こだわりのつっこみ -2ページ目

こだわりのつっこみ

素人が音楽、小説、映画などを自己中心的に語ります。

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 もしも警察官などならなければ、もしかしたら一生降り立つこともなかったかも知れない町。単に住んでいるだけなら、どうということもないかも知れないが、こんな仕事をしているお陰で、嫌な面ばかりを見ることになった町。日中のこの町には、老人と女ばかりが溢れている。考えてみれば当然のことだ。男たちは皆、働きに出ている。ネクタイを締めて、満員電車に揺られて、都心の、ビルの中に吸い込まれていく。
 男たちに取り残された町を、自分たちはこうして歩き回っている。駐車禁止の場所に車を停め、客に頭を下げながら、それでも生き生きと動き回っているに違いないサラリーマンに比べて、何だかひどくつまらない仕事だからといって、どうして自分がしなければならないのだという気持ちばかりが膨らんだ。
(p379より)

 
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今回は乃南アサさんの長編小説、ボクの町を読みました。
表紙に警察官が敬礼をしていたので、警察小説であることは分かったんですが、犯人を推理して捕まえる・・・というタイプのものではなく(刑事ではなく警察官ですからね)、踊る大捜査線のような日常の悲喜こもごもを描くというものでした。


さて、まずは
あらすじです。

警視庁城西署の霞台駅前交番に卒業配置として初めて交番勤務の実習を行うことになった高木聖大。勤務先が違うものの、華奢な親切男、三浦と同期の桜としてお互いに警察官の職をまっとうすることにします。
しかし、夢に見た警察とは少し異なり・・・

初日からおばあさんの話し相手や、道案内などの雑務に追われます。
直接の指導係宮永に教えてもらう職務質問もろくに対応できず、警察官の現実を目の当たりにします。
そんなこんなでもどかしい日々が続いている最中、三浦が職務質問で窃盗の常習犯を検挙するという手柄を挙げるに至り、高木はなんともやるせない気持ちになります。
なんとか手柄を挙げたい高木ですが、その後も雑務に終われ、なかなか成功することができません。
業を煮やした高木は、宮永不在のもと単独で職務質問にでかけます。
そこで怪しい男に職務質問をかけると、なんと逆にボコボコにされる始末。
交番に戻っても、先輩たちからは無線(SW)で応援を求めなかったことなどを叱られ、誰も心配してくれないことへの寂しさといらだちがつのります。

その後も初めての変死体処理をしたり(させられたり)、少しの手柄(無線受令機とラジオと入れ替えたために、轢き逃げされた男を音楽で救うなど)を挙げたりするものの、警察官としての仕事が順調に行っているわけではありませんでした。
そこに来て、学生時代の旧友勝俣からの誘いを受け、かつての彼女、南條真奈と再会。
彼女にもう一度振り向いてもらうために警察官になったようなものの、彼女は新しい彼氏(しかも旧友)ができてしまい、もはや警察官を続ける動機さえ失ってしまうのでした。

自分は警察官には向いていないのではないか?
そう思い始めた高木ですが、大きな転機を迎えます。
それは、町で連続放火事件が発生したことに端を発します。

 
では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。











ボクの町 (新潮文庫)/乃南 アサ
¥740
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~1回目 2012.1.30~

では、あらすじの続きを。


高木
の働く町で連続放火事件が発生し、にわかに慌しくなる霞台駅前交番。
市民からの圧力も日増しに高まるのですが、犯人を捕まえられない高木らはなんとか放火犯を捕まえようと町を駆け回ります。
そんな中、不審火犯らしき者を三浦が発見、追い詰めます。

しかし、捕まえる寸前に車が急にやってきて、三浦を轢き、不審火犯も逃亡。
「不審火犯は30代くらいの女性だ」という言葉を残し、三浦は高木の見ている前で搬送されます。

