『時をかける少女』/筒井康隆 | こだわりのつっこみ

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 和子はいつも、学校の行き帰りに、小ぎれいな西洋風の家の前を通る。
 その家には、善良そうな中年の夫婦が住んでいて、庭には温室があり、その横を通るとき、かすかに甘い。ラベンダーの花のかおりが、ほのかににおってきて、ほんのしばらく、和子をうっとりと夢ごこちにさせるのである。
 ――ああ、このかおり。このにおいをわたしは、ぼんやりと記憶している・・・・・・。和子はそう思う。――なんだったかしら?このにおいをわたしは知っている。甘く、なつかしいかおり・・・・・・。いつか、どこかで、わたしはこのにおいを・・・・・・。
(p114,115より)

 
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少年少女向け、古典的SF名作の時をかける少女です。
何度も映像化されているので、作品を読まずともストーリーを知っている方もたくさんいらっしゃると思います。
私自身も、細田守さん監督のアニメ版を観た後に、この作品を読ませていただきました。
というのも、アニメ版にどうにも納得がいかなかったからです。
「これはSFではなく、ファンタジーだろう」と思ってしまって。
まあ、細田版『時をかける少女』は熱烈なファンの方も多くいらっしゃるのであまり口を大にしては言えませんが・・・
細田版に関してもいずれ、疑念と感想を書こうと思います。


さて、原典であるこの作品の
あらすじです。

背が高く痩せ型の深町一夫とずんぐりむっくりの朝倉吾朗と仲良しの芳山和子は、理科教室の掃除中、床に割れていた試験管からこぼれ出たラベンダーの香りがする液体をかいでしまいます。
その時に、人影を見たのですが、正体を突き止めるまもなく、その人影は逃げてしまいます。

香りを嗅いでからというもの、なんとなく地に足が付かないような気持ちだった和子でしたが、それ以外にはさしたる変化はありません。
その3日後、事件が起きます。夜中に地震が和子の住む町を襲い、それに伴って火事が発生します。
なんと火事の方向は朝倉の家。慌てて向かった和子は朝倉と遭遇して、結局火事は事なきをえます。
その日の朝、夜中の火事のせいで寝過ごしてしまった和子は、あわてて学校に向かいます。
同じように寝過ごした朝倉の姿を見つけ、一緒に学校へと向かいます。

すると突然、暴走したトラックが2人に突っ込んでくるではありませんか!
和子は目を閉じ、死を覚悟するのです。

何の衝撃もなく、目を開けた和子は家にいました。
あれは夢か、と思いながらも周りはいつもと変わらない様子。
狐につままれた感覚で登校しますが、どうやらおかしい。
というのも、昨日が繰り返されていたのです。授業も、会話も、何もかも。


 
では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。












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~1回目 2011.10.29~

では、あらすじの続きを。


昨日が全く同じように繰り返されることに戸惑う和子ですが、気づきます。夜中に火事があることを。
いきなり予言めいたことを言うなんて、変だと思われるかもしれませんが、和子は朝倉に地震が起き、火事が発生することを打ち明けます。
もちろん、朝倉吾朗は最初は信じませんでしたが、実際には本当に起こってしまうのです。
そして、もちろんその朝、暴走トラックも避けることができました。

これは、テレポーテーションをした結果ではないか、という深町一夫の発言と共に、和子は自身にいきなり備わった能力に驚きを感じたため、信頼の置ける理科の福島先生に相談します。
すると、福島先生は、場所の移動と時間の跳躍(タイムリープ)ができたからではないか、と3人に言うのです。

原因を探っていくと、どうやら理科室の掃除中、ラベンダーの匂いを嗅いだあの時から、突然奇妙な能力が身に付いたと思った和子は、逃げられた人影の正体を突き止めに、自らのタイムリープで4日前にテレポーテートするのでした。

さて、4日前にタイムリープをした先に待っていたのは、深町一夫。
彼が人影の正体であり、彼こそがラベンダーの香りがする液体を作った張本人なのでした。
深町は、その真相を和子に語り始めます。

深町一夫は西暦2600年代の未来からやって来た未来人。
睡眠教育と科学の進歩により11歳でタイムリープの薬を発明した彼は、自ら実験台となって過去に来たのです。
しかし、未来に戻るには、自分が摂取した薬の効き目が弱く、理科実験室で再び薬を作り、未来へと帰る予定でした。
しかし、そこへ和子がやってきたために、慌てて逃げようとしたところ、薬の入っていた試験管を落としてしまったということでした。

幼馴染と思っていた深町がこの時代に居たのは実際1ヶ月。和子に恋をしたため、架空の歴史を作り、一緒にいたことにでっちあげたのでした。
しかし、歴史を変えることはできない。いくら好きでもこの時代にいつまでもいることはできない。
そうして一夫は全てを和子に話し、そして一夫がいたという記憶を一夫を知っている人から全て消し、未来へ戻っていくのでした。



さて、感想です。

SFというだけあって、少年少女向きでもかなり説得力のある文章でした。
まず、タイムリープできるのは「薬」のおかげなので、効き目の強弱があり、また次第に効果が薄まっていくこと。
また、架空の歴史を作ることは、催眠術の一種だと思えばいい、ということ。
こういった細かい設定をきちんとしておくと、現実的に違和感ないビックリマークということが伝わるのだと思います。

タイムリープの回数が決まっているなんて言われたら、残り回数1回のところで過去に戻ればいいってことになっちゃうじゃないですかガーン

ただ、現代諷刺の作品がお得意な筒井康隆さんのことですから、なんとなく和子や一夫、吾朗の描写が若干リアリティを感じにくい部分はありましたが。
しかし、昭和50年代前後の作品なので、この頃の少年少女はこういう感じだったのかしら・・・
そして、若干必要なのか?と思う部分もありました。
例えば、深町一夫が、ケン・ソゴルという名前だったとか。

冒頭の引用は、記憶を消された和子が、ラベンダーの匂いに何かを感じる、というラストの場面なのですが、この前からの和子と一夫の会話はなかなか楽しめました。



総合評価:★★★☆
読みやすさ:★★★★
キャラクター:★★
読み返したい度:★★