公開日: 2023/6/30

タイトル: The black market endangered this frog. Can the free market save it?
ポッドキャスト: Planet Money
記事/原稿URL: 

 


概要:

1998年のある夜、コロンビアの首都ボゴタの自宅にいたイバンに、エルドラド国際空港から電話がかかってきた。

袋いっぱいのカエルがいる、と。イバンら野生生物保護センターの職員は、サルやオウム等の受け入れには慣れていたがカエルの経験はなかった。その数約400。しかもそのほとんどがリマニーヤドクガエルと呼ばれる毒ガエルだった。

 

センターの経験にもなると受け入れを決意したが、カエルの飼育には高温多湿の環境が不可欠である。手始めにオフィスに水を敷きヒーターを入れて湿度を90%に設定。職員は外のテントで働き、公園の虫を捕って与えた。しかし熱帯雨林育ちのカエルたちは公園の虫を好まなかった。次々と弱って死んでいくカエルの世話に皆必死だった。ただのカエルではない。絶滅危惧種である。昼夜問わず働く彼らに数週間後また電話が入った。今度は300匹だった。そしてもう一本、とカエル確保の電話を受け、職員たちは危機感を抱いた。このままでは本当に絶滅してしまう。

 

密猟者に狙われたこのカエルは愛好家の間で人気の希少価値の高い種だった。YouTubeには愛好家が6万5千ドルも払ったヤドクガエルの箱の開封動画まである。リマニーヤドクガエルはコロンビアの固有種で、生息域はアンデス山脈奥地の熱帯雨林に限られている。なたで道を切り開いていかなければ辿り着けないような場所だ。このカエルたちは人間が近付いても動じない。毒を持っていることを派手な見た目でアピールしているため捕食者を恐れる必要がないのだ。そんな彼らに対する密猟は今から50年程前に始まった。地元民に1匹数ドルの報酬を提示するドイツ人やアメリカ人が現れた。研究によれば、そうして8万匹ものリマニーヤドクガエルが持ち出され、5千匹程が残った。

 

希少性は価格を跳ね上げる。珍しく高価だからこそ欲しがる者が現れる。経済学でヴェブレン財と呼ばれるものだ。

イバンは考えた。繁殖させて供給を増やし、希少価値をなくしたらどうか。そしてボゴタ郊外にカエル農場を作った。野生のリマニーヤドクガエルは80種類くらいの虫を食べるが、農場ではコオロギを餌にして飼育を試みた。するとコオロギだけでは毒がなくなってしまった。色はサプリメントを加えて補えたが毒を持たせることはできなかった。

 

しかしこのカエルの飼育で一番の難点は、幼体の飼育だった。まずリマニーヤドクガエルは一度に数個の卵しか産まない。産卵環境にもうるさい。そして驚くべきことに、このカエルのオタマジャクシは同種の卵しか食べない。これは人工飼育環境によるものではなく、野生の母ガエルも孵化前の卵を与えるのだ。リマニーヤドクガエルの学名「Oophaga lehmanni」の「Oophaga」は卵を食べる者という意味なのである。イバンはこの特殊な生態を研究し、2年かけて4匹の飼育に成功。この4匹に繁殖をさせた。

 

繁殖の次は販売だが、絶滅危惧種を販売するには特別な許可が必要である。中国、ラオス、南アフリカでは野生のトラを保護するために毛皮等の販売用のトラを飼育し問題となった。毛皮や牙等のパーツはいったん流通すると野生と人工飼育の区別がつかず政府を悩ませた。また販売を目的とした人工飼育により関連商品の所有を公認したこととなり、かえって需要を促進、野生の生息数に悪影響を及ぼした。

 

諸刃の剣の作戦ではあるが、政府に判断を仰ごうと、イバンは販売許可を申請した。しかしコロンビア政府もこんなケースには関わったことがない。2年経ち、ビジネスパートナーも見限り、カエルと借金だけが手元に残った。3年が経ってやっと認可が下りた。初出荷はニューヨーク行の35匹。彼は自ら飛行機に乗った。

 

購入者との盛大なパーティーが開かれた。購入により密輸を後押ししてきた人々とも協力しなければ前に進めない。最初は1匹1,000~2,000ドルで、300ドル程度の違法市場価格には勝てなかったが、最近では900ドルまで下げることに成功している。過去には500ドルで販売した実績もある。しかしカエル農場を切り盛りしなければならないイバンには限界がある。従業員に給料を支払い、必要な公的手続きを踏み、法律家に相談料を払うと月に2万ドルは飛んでいく。密猟者と価格で勝負するのは現実的ではない。

 

残された手段は啓蒙である。フェアトレード商品のように、養殖ガエルを選択する意義を地道に伝えていくのだ。この作戦が功を奏し、数十年前とは違い、愛好家の間でも裏ルートで購入するのはタブーになってきている。しかし密輸は完全には止められない。数年前にもエルドラド国際空港でまたヤドクガエルが没収されたばかりだ。

 

イバンの次の作戦は型破りでリスクがある。多くの人が聞いたこともないような珍しい種のカエルを高値で世に送り出し、その売り上げを利用してリマニーヤドクガエルの価格を下げるというものだ。ラインナップの拡大対象には鳥類も含まれる。コロンビア固有種のゴシキエメラルドフウキンチョウも候補のひとつだ。

 

ある種を救うために他の種をペット市場に送り込み続けるというこの施策には終わりがないように思われる。新しく注目を集めた種が次の密猟のターゲットにもなり得る。しかしイバンは新たな申請のため動き始めている。認可が下りなければ数年のうちに農場をたたまなければならないかもしれないという危機感を抱いて。

 

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密猟者が悪いのになぜ動物を大切に思う人々が金銭的負担を強いられたり究極の選択を迫られねばならないのか。しかし一番罪深いのは、欲しいものをどうしても手に入れなければ気が済まない人間たちなのかもしれない。