同期が死ぬかもしれない状況の中、高木は不審火犯をなんとか捕まえようと気持ちを高めます。
交通課のミニパト勤務、小桜まひるとともに犯人を追い詰めることに。

途中、職質をかけて下着ドロを逮捕し、職質による検挙という初手柄がありつつも、じわじわと犯人を追い詰めていきます。
機転を利かせ、墓で待ち伏せた高木と小桜。
なんとその賭けが成功し、とうとう放火犯を逮捕することができたのでした。
本当の大きな手柄を得ることで警察官としての誇りを感じ、また小桜への淡い想いを抱きながら、高木は警察官を続けることにしたのでした。


さて、感想です。

いや~、あらすじだと薄っぺらいですねガーン
内容は面白かったです。
特に主人公である高木のなよなよした感じが妙にリアルで、警察官というものを題材にとっただけで、これって若者が社会に出て職業人になっていく一般的な様が描かれているのではないかと思えます。
職業を選ぶ動機なんて警察官だろうが先生だろうがサラリーマンであろうが、多分こうだろうなぁと思わせるところに、非常に高木君に親近感が沸くと共に、自分の社会人ほやほやの頃はこうだったんだろうなぁと懐かしくなりましたニコニコ

しかし、この作品はあくまでも警察小説なので、その部分で面白いなぁと感じたこともいくつもありました。
まずは、高木が警察官としての職を覚えてきたことをうかがわせるところ。
放火犯を小桜まひると共に追う場面。

 〔城西署管内。不審火の訴え。場所、霞台三丁目〕
 全身の神経がいっぺんい目覚めた。
 「まただ、また燃えてる!」
 イヤホーンに神経を集中しながら言うと、小桜巡査の「どこっ」という声が返ってきた。聖大は、それを手で制し、通信指令本部からの声を聞いた。
 「三丁目だって――丘の上だ。二十二の三だから――ええと、何とかという歯医者の傍ですかね」
 「了解っ!」 (p456より)

これって簡単に歯医者の傍と言っていますが、辛いと思いながらも町を歩いてきた高木が足を使って覚えた知識ですよね。ここらへん、文章ではすらーっと流れていますが、こうした発言から、
「成長したなあ、高木君」と思えるのです。

また、
放火犯を警察全体が徐々に追い詰めていく場面を無線によって表現しているところ、とても興奮しました。

 聖大は、息を詰めて、それらのやりとりを聞いていた。さっきも感じたことではある。だが今、この闇の中にいて、城西署に隣接する他の警察署までもが、たった一人の放火犯人を捕まえるために、一斉に動き始めたことが、実感となって迫ってきた。
 〔戸越一から警視庁〕
 〔戸越一、どうぞ〕
 〔第二京浜、戸越三丁目交差点から配備につく〕
 〔警視庁了解〕
 〔雪谷大塚三から警視庁!〕
 〔雪谷大塚三、どうぞ〕
 〔環八通り、奥沢三叉路から検索中〕
 〔警視庁了解〕
 〔自由が丘一から警視庁〕
 〔自由が丘一、どうぞ〕
 〔目黒通り八雲三丁目から検索中〕
 〔警視二〇六は、中原街道平塚交差点から!〕
 〔警視二〇四は、環七通り大森東交差点から!〕
 〔馬込四は、山手通り大崎郵便局前から!〕
 〔警視庁、了解!〕
 四キロ圏配備内の各警察署のパトカーが、犯人の退路をふさごうとしているのだ。・・・(中略)・・・今度こそ、今度こそ、と誰もが同じ思いでいる。
 聖大は、胸が熱くなるのを覚えた。仲間がいる。自分で思っているよりも、もっとずっと多くの仲間が、今この時、ひとつの目的に向かって動いているのだ。 (p458-459より)

そうでなくとも、警察24時的な番組が好きな私にとってみれば、この部分は高木と同じように胸を熱くしました。

ただ、このように、高木、宮永、おいしいところをもっていく大関主任などの警察内部の(それも霞台交番の)人物描写はかなり細かく、とても感情移入できるのですが、それ以外の人物があまりにも薄いなぁという印象もぬぐえません。

