必要となり作品に集中できないのだ。2022年のアンケート(※対象者数等詳細不明)では回答者の半数以上が映画を主に字幕付きで見ると答えた。高齢の視聴者だけでなく、高校生や大学生がより多く字幕を利用する傾向にあるという結果だった。

 

字幕は聴覚に問題がない視聴者にも有用だ。家の中が騒がしい場合もあるし、夜遅くボリュームを下げて見たい場合もある。しかし字幕を読むことにより映像の細部のこだわりを見逃してしまったり没入感がそがれてしまう可能性があり、本来であれば、字幕を必要としない楽しみ方が望ましい。業界もわかっているはずだが、ではいったい何がこのような傾向を生むのか。

 

仮説その1 俳優の話し方

監督によっては、聞こえ辛いことがわかっていても、恐れや敬意により、役の解釈を俳優に一任してしまう。

 

仮説その2 テクノロジーへの過剰な依存

技術の発達により昔より音をいじりやすくなったが、その手軽さが編集者を夢中にさせ会話の聞き取りやすさが二の次となってしまう。

 

仮説その3 サウンドステージを利用した映画制作の減少

かつてはサウンドステージと呼ばれる撮影専用の防音の建物を使い、屋外のシーンも背景を利用して屋内で撮影を行っていたが、現在はロケが主流となり、無論、屋外の方がクリアな音声の録音は難しい。ガンマイクが使えないシーンでは役者に直接マイクを付ける必要があるが、見えないようにかつ音声をきれいに拾えるようなマイクの設置には技術がいる。

 

仮説その4 映像に比べサウンドは軽んじられている

超大作映画がもてはやされるようになりその傾向は強まった。人間は視覚に頼りがちな生き物であり、視覚に訴える方が効果的である。一般的な撮影現場では、映像制作に数十人が従事する中、サウンド専門が2人ということも珍しくない。そのような環境ではクリアな音声のテイクが最優先されることは稀である。

 

仮説その5 轟音愛

ポストプロダクションでは、感情に直接訴えかける音響と音楽の音量を上げるよう要求されることが多い。制作者は映画の内容を知り尽くしているため、その映画を初めて見る観客の視点に立つことを忘れてしまうことがある。

 

仮説その6 最先端を行く監督たち

サウンドデザインの常識を打ち破る監督として業界人の間でよく名前が挙がるのはクリストファー・ノーラン監督だ。彼は意図的に登場人物の会話を聞こえにくくすることがある。『インターステラー』ではあるシーンの会話を効果音として扱ったと述べている。

 

番組のホストでありサウンドデザイナーでもあるダラスによれば、問題はポストプロダクションで家庭での視聴体験が考慮されていない点にある。映画館は広いためボリュームを上げたサウンドも観客の耳に届くまでに程よくやわらぐが、家ではそうはいかない。配信サービスによっては自動調整機能を提供しているが限界がある。ゲームのように音声と効果音のボリュームを分けて設定できるようにすればいいという声もあるが、視聴者に調整の負担が生じることに変わりはない。劇場版に加え、「リビングルームミックス」というように、テレビ、配信サービス向けのミックスをポストポロダクションで用意するのが理想的だ。


映画の予算の中でサウンドが占める割合はごくわずか。95%が映像や俳優など、2~3%が音楽で、同じく2~3%がサウンドだ。別バージョンのミックスを用意する費用なんて微々たるものだ。映画制作者たちが自宅での映画鑑賞が当たり前になった時代に適応していくことが求められている。

 

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映画館で映画を観るのが好きで家ではながら見をすることが多いため、今までこのような傾向に気付かなかったが、言われてみれば音響に圧倒される大作が多い気がする。今度からはサウンドにも注意してみよう。