例えば、迷子の捜索願のくだりとして登場した母子、高木が対応した女性の城野友香里など、出てくる割にはなんとなくなバッサリフェードアウトをかましていて、
「おいおい、どうなったんだ」という。。。
特に迷子の件では、高木が「また交番に来いよ」と小説的になにか伏線を張っている様子なのに、その後一切触れられずガーン
城野も単なる嫉妬女として終わっています。
もっと広げて欲しかったなぁ~。

でも逆に広げなくてもいいところもあって、それは男色川辺主任。
なんでここで男色を出すのかが全く分からないですあせる
全員が全員ではないことは分かっているし、作品によっても違うのかもしれないけれど、こういう女性作家による男を描く作品って、なんだか高確率でホモセクシャルをにおわせる人物や記述がありますよね。
すごく僻々とします。
それが作品の核となるもの(例えば高村薫の『李欧』なんかは友情を越えたものが核となっていますよね)ならばいいのですが、そうではないあってもなくてもよいサイドストーリーに持ってこられると一気に引いてしまいます。個人的には。

ただ、サイドストーリーの物足りなさを除けば、等身大の警察官を描いたものとして、とても面白いと思いました。



総合評価:★★★☆
読みやすさ:★★★★
キャラクター:★★★
読み返したい度:★★★


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  読者諸君と同じ、この世界に住んでいた暢子も、やはり、別の宇宙へ、おしこまれてしまった。ほんの少しはなれた、タテ糸の中へ!
 だが、その世界は、あまりにも、もとの世界と、よく似ていたため、暢子は、しばらくのあいだは、その世界の異常さに、気がつかなかった。
 暢子のやってきた世界――そこは暢子が、内心、こうあってほしいと望んでいた世界だった。事故が起こったときに、暢子が願っていた世界が、もとの世界からおし出された暢子を、いちばん先に、受けいれてくれたのである。
(p206より)

 
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今回は、『時をかける少女』に所収されていた短編、果てしなき多元宇宙を紹介します。


早速
あらすじです。

S高の生徒である暢子は、いつもM高の不良高校生3人組から嫌がらせをされていました。
級友である史郎と2人でいるときもその3人組にあってしまいます。
しかし、史郎は何もせず、無抵抗のまま彼らに押し飛ばされてしまいます。

暢子はなんだか釈然としません。
怒らず、精神的なショックも受けていない史郎の様子に驚くばかりか、男らしくない彼に対して軽蔑の気持ちさえも抱くのです。
そこで、暢子は史郎に電話をすることに。
しかし、暢子が電話をしようとすると体がふらっとぐらつきました。

変わって3921年の東京。
16歳の女性科学者ノブはヴェラトロンという装置を起動させます。
しかし、事故が起こり爆発。
ヴェラトロン大爆発は、あたりの時空間連続体を引っ掻き回し、多元宇宙のノブの同時存在を入れ替えてしまいます。



では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。











時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)/筒井 康隆
¥460
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~1回目 2012.1.5~

では、あらすじの続きを。



さて、暢子の住む世界。
めまいのあと、暢子が史郎に電話をかけようとすると、なんと電話のダイヤルが5つしかありません。
さらに目は二重となっており、弾けないピアノには黒鍵がありません。
学校へ行っても苦手な数学は簡単。
なんとなく、暢子は気づき始めます。
この世界は自分がもともといた世界ではなく、別の世界だということに。
その世界は、自分が願ったものを集められてつくられているものだったのです。

そんなことを考えていた暢子は学校が終わると史郎と家に帰ることにします。
さて、やはり不良高校生が彼らを待っていました。
史郎はこの間は何もしなかったのに、今回は違いました。
不良高校生を半殺しにしてしまうくらいの勢いで彼らに殴りかかったのです。
暢子はそんな史郎を見て、やはりもとの史郎がよい、元の世界に戻りたいと強く願います。
するとまたぼんやりとしてきて・・・

女性科学者のノブは、別世界に飛ばされても科学者として別のヴェラトロンを作り上げました。
そして装置を起動すると・・・成功。
ノブは元の世界に戻れました。
しかし、実際に戻れたのはノブだけ。
暢子や別の人々は元の世界には戻れなかったのです。

ふと気がついた暢子は、元の世界に戻ったと勘違いをします。
しかし、その場には先ほど殴り合っていた史郎も、不良高校生もいません。
また別の世界に来てしまった、そう考えた暢子は、自分は一体誰なのかという思いを抱きつつ鏡を覗きます。
すると、そこには別人の姿が。化粧をして二重まぶたの瞳。
呆気にとられていると、不良高校生がなよなよと近づいてきました。
彼らは、暢子のサインが欲しいと言うのです。
なんと暢子は、沢田のぶ子というタレントになっていたのです。

不良高校生や、史郎、クラスメートなどに追いかけられる暢子。
元の世界に戻して欲しいと悲痛の叫びをあげるのでした。


さて、感想です。

なーんかもっと大きな話になるかと思いきや・・・・・・という感じですガーン

果たして暢子は元の世界に戻れるのでしょうか。。。

というか、
ヴェラトロンを使ったのにもかかわらず、暢子や別の人々は元の世界には戻れなかったとありましたが、しかし、暢子以外の別の人々が出てこないために、あくまでも暢子のみが別世界に移動してしまった感が否めず、そうするとあくまでも暢子を中心とした暢子だけの話に終わってしまい、SFとしてはどうなのか・・・と思ってしまいました。
 

総合評価:★☆
読みやすさ:★★★
キャラクター:★★
読み返したい度:
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  文一の片ほうの足が、張り出しにかかったので、昌子は文一のズボンのベルトをしっかりとつかみ、やっとのことで、かれを引っぱり上げた。
 ふたりとも、しばらくは、せまい張り出しの上にすわって顔を見あわせたまま、胸をドキドキさせ、息をはずませていた。ながい間、ものもいえなかった。地上を見おろし、おそろしさのあまり、ふたりはあらためてぞっとした。
 (こんなことが、以前にもあったような気がする)
 昌子はそのとき、ぼんやりと、そんなことを考えたのである。
(p147より)

 
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今回は、『時をかける少女』に所収されていた短編、悪夢の真相を読みました。


早速
あらすじです。

中学2年生の昌子は、同級生の仲良しである文一に、宿題を教えてもらおうと彼の部屋に出かけます。
小4以来の訪問でしたが、昌子には文一の部屋に恐い思い出がありました。
びくびくしている昌子に文一は般若の面をつけて驚かせます。

一方、昌子の弟の芳夫にはおねしょぐせがありました。
暗くて、何かがいるからトイレには行けないとのことで、昌子は芳夫のおねしょ癖を直そうと夜にトイレに行ってみますが、もちろん誰もいません。
不思議に思っていましたが、ようやくなぞが解けました。
それは、昌子と芳夫のお母さんが、怒った時、おチンチンをちょんぎってしまうと言われたことが原因で、芳夫は恐怖感からトイレに何者かがいると想像してしまったのでした。

さて、この芳夫の克服は、昌子の恐怖心の克服も奮い立たせます。
昌子の怖いものは、先に述べた般若の面と、高い所。
まずは高い所を克服しようと文一を誘って、町の時計塔へ向かいます。
ここを上りきれたら克服できるはず、そう思い、時計塔の階段を上り始めた昌子でしたが、蜘蛛嫌いの文一が、階段で蜘蛛を見つけてしまい、慌ててしまって階段の張り出しから落ちそうになってしまいます。
すんでのところで昌子が助け、事なきを得ますが、同時に昌子は恐怖の原因を思い出したような気がしました。

そこで数週間後、文一と共にある場所へと向かいます。



では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。











時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)/筒井 康隆
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~1回目 2012.1.5~

では、あらすじの続きを。


昌子
文一が向かったのは、橋。
昌子がかつて住んでいた郊外へと向かう途中にありますが、いよいよ何か得たいの知れぬ恐怖感が昌子に襲ってきます。
しかし、高い所が恐いのではなく、手すりや欄干が恐いのです。

恐怖が解決しないまま家に戻り、床に就く昌子。
そこで、彼女は夢を見ます。
出てきたのは田舎にいたときのお友達、悦ちゃん
そして長い橋。

昌子は文一を連れて再びかつて住んでいた田舎へと向かいます。
夢と同じく長い橋があり、橋を渡る途中で、電柱の影から悦ちゃんが偶然に現れます。
懐かしむ話もそこそこに、なんと昌子はかつて悦ちゃんを橋から突き落としたことが判明します。

しかし、もちろんわざとではなく、川向こうの店に買い物をした帰り、昌子は橋を渡っていましたが、電柱の影に悦ちゃんが般若の面をつけて隠れていました。
悦ちゃんは少し驚かそうと昌子の前に出ましたが、昌子はあまりの驚きと恐怖で悦子を突き飛ばしてしまったのです。
すると欄干が砕け、悦ちゃんは川へと落っこちてしまったのでした。

さて、互いの誤解が解け、邂逅。
昌子の得体の知れぬ恐怖も原因が分かり、克服したようでした。



さて、感想です。

トラウマを上手く子供用に仕立てています。
でも、『時をかける少女』のようなSFではないのだけれど、昌子がトラウマを乗り越えていく様が非常に愛くるしいです。



総合評価:★★☆
読みやすさ:★★★★
キャラクター:★★
読み返したい度:★★


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 和子はいつも、学校の行き帰りに、小ぎれいな西洋風の家の前を通る。
 その家には、善良そうな中年の夫婦が住んでいて、庭には温室があり、その横を通るとき、かすかに甘い。ラベンダーの花のかおりが、ほのかににおってきて、ほんのしばらく、和子をうっとりと夢ごこちにさせるのである。
 ――ああ、このかおり。このにおいをわたしは、ぼんやりと記憶している・・・・・・。和子はそう思う。――なんだったかしら?このにおいをわたしは知っている。甘く、なつかしいかおり・・・・・・。いつか、どこかで、わたしはこのにおいを・・・・・・。
(p114,115より)

 
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少年少女向け、古典的SF名作の時をかける少女です。
何度も映像化されているので、作品を読まずともストーリーを知っている方もたくさんいらっしゃると思います。
私自身も、細田守さん監督のアニメ版を観た後に、この作品を読ませていただきました。
というのも、アニメ版にどうにも納得がいかなかったからです。
「これはSFではなく、ファンタジーだろう」と思ってしまって。
まあ、細田版『時をかける少女』は熱烈なファンの方も多くいらっしゃるのであまり口を大にしては言えませんが・・・
細田版に関してもいずれ、疑念と感想を書こうと思います。


さて、原典であるこの作品の
あらすじです。

背が高く痩せ型の深町一夫とずんぐりむっくりの朝倉吾朗と仲良しの芳山和子は、理科教室の掃除中、床に割れていた試験管からこぼれ出たラベンダーの香りがする液体をかいでしまいます。
その時に、人影を見たのですが、正体を突き止めるまもなく、その人影は逃げてしまいます。

香りを嗅いでからというもの、なんとなく地に足が付かないような気持ちだった和子でしたが、それ以外にはさしたる変化はありません。
その3日後、事件が起きます。夜中に地震が和子の住む町を襲い、それに伴って火事が発生します。
なんと火事の方向は朝倉の家。慌てて向かった和子は朝倉と遭遇して、結局火事は事なきをえます。
その日の朝、夜中の火事のせいで寝過ごしてしまった和子は、あわてて学校に向かいます。
同じように寝過ごした朝倉の姿を見つけ、一緒に学校へと向かいます。

すると突然、暴走したトラックが2人に突っ込んでくるではありませんか!
和子は目を閉じ、死を覚悟するのです。

何の衝撃もなく、目を開けた和子は家にいました。
あれは夢か、と思いながらも周りはいつもと変わらない様子。
狐につままれた感覚で登校しますが、どうやらおかしい。
というのも、昨日が繰り返されていたのです。授業も、会話も、何もかも。


 
では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。












時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)/筒井 康隆
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~1回目 2011.10.29~

では、あらすじの続きを。


昨日が全く同じように繰り返されることに戸惑う和子ですが、気づきます。夜中に火事があることを。
いきなり予言めいたことを言うなんて、変だと思われるかもしれませんが、和子は朝倉に地震が起き、火事が発生することを打ち明けます。
もちろん、朝倉吾朗は最初は信じませんでしたが、実際には本当に起こってしまうのです。
そして、もちろんその朝、暴走トラックも避けることができました。

これは、テレポーテーションをした結果ではないか、という深町一夫の発言と共に、和子は自身にいきなり備わった能力に驚きを感じたため、信頼の置ける理科の福島先生に相談します。
すると、福島先生は、場所の移動と時間の跳躍(タイムリープ)ができたからではないか、と3人に言うのです。

原因を探っていくと、どうやら理科室の掃除中、ラベンダーの匂いを嗅いだあの時から、突然奇妙な能力が身に付いたと思った和子は、逃げられた人影の正体を突き止めに、自らのタイムリープで4日前にテレポーテートするのでした。

さて、4日前にタイムリープをした先に待っていたのは、深町一夫。
彼が人影の正体であり、彼こそがラベンダーの香りがする液体を作った張本人なのでした。
深町は、その真相を和子に語り始めます。

深町一夫は西暦2600年代の未来からやって来た未来人。
睡眠教育と科学の進歩により11歳でタイムリープの薬を発明した彼は、自ら実験台となって過去に来たのです。
しかし、未来に戻るには、自分が摂取した薬の効き目が弱く、理科実験室で再び薬を作り、未来へと帰る予定でした。
しかし、そこへ和子がやってきたために、慌てて逃げようとしたところ、薬の入っていた試験管を落としてしまったということでした。

幼馴染と思っていた深町がこの時代に居たのは実際1ヶ月。和子に恋をしたため、架空の歴史を作り、一緒にいたことにでっちあげたのでした。
しかし、歴史を変えることはできない。いくら好きでもこの時代にいつまでもいることはできない。
そうして一夫は全てを和子に話し、そして一夫がいたという記憶を一夫を知っている人から全て消し、未来へ戻っていくのでした。



さて、感想です。

SFというだけあって、少年少女向きでもかなり説得力のある文章でした。
まず、タイムリープできるのは「薬」のおかげなので、効き目の強弱があり、また次第に効果が薄まっていくこと。
また、架空の歴史を作ることは、催眠術の一種だと思えばいい、ということ。
こういった細かい設定をきちんとしておくと、現実的に違和感ないビックリマークということが伝わるのだと思います。

タイムリープの回数が決まっているなんて言われたら、残り回数1回のところで過去に戻ればいいってことになっちゃうじゃないですかガーン

ただ、現代諷刺の作品がお得意な筒井康隆さんのことですから、なんとなく和子や一夫、吾朗の描写が若干リアリティを感じにくい部分はありましたが。
しかし、昭和50年代前後の作品なので、この頃の少年少女はこういう感じだったのかしら・・・
そして、若干必要なのか?と思う部分もありました。
例えば、深町一夫が、ケン・ソゴルという名前だったとか。

冒頭の引用は、記憶を消された和子が、ラベンダーの匂いに何かを感じる、というラストの場面なのですが、この前からの和子と一夫の会話はなかなか楽しめました。



総合評価:★★★☆
読みやすさ:★★★★
キャラクター:★★
読み返したい度:★★




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 四十年前、昌子は一つの道を選んだ。
 ――あの年が分岐点――
 ほかの道を選んだら、どうだったろう。べつの可能性が皆無だったわけじゃない。ちょっとした弾みで事情が変わっていただろう。
 ――ポイントをガチャンと切り替えるようなことがあったら――
 まるでちがった人生を歩むことになっていただろう。
 ――それは、そんな人生だったかしら――
 もっとすばらしい人生・・・・・・。あるいは、はるかに辛い人生・・・・・・。もし知ることができるならば、知ってみたい・・・・・・。
 なかなかやって来ないバスを待ち続けながら、
 「さっきの転轍機のあったところ、通ったわね」
 「うん?」
 「あそこで線路が二つに分かれていたんでしょ」
 「ああ」
 「左へ行くとスポーツ・センター?」
 「むかしは、ちっぽけな運動場だったけど」
 「右のほうへ行くと、隣町ね。そこが終点?」
 「いや、隣町を抜けると、グルっとまわって、やっぱり山麓の運動場に着くんだ」
 「同じところへ?」
 「そう」
 「やっぱりねえ」
(p215,216より)

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さて、大好きな博学男爵、阿刀田高さんの短編集こんな話を聞いたを読んでみました。
1編ごとに、本編と繋がるような古今東西の挿話を文頭にもってきており、作品全体の統一性が図れているばかりか、阿刀田さんの博学さがさりげなくアピールされています。


今回は1篇ごとに簡単な感想を書くにとどめますが、以下はネタバレを含むので、嫌な方は見ないでください。
 









こんな話を聞いた (新潮文庫)/阿刀田 高
¥620
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~1回目 2011.10.17~

1.銃声・・・1点
 読むのを止めようかと思ったくらい、しょっぱなから駄洒落です。

2.案内人・・・4点
 なんとなく結末は分かるものの、そのオチ言わせ方が阿刀田さんは秀逸で、ゾッとさせることに長けています。こちらも案内人が死神という設定で、ある人の葬儀に参列することになった主人公が、会場への道に迷い、案内人らしき人が教えてくれた道へ行こうとすると・・・
結局その道には運よく行かず、途中でそれが違うことに気づくのですが、その道を行っていたら、死神の思い通りになっていたかもしれません。

3.つもり貯金・・・6点
 ○○したつもりでそのお金を貯金する大叔母。彼女が死んだ際に弁護士に遺言を残す。
甥は「自分に遺産を・・・」と考えるのですが、見事なスカシ。
 ○○したつもりで貯金を、貯金するつもりで○○するに代わってしまい、大叔母は借金を残して旅立っていたのでした。

4.骨細工・・・9点
 ほんの知り合いと再会し、その彼に誘われるまま彼の自宅に。主人公の美的センスに何か共感するもの感じていた彼は、ボーンアートについて話し始めます。特殊かつ精巧な技術を要求される芸術品で、妻の死後、彼も趣味に没頭し、ボーンアートを製作しているとのこと。主人公はそこに美を感じ、彼を褒めます。
 すると彼が最後の一言「家内にお会いになりますか」
 ぞぞーっときました。

5.鏡の中・・・1点
 妄想の果てしなく膨らむ男の話です。なんとなく恐いんだけど、それ以上に全然内容が頭に入ってきませんでした。

6.影法師・・・7点
 面白いです。ブラックユーモアとかではないんですが、実在する存在か、それとも良心の呵責が作り出した理性か、よく分からない境界を書いているところがなんとも面白い。
 さらに、主人公が誰かの影法師としての役を継いでいるところがさらに◎です。

7.愛犬・・・2点
 良いではないか、死んだ愛犬に似た男と結婚しようが。女性の愛が強すぎるゆえに、愛犬に似た男を生み出したとしても。

8.青いドレス・・・5点
 死期が分かるとしたら、何か分かるものがあるとしたら、それはすごく羨ましいです。急に逝ったり逝かれることは寂しくて仕方がありません。恐さもあるのだろうけど、私はただただ切なくて仕方がなかったです。

9.フランス窓・・・8点
 冒頭の引用はこの短編です。話の内容はさることながら、引用部分が阿刀田さんらしく達観している感じがあって好きです。「もし○○していたら」とはよく思うけれど、結局自分は自分である以上、結末はどちらを選んでも大きくは変わるものではないのかもしれないですね。

10.夢ひとつ・・・5点
 仲の良い新婚さん。クブラバリという与那国島にある岩場の裂け目。ここを妊婦が飛び越えれば生まれてくる子は強い子だとの伝説が残る。妻の英恵は飛び越え、その夜昇は妙な夢を見る。まるでまるで受精を案じさせるかのような。
「元気ですか」「元気です」の挨拶を交し合う2人がかわいらしい。

11.靴が鳴る・・・8点
 あまりの恐怖や嫌悪を経験すると、脳が思い出させないように蓋をしてしまうらしいですね。主人公の侑子もそれが理由で幼い頃の嫌な体験を今まで思い出さないようにしていました。しかし、シュッ、シュッという音と共に、思い出してしまうのです。祖父にされたことを。
いくつかの記憶が錯綜し、一つのところに流れ落ちて、確信が脳裏に蠢いた。」(p266)
この表現、すごく好きです。

12.捜しもの考・・・6点
 頭だけでなく、体も大事なことを忘れてしまった、可哀相な男の話。

13.猫婆さん・・・10点
 ぞぞっとしました。とても恐怖な話。オバケよりもよく分からない人間の方が恐いですね。
猫に餌をあげる奇妙なおばあさん。しかし、そのおばあさんが急にいなくなった後、おばあさんがいつも猫に餌をあげていた小屋には、12~3匹の猫が死んでいた。
そんな猫婆さんを13年ぶりに新宿で見かける。
かつての事情を知らない人がこう言う。
「あのお婆さんは感心で、弁当を作ってホームレスに配っている」と。

14.うわさ話・・・2点
 猫婆さんの反動か、全然ピンと来ませんでした。短編集って、配列も大事なんですね、と勝手に思う。とはいえ、別にこれがどの配列に来ても高得点って事はないだろうけど。自分的に。

15.鴨狩り・・・6点
 若い頃、頭のいい鴨を捕らえて上手い具合に調教し、その鴨を毎年やってくる鴨の集団をおびき寄せるために使った、というお婆さんの話。しかしお婆さんは老人施設で、鴨にした自分の行いを罪深く感じるようになったらしく、「私は悪い鳥です」と呟くようになったという。
 しかし、最後の7行で急展開。お婆さんはかつて特高のスパイであり、素知らぬ顔でオルグに侵入し、仲間を売っていたという・・・まさにお婆さんがあの当時、鴨の役をしていたのです。

16.蛇供養・・・2点
 こちらも「うわさ話」同様、なんとなくしか伝わってこず、ピンと来ませんでした。

17.遠い記憶・・・6点
 思わず笑ってしまったけれど、でも実生活においてもそういうことって多分にあるかもしれません。自分の前世がイタリア人で、闘技場でライオンに噛まれた、という恐ろしい記憶が鮮明に残っていると啓一は親戚の町子に話します。すると、奥の部屋で寝ていたお祖母ちゃん、その話を聞いていたらしく、啓一が赤ちゃんの頃に、ライオンのような大きな野良猫に噛まれたことがある、とのこと。

18.街のどこかで・・・7点
 入院している時に見舞いの友人からもらった望遠鏡。それを眺めると、妙な色の部屋を見つけます。気になった主人公は退院後、その部屋を訪れると・・・なんだかこの短編集ではあまりなかった不思議で恐怖な終わり方。でも色に吸い込まれていくという感覚、よく分かります。私自身も、熊本の草千里はなぜか恐いのです。あまりの緑に。これは誰に言っても未だ分かってもらえないけれど・・・



総合評価:★★★
読みやすさ:★★★★
キャラ:★★★
読み返したい